お隣さんの可愛い後輩が俺にだけ滅茶苦茶優しい
第二十一話
「私をぼっちぼっちと言うけれど……私、言っておくけど校内じゃあみんなのあこがれの的なのよ?」
「それ自分で言うのかよ」
帰り道。すっかりいじけた顔でそう言う部長。
それを自分で言う辺り、たいそうな自信を持ってらっしゃるな。
普通恥ずかしくて言えないからな、そんなこと。
ただ、部長の言うとおりではあった。
教室にいるときの部長は、それこそ周りに誰も寄せ付けないようなオーラを持っていた。
だからこそ、俺は彼女を見かけても声をかけることはほとんどない。
めっちゃ話しかけてほしそうに視線を向けられても、俺は無視する。寂しそうにしている部長が可愛いからだ。
「ナツがせめて同学年だったら……私もアキとユキみたいな関係になれたのに」
完全な他力本願である。自分でどうにかしようと思わないのか。
「まったく……ナツももっと頑張って早く生まれてきてくれればよかったのに」
「滅茶苦茶いいますね先輩。ユキ先輩はどうですか? 同学年と後輩の私、どっちがいいですか?」
究極の二択を迫ってくる後輩に、俺は顔をしかめる。
「どっちか選ばないといけないのか?」
「それじゃあ先輩としての私も追加しましょうか」
俺は色々な彼女を想像してみる。
先輩だと……今以上に面倒そうだな。
同学年だと? ……それはそれで面倒そうだな。
……ダメだな。どれも面倒そうだ。
「俺は今のままでいいんじゃないかと思ってる。同学年のナツとかうざそ――絶対面倒な絡み方してくるだろ」
「うざいとはっきり言いましたね。私も、先輩は先輩だからいいかもしれません。……でも、先輩が後輩として接してくるのも少し見てみたいかも……」
ナツが何やら勝手な妄想をはじめた。
「アキはどうだ? 部長と同学年でよかったか?」
「よかった……というところにまずは疑問が浮かぶかな。部長と同学年でいいことなんてなかったよ」
そういって首を振るアキの表情は引くついている。嫌なら言うなっての。
部長はその言葉を受け、泣きそうである。いっその事泣き出せば、お互いの距離も縮まるのだろうが、そこは部長である。
気合で涙をおさえつけ、表情を怒りに染める。
「私もね。面倒なことばかりね。いつもいつも、暇さえあれば絡んできて。彼が後輩だったら、こういうこともなかったのかもしれないわね」
「なるほど、部長はアキが後輩だったらよかったということですね」
「誰もそうは言っていないでしょ!」
「嫌なんですか?」
「……しいてあげるなら、一番後輩がましじゃないかしら?」
けど、後輩になってもアキと部長は喧嘩していそうだな。
それから部長はがくりと肩を落とした。
「どちらにせよ……私はナツと同学年がよかったわね」
「安心してください。同じ学年になっても、部長をぼっちにしてあげますからっ」
「酷いわこの後輩! ユキ!きちんと指導しなさい!」
なんで俺が。
「先輩に私を指導できますか?」
「完璧な部長いじりだったぜ」
「はい、日頃の指導のおかげです」
「そっちじゃない! 先輩を敬うように指導して!」
ぐっと俺がナツに親指を立てる。部長がわんわん喚いていたが、無視無視。
「それで部長。なんの球技にするかは決めたの?」
アキの言葉に、部長の頬がひくついた。
「今年は、何があったかしら?」
「サッカー、バスケ、ソフトボール、バレーの4つですね」
ぴらっとナツがカバンからプリントを取り出す。さすが実行委員だな。
男子はサッカーで、女子はソフトボール。実質できるのは3つだな。
「なんだ、ソフトボールがあるじゃない。あれならほとんど個人競技だしそれでいいわ」
確かに。一理ある。連携が必要なのって守備くらいだろう。
その守備にしたって、学生の球技大会レベルなら、高度な連携を求められることもない。
まずゲッツーとか決まらないし。
「ソフトボールを個人競技と決めるのはさすがに敵を作りすぎじゃないかな」
「何がかしら? だって実質そうでしょ? あんなもの、個人がめっちゃ強ければそのチームが勝てるじゃない。野球もそうだけど、究極的に言えば最強の投手が全員三振にして、一人でホームラン打てば勝ちでしょ?」
「……そうだけど」
部長の極論に、アキも口を閉ざすしかないようだ。
発想がパワータイプだが、間違ったことは言っていないからな。
めっちゃ仲良しの凡人チームより、めっちゃ仲悪い天才チームのほうが強いだろうからな。
ソフトボールにしようと決めたからか、部長はずいぶんと余裕ある表情だ。
「そういえばアキ先輩とユキ先輩はバスケなんですよね?」
「ああ」
「ふたりとも得意なんですか?」
「めっちゃ得意だぞ。俺なんてほら、幻のシックスメンとか言われて、ベンチ温めてるし」
「忘れられてるだけじゃないですか?」
「……」
後輩の無慈悲な一撃に口を閉ざすしかない。
アキが苦笑している。
「ユキはうまいよ。特にパスだすのがね」
「……へぇ、なるほど。ユキ先輩、自分で動くの嫌で仲間に任せているんじゃないですか?」
「そんなわけないだろ」
「……凄いね、ナツちゃん。前にユキが言っていたとおりまんまだよ。ユキ検定一級だね」
「イエイ」
余計なことを言いやがって。
ナツがピースをしてきて、部長が笑う。
「確かに、ユキはそういうところありそうね」
「足を引っ張らず、なおかつ自分が動かないことを突き詰めた結果だ。パスに関しては下手なバスケ部部員よりもうまい自負がある」
「ニート根性凄まじいですね」
うるせぇ。
俺が呆れていると、アキが苦笑する。
「まあ、半分冗談で……ユキは普通にバスケうまいよ」
「へー、意外ですね」
「運動神経がいいんだよ。中学のときに――」
「余計なこと言ったらぶっ飛ばすぞ」
これ以上俺の黒歴史をばらまくのはやめてもらおうか。
部長とナツが納得したような声をあげている。まて、なぜ部長まで知っている。
「昔アキに聞いたことがあるのよね。やんちゃ、していたみたいね?」
「おいアキ」
「僕は知らないよー、何のことかなー」
……こいつ。
ケラケラと笑うナツに、俺はぶすっとした顔を返しておいた。
十字路についたところで、アキと部長が足をとめる。
俺たち三人はここで三方向に分かれる。俺とナツは同じアパートへ、アキは近くの実家へ、部長は近くの店で待機している車で家に帰るそうだ。
「それじゃあ、また明日ね」
「ああ。明日は部長の家でゲームでいいんだよな?」
「ええ。楽しみにしていてね、ナツ、ユキ」
「僕を意図的に省くのはやめてくれないかな」
「あら、来たいのかしら?」
「別に。行きたいわけじゃないけど」
そういったアキは唇を悲しそうに歪めている。
その返事を受けた部長も、泣きそうな顔である。
「まあまあ。みんなで楽しく遊びましょうね」
ナツがそれをやんわりとまとめ、今度こそ別れた。
「先輩。球技大会ってどのくらい盛り上がるんですか?」
「そりゃあもう結構派手だな。うちの学校はどうやらお祭り騒ぎが好きな奴らばかりらしいからな」
「私も先輩のこと応援しにいきますね」
「校内じゃあんまり関わるつもりないみたいなこと言ってたよな? 今日も声をかけてきたがなにかあったのか?」
「ほら、男子生徒と一緒にいたの気づきましたか?」
「ああ」
確かにいたな。
たぶん、ナツに惚れているのではないだろうか? と思えるような男子だった。
「結構積極的に声をかけられ、困っていたもので。向こうはそれなりに私に気があるようでしたので、先輩を盾にしました」
「おいこら。そうやって俺がまたよくわからん奴から嫉妬されるんだからな」
「そうなんですか? では盾にするのもあれですし、本当に付き合っておきますか?」
「そういうのは本当に好きな相手でも見つけて言ったらどうだ?」
「そうですか。それじゃあ本当に付き合ってみます?」
「故障したみたいに繰り返すな」
俺が額を小突くと、ナツは口元を緩める。
「照れました?」
「照れるかよ。おまえは顔真っ赤じゃねぇか。そういう冗談苦手なんだろ? 無理すんな」
「……」
うー、とナツが唸ってこちらを睨む。
まったく。もう少し大人になってもらいたいものだ。
「それ自分で言うのかよ」
帰り道。すっかりいじけた顔でそう言う部長。
それを自分で言う辺り、たいそうな自信を持ってらっしゃるな。
普通恥ずかしくて言えないからな、そんなこと。
ただ、部長の言うとおりではあった。
教室にいるときの部長は、それこそ周りに誰も寄せ付けないようなオーラを持っていた。
だからこそ、俺は彼女を見かけても声をかけることはほとんどない。
めっちゃ話しかけてほしそうに視線を向けられても、俺は無視する。寂しそうにしている部長が可愛いからだ。
「ナツがせめて同学年だったら……私もアキとユキみたいな関係になれたのに」
完全な他力本願である。自分でどうにかしようと思わないのか。
「まったく……ナツももっと頑張って早く生まれてきてくれればよかったのに」
「滅茶苦茶いいますね先輩。ユキ先輩はどうですか? 同学年と後輩の私、どっちがいいですか?」
究極の二択を迫ってくる後輩に、俺は顔をしかめる。
「どっちか選ばないといけないのか?」
「それじゃあ先輩としての私も追加しましょうか」
俺は色々な彼女を想像してみる。
先輩だと……今以上に面倒そうだな。
同学年だと? ……それはそれで面倒そうだな。
……ダメだな。どれも面倒そうだ。
「俺は今のままでいいんじゃないかと思ってる。同学年のナツとかうざそ――絶対面倒な絡み方してくるだろ」
「うざいとはっきり言いましたね。私も、先輩は先輩だからいいかもしれません。……でも、先輩が後輩として接してくるのも少し見てみたいかも……」
ナツが何やら勝手な妄想をはじめた。
「アキはどうだ? 部長と同学年でよかったか?」
「よかった……というところにまずは疑問が浮かぶかな。部長と同学年でいいことなんてなかったよ」
そういって首を振るアキの表情は引くついている。嫌なら言うなっての。
部長はその言葉を受け、泣きそうである。いっその事泣き出せば、お互いの距離も縮まるのだろうが、そこは部長である。
気合で涙をおさえつけ、表情を怒りに染める。
「私もね。面倒なことばかりね。いつもいつも、暇さえあれば絡んできて。彼が後輩だったら、こういうこともなかったのかもしれないわね」
「なるほど、部長はアキが後輩だったらよかったということですね」
「誰もそうは言っていないでしょ!」
「嫌なんですか?」
「……しいてあげるなら、一番後輩がましじゃないかしら?」
けど、後輩になってもアキと部長は喧嘩していそうだな。
それから部長はがくりと肩を落とした。
「どちらにせよ……私はナツと同学年がよかったわね」
「安心してください。同じ学年になっても、部長をぼっちにしてあげますからっ」
「酷いわこの後輩! ユキ!きちんと指導しなさい!」
なんで俺が。
「先輩に私を指導できますか?」
「完璧な部長いじりだったぜ」
「はい、日頃の指導のおかげです」
「そっちじゃない! 先輩を敬うように指導して!」
ぐっと俺がナツに親指を立てる。部長がわんわん喚いていたが、無視無視。
「それで部長。なんの球技にするかは決めたの?」
アキの言葉に、部長の頬がひくついた。
「今年は、何があったかしら?」
「サッカー、バスケ、ソフトボール、バレーの4つですね」
ぴらっとナツがカバンからプリントを取り出す。さすが実行委員だな。
男子はサッカーで、女子はソフトボール。実質できるのは3つだな。
「なんだ、ソフトボールがあるじゃない。あれならほとんど個人競技だしそれでいいわ」
確かに。一理ある。連携が必要なのって守備くらいだろう。
その守備にしたって、学生の球技大会レベルなら、高度な連携を求められることもない。
まずゲッツーとか決まらないし。
「ソフトボールを個人競技と決めるのはさすがに敵を作りすぎじゃないかな」
「何がかしら? だって実質そうでしょ? あんなもの、個人がめっちゃ強ければそのチームが勝てるじゃない。野球もそうだけど、究極的に言えば最強の投手が全員三振にして、一人でホームラン打てば勝ちでしょ?」
「……そうだけど」
部長の極論に、アキも口を閉ざすしかないようだ。
発想がパワータイプだが、間違ったことは言っていないからな。
めっちゃ仲良しの凡人チームより、めっちゃ仲悪い天才チームのほうが強いだろうからな。
ソフトボールにしようと決めたからか、部長はずいぶんと余裕ある表情だ。
「そういえばアキ先輩とユキ先輩はバスケなんですよね?」
「ああ」
「ふたりとも得意なんですか?」
「めっちゃ得意だぞ。俺なんてほら、幻のシックスメンとか言われて、ベンチ温めてるし」
「忘れられてるだけじゃないですか?」
「……」
後輩の無慈悲な一撃に口を閉ざすしかない。
アキが苦笑している。
「ユキはうまいよ。特にパスだすのがね」
「……へぇ、なるほど。ユキ先輩、自分で動くの嫌で仲間に任せているんじゃないですか?」
「そんなわけないだろ」
「……凄いね、ナツちゃん。前にユキが言っていたとおりまんまだよ。ユキ検定一級だね」
「イエイ」
余計なことを言いやがって。
ナツがピースをしてきて、部長が笑う。
「確かに、ユキはそういうところありそうね」
「足を引っ張らず、なおかつ自分が動かないことを突き詰めた結果だ。パスに関しては下手なバスケ部部員よりもうまい自負がある」
「ニート根性凄まじいですね」
うるせぇ。
俺が呆れていると、アキが苦笑する。
「まあ、半分冗談で……ユキは普通にバスケうまいよ」
「へー、意外ですね」
「運動神経がいいんだよ。中学のときに――」
「余計なこと言ったらぶっ飛ばすぞ」
これ以上俺の黒歴史をばらまくのはやめてもらおうか。
部長とナツが納得したような声をあげている。まて、なぜ部長まで知っている。
「昔アキに聞いたことがあるのよね。やんちゃ、していたみたいね?」
「おいアキ」
「僕は知らないよー、何のことかなー」
……こいつ。
ケラケラと笑うナツに、俺はぶすっとした顔を返しておいた。
十字路についたところで、アキと部長が足をとめる。
俺たち三人はここで三方向に分かれる。俺とナツは同じアパートへ、アキは近くの実家へ、部長は近くの店で待機している車で家に帰るそうだ。
「それじゃあ、また明日ね」
「ああ。明日は部長の家でゲームでいいんだよな?」
「ええ。楽しみにしていてね、ナツ、ユキ」
「僕を意図的に省くのはやめてくれないかな」
「あら、来たいのかしら?」
「別に。行きたいわけじゃないけど」
そういったアキは唇を悲しそうに歪めている。
その返事を受けた部長も、泣きそうな顔である。
「まあまあ。みんなで楽しく遊びましょうね」
ナツがそれをやんわりとまとめ、今度こそ別れた。
「先輩。球技大会ってどのくらい盛り上がるんですか?」
「そりゃあもう結構派手だな。うちの学校はどうやらお祭り騒ぎが好きな奴らばかりらしいからな」
「私も先輩のこと応援しにいきますね」
「校内じゃあんまり関わるつもりないみたいなこと言ってたよな? 今日も声をかけてきたがなにかあったのか?」
「ほら、男子生徒と一緒にいたの気づきましたか?」
「ああ」
確かにいたな。
たぶん、ナツに惚れているのではないだろうか? と思えるような男子だった。
「結構積極的に声をかけられ、困っていたもので。向こうはそれなりに私に気があるようでしたので、先輩を盾にしました」
「おいこら。そうやって俺がまたよくわからん奴から嫉妬されるんだからな」
「そうなんですか? では盾にするのもあれですし、本当に付き合っておきますか?」
「そういうのは本当に好きな相手でも見つけて言ったらどうだ?」
「そうですか。それじゃあ本当に付き合ってみます?」
「故障したみたいに繰り返すな」
俺が額を小突くと、ナツは口元を緩める。
「照れました?」
「照れるかよ。おまえは顔真っ赤じゃねぇか。そういう冗談苦手なんだろ? 無理すんな」
「……」
うー、とナツが唸ってこちらを睨む。
まったく。もう少し大人になってもらいたいものだ。
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