お隣さんの可愛い後輩が俺にだけ滅茶苦茶優しい
第十四話
目的の遊園地までは電車を乗り継いでいく必要がある。
そのため、俺たちは全員駅前に集合していた。
まあ、とはいっても。俺とナツは同じアパートなので、一緒に行くんだが。
駅前につくと、2人はすぐに見つかった。
「美男美女のカップルって……いるのね」
「……凄いよな。モデルとかしてるのかな? どっちもすげぇわ」
という感じで注目を集めているからだ。
おしゃれに着飾った部長とアキがお互いに横目で睨み合っている。
「よっ、美男美女のカップルさん」
「だ、誰と誰がカップルだよ!」
そういうアキだが、ちょっと嬉しそうである。
「周りに噂されてんぞ」
「……まったく。どいつもこいつも、男女がいるだけで勝手に勘違いするんだからね。ほんと、面倒臭いよ」
アキは肩を竦めてそういった。
「そういや昔。女友達と遊びに行って、勘違いされたことあったとか言ってたな?」
「また相手がその勘違いを嬉しそうにしていてね。あれは最悪だったね」
アキが淡々といって首を振っていた。
それを凄い形相で睨んでいる部長。
「部長はそういう経験あ――」
「わざとらしく言いかけてやめてくれるかしらね……。私、そもそもそういう風に出かけるの好きじゃないのよね」
外出ること自体嫌いそうだもんな。
ゲーム部の活動のほとんどが室内だしな……。
「それで? どうしておまえら睨み合ってたんだ? どうせくだらないことなんだろうけど聞いてやるよ」
「……」
「……」
二人はくだらないことにびくり、と反応した。
俺はスマホで時間を確認する。周囲にいた人たちの噂っぷりから色々考える。
「おまえら、随分と早く来てたみたいだな」
「……さすが、よく気付いたね。そう。僕たちが喧嘩していたのはどちらが先に来ていたか、だよ」
「そんなしょうもないことで喧嘩していたのは予想外だぞ」
「なんですって? これは、戦いよ」
部長がぶすっとむくれた顔でそう言ってきた。
「別に集合時間にくればいいんだからそんな変なところでマウントの取り合いをしないの」
「そうですよ。お二人は偉いですよね。どこかの先輩の話なんですが、部屋へ起こしに行くまで寝てた人もいるんですからね」
「仕方ないだろ寝つけなかったんだから」
「楽しみだったからですか?」
「ずばりそうだな」
若干寝不足である。一応朝食は、こんなこともあろうかということでナツが用意してくれたおにぎりを道中歩きながら食べた。
俺たちを見ていた二人は軽く息を吐いた。
「ま、そうだね。楽しみなのは確かだね。久しぶりに、こうして遊びにいくし」
「私もね」
「部長の場合、久しぶりどころか初めてじゃないの?」
「……」
言い返せないのか部長……。部長は泣きそうな顔で歩いていった。
いや俺もプライベートで友達と遊園地とか行ったことなんてないんだがな。
「ほらみなさん。早くしないと電車来ますよ」
電車案内のアプリをこちらに向けたナツの言葉に、俺たちは電車に乗りこんだ。
「……随分と混んでいるのね」
「そりゃあ休日だからね。このぐらいはわりと普通じゃないかな、ねユキ?」
「休日の電車に乗ったことないからな……どうなんだナツ」
アキからのパスをナツに回すと、彼女は顎に手を当てる。
「まあ、普通ですよね。ぎゅうぎゅうではないですけど、椅子に座れないくらいは」
「あとは向かう方角も関係しているよね。たぶんみんな遊園地を目指しているんじゃないかな? だから混むんだよ。あとはスポーツとかの試合が開催される日も結構混むね」
さすが、よく外に出るだけあって詳しい奴だ。
電車で三十分ほど揺れたところで、目的の遊園地についた。
すでにかなりの人である。テレビで話題になっていたが、実際に来たことはなかったな。
列にならび、俺たちは持ってきたチケットを渡して中に入っていく。
中に入る際、人が随分と多く、少し押される形になった。
瞬間、アキが動いた。さっと部長を守るように。
「……大丈夫?」
「あ、ありがとう……」
「ま、一応、ね」
照れ臭そうにしている二人。
アキは不満そうな顔でそっぽを向き、すぐあとに部長も視線を外に向けている。
二人の頬は、よほどの羞恥があったのか、赤くなっていた。
「やっぱり気が利きますよね」
「だな。ああいうさりげない気遣いに、部長は惚れたのかね?」
「そういえば、以前話したじゃないですか。なんで好きになったのかって」
「そういえば、そんな話したな」
「先輩聞いてないんですか? 私は聞きましたけど……アキ先輩の優しさというよりも気兼ねなく話してくれるところがいいみたいですよ?」
「気兼ねなく?」
「ほら、部長ってそれなりの立場の人じゃないですか? けど、アキ先輩ってまったくそういうの考えてないですよね」
「……あいつ頭いいけど、そういうところに頭回らないからな」
「それがよかったみたいですよ。そういう意味では、先輩も気に入っているみたいですよ」
「俺をか? そりゃあ嬉しいことで」
「もしかしたら。少し何か変わっていたら、部長は先輩のことを好きになってたかもしれませんね」
「マジかよ。残念だな」
「やっぱり残念に思いますか?」
「そりゃあそうだ。あんな美少女に好かれるとか全人類の夢じゃないか?」
「私はよかったですね」
「部長が変な男に引っかからなくてか?」
「はい」
そういった彼女は、満面の笑顔すぎて泣きそうだ。
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