お隣さんの可愛い後輩が俺にだけ滅茶苦茶優しい

木嶋隆太

第十六話





 いくつか乗り物を乗った後、俺たちは昼を食べるために部長たちと合流した。
 昼ごはんの後――今日の目的であったお化け屋敷へとくることになった。


「り、リニューアルオープン!?」


 お化け屋敷に到着した部長が驚いたように声をあげていた。
 いい顔である。先ほどまでどこか余裕があった彼女は今、頬を引きつらせていた。


 俺も驚いているんだがな。
 ……連絡してすぐ、そこまで大きく作り替えたのか?
 改めて、部長の父親の力を見せつけられた気がした。


 まあ部長の魂が抜けたような顔が見れたのは良かった。
 事情を知っている俺とナツが密かに満足していると、ちょうどお客が出口から現れた。


 悲鳴をあげ、目には涙を浮かべながら現れたカップルと思われる人たち。
 彼らを見たアキと部長の表情も引きつっていた。


「や、やっぱり……やめないかしら? 人間というのは賢い生き物なのよ? わざわざ心臓に負担をかけるようなことをする必要はないわ」
「そ、そうだよ……誰かに驚かされることによって発生した恐怖はね、人間にとって強いストレスになるんだ。心臓に負担がかかり、うまく血液が循環しないってこともありえるんだよ」


 アキがさすがの賢さを披露する。


「そういうのは、もともと体の弱い人に起こることだろ?」
「そ、そうじゃないよ。例えば、過剰にストレスを受けたときとかも起こりうるんだ。災害などのあとにも似たような問題が――」
「大丈夫だ。人間ってのはどうしようもなくなったときは気絶してやり過ごすからな」
「そこまで行ったらまずいのよ!」


 おまえらどんだけお化け屋敷嫌なの?
 二人で可愛く震えあがっているのを見て、ため息をついた。


「ま、それなら仲良く引き分けでいいよな?」


 仲良く、という言葉で賢い彼らは一瞬で気づいたようだ。
 そう――つまりこの二人は同じ立場になるということ。
 それはプライドの高い彼らには許せないことだったようだ。


「い、いや……僕はお化け屋敷ごときで驚くようなつもりはないよ」
「わ、私もよ? ねぇ、アキ。あなた足が震えているけれど、大丈夫かしら? やめた方がいいのでは?」
「べ、別にこれは震えているわけじゃないよ」
「どう見ても震えているけれど? 本当は怖いのでは? 今なら、リタイアできるわよ?」
「これは震えているわけじゃない! 尿を我慢しているだけだ!」
「トイレ行けよ」


 アキの宣言に俺がぼそりといったが無視される。


「そういう部長こそ――」


 と、今度はアキが部長をあおり始めた。
 もうすぐ俺たちの番になるのだが、その前に、一つ確認しておこうか。


「そういえば、パンフレットにもあったが。出口で写真をとってくれているらしい」
「しゃ、写真?」


 もう次に部長たちの順番となる。部長の声が震えている。


「ああ。その写真に綺麗に映っていたほうが勝ちってことでいいんじゃないか?」
「な、なるほど……写真映りはいいほう、だからね、僕は……っ」


 それはよくわかる。
 アキはたとえカメラを向けられても嫌な顔一つせず、なんならピースまでするような奴だ。 
 対照的に、部長はカメラを向けられるとブスっとした顔になる。写真が嫌い、というのはまあわからんでもない。


「お次のお客様、入って大丈夫ですよー」


 スタッフさんの声が響き、アキと部長の肩が跳ねあがる。
 俺はアキの背中を押した。


「それじゃあ二人とも頑張って来いよ」


 二人ががちがちになったまま首を縦に振った。


「あの二人。まったく二人で入ることに関しては文句言いませんでしたね」
「だな。本当は一緒にいたいんだろ?」


 単純に、そこまで頭が回らなかったのかもしれない。


「あっ、先輩。私も怖いのダメなので、手をつないでもいいですか?」
「そういえばそんなこと言ってたな」


 俺が手を出すと、ナツはすぐにつかんだ。


「それでは次のお客様、どうぞー」


 スタッフの声とともに、俺たちは中へと入っていった。
 かなり作りこまれているな。中のモデルは病院、といったところか。
 廃病院をモデルに作っているようで、俺たちはその廊下を歩いていく感じ。


 とても暗いが、明かりが明滅を繰り返しているのでなんとか視界は確保できているという感じだ。


 人魂のようなものが過ぎて行ったり、謎の陰のようなものが動いていったり――雰囲気で怖がらせるようなものが多い。
 ……これ、あいつら大丈夫か? マジでそこら辺で気絶しているのではないだろうか。


 だって、ナツだって何か音や動きがあったときに肩を跳ね上げているんだからな。


「先輩……大丈夫なんですか?」
「かなり作りこまれているな、くらいには思うが……まあ大丈夫なほうだ」
「……そ、そうなんですね」
「それにしても、部員四人中三人がホラーダメだと心霊スポットになんていけないな」
「行く気だったんですか?」
「昔、心霊スポットとかをめぐるゲームをやってからそういうのをいつかやってみたいと思ったことはある」
「……そうなんですね」


 ナツの声はいつもよりか細い。
 彼女の手を改めて握る。


「そんなに怯えるなって。何かあったらいつものごとく、俺を盾にしてくれればいいんだしな」
「……」


 ナツは俺の顔を見て、軽く微笑む。


「そうですね」


 ふふん、とからかうような笑みを取り戻した。
 これで復活するっていうのは少し酷いんじゃないだろうか?


「いざというときは先輩を身代わりにしますね」
「ああ、そうしてくれ」


 時々何かあれば俺の手をぎゅっと握ってくるが、握り返すと笑顔になっていた。
 そうして、出口が見えてきた。


「どのあたりで写真をとっているのでしょうかね」
「……さあな。このあたりから気にしたほうがいいかもな」
「わかりました」


 そういうと、ナツは俺の腕に抱き着いてきた。
 女性特有の柔らかな感触が俺の左腕を包む。胸なくても、柔らかいって思うんだな。


「何で?」
「こっちのほうがカップルっぽくないですか?」
「見られてどうするんだ」
「先輩を困らせる?」


 よくわからんが、ナツは俺から離れなかった。
 やがて外に出てきた。いきなり明るくなったため、目が変化に慣れていなかったが、それもすぐに終わる。


「あちらで、撮影した写真がありますので、欲しかったら言ってくださいねー?」


 スタッフに従ってそちらへ向かう。
 写真がモニターに映し出されている。
 その近くでは膝をつき、息の乱れた二人がいた。


「し、死ぬかと思ったわ」
「……」


 部長とアキの写真を見てみる。
 二人の体はぶれていた。どうやら走ったようだ。スタッフが走るな、とか言っていた気がしたが……それどころじゃなかったんだな。
 ゴール前で全力ダッシュとか、ホラー映画だと確実に死ぬ奴だよな、とか思っていると、ナツが写真を一つ購入した。


 俺たちの写真だ。ナツが俺に抱き着いていて、なんかカップルっぽく見えなくもない。


「なかなかいい感じに映っていますね」
「みたいだな。けど、そんなのでよかったのか?」
「はい、かなりいいです」


 それならいいんだがな。
 とりあえず、部長とアキは引き分けってことでホラー対決は終わりだ。

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