お隣さんの可愛い後輩が俺にだけ滅茶苦茶優しい

木嶋隆太

第十二話



「ビビりちゃん。私のほうがホラー耐性あることを証明できたわね」
「こんなの先攻のほうが不利だよ! 僕がビビらなかったところで、ビビらなければいいだけじゃないか!」
「あら、負けを認められないのはみっともないわよ。人間は反省することで、前に進めるのよ?」


 結果だけでいえば、部長の勝利だった。
 まさに今アキが言った通り。部長はアキがビビったところまで踏ん張って見せた。
 その後数秒後に悲鳴をあげたのでほぼ引き分けなんだが、その数秒だけで部長はイキっていた。


「……くっ。ねぇユキ」
「なんだビビり」
「そ、その言い方はやめてくれないかな。……今回のは不公平だ。公平な勝負をしたい!」
「おまえ、このゲーム持ってきたときのセリフ覚えてる?」
「なに!?」
「俺の負担を減らすがどうたらいって、結局俺が決めるのか?」
「覚えてるよ! けど負けたままは嫌だっ!」


 負けは認めたようだ。


「まぁ? 何をやっても私の勝ちは変わらないけどー?」


 すっかり調子に乗られているようだ。
 そこで俺は遊園地のチケットを二枚、取り出して二人に見せた。


「なにかしらこれ?」
「それは近くの遊園地のチケットだ。昨日偶然くじ引きで当たってな。そこのお化け屋敷結構怖いらしいぞ」
「……ま、まさか」


 アキの表情が引きつる。見れば、部長の頬もひくついていた。


「二人で行って悲鳴をあげなかったほうが勝ちでいいんじゃないか?」
「……」


 二人が顔を見合わせる。
 おそらく、この二人は今内心であれこれ考えていることだろう。
 そして、数秒後二人の顔が赤くなった。


 結論に至ったようだ。『これデートじゃね?』みたいな。


「さ、さすがに本物は――」
「本物ならあれだぞ? 近くのホラースポットだぞ?」


 まあいるのはお化けよりもヤンキーの割合のほうが高いが。
 そこで部長ははっとした様子で顔をあげる。


「これ、あなたたちで行く予定だったんじゃないの?」
「まあ、そうだが。別にいつでも行けるしな。それより、俺たちはおまえらのホラー決戦の結末がみたいんだが。おまえら、ホラーに強いんだろ?」
「も、もちろん」
「わ、私もよ」


 部長は少し考えるように顎に手をやり、


「……ちょっと待ちなさい」


 スマホを取り出し、連絡した。
 相手は父親のようだ。


「うん、うん。あー、やっぱり? この遊園地知り合いが運営しているのね? それじゃあチケット二枚準備とかってお願いできる? うん、ありがとね」


 ……そういや部長、金持ちだったな。
 スマホをしまった彼女はにっこりとはにかんで、チケットをこっちに渡してきた。


「パパに言ったら二枚くらい余裕で準備できるそうよ」
「……娘と違って交友関係広いよな」
「む、娘と違っては余計よ! 私だって、それなりに知り合いはいるほうよ! 昔なんて婚約者もいたくらいよ!」
「こ、こん――」


 アキが泣きそうな顔でぼそりとつぶやいた。
 かわいそうなので聞いておくことにした。


「そういうもんなんだな。今は?」
「私がパパに嫌っていったら、なくなったわ」
「……それでなくなるんだな」
「まあね。とりあえず、これでホラー対決の延長戦をあなたたちも見れるわね」


 ふふん、と部長が得意げに胸を張る。
 その視線はナツに向けられている。


「部長……ありがとうございます」
「このくらいいいのよ。私だって、あなたの邪魔をしたいわけじゃないんだしね」


 何の話だ?
 ナツは嬉しそうに笑っている。


「以前、部長友達の作り方を聞いてきたことがありましたよね」
「そ、それをいきなり言わないでくれるかしら!?」
「今のような気遣いをもっとクラスの人にもできれば、友達も増えますよ」


 うっと部長は怯む。……後輩にそんな相談してたんだな部長。
 部長は恥ずかしそうに顔をうつむかせ、


「そ、それは……ナツだからできただけで……」
「……部長!」


 ナツが嬉しそうに部長へと抱き着いた。
 彼女は胸に顔を押し付けている。羨ましい限りだ。


「もう……まったく」


 部長がそんなナツの頭を撫でている。


「土日、どっちに行く予定なのかしら?」
「そうですね。明日で良いのではないでしょうか? 確か、土曜日ってあまり天気よくなかったですよね?」
「そうだったわね。それじゃあ、明日。楽しみにしているわね」
「それにしても、この部で出かけるのってこれが初めてですかね?」
「そうね……土日はだいたいここで一日ゲームしていたくらいだし。いうなればこれは……遠征ね!」


 ただ遊びに行くだけなんだが。


「遠征ですか……部活動らしい響きですね」
「ええっそうね!」
「ただまあ、男女二人組が作れますからダブルデートみたいに周りからは見えるかもしれませんがね」
「で、デートぉ……」


 部長はその言葉にすっかり困った様子で、顔を真っ赤にしている。
 ちらとアキを見ると彼も同じような顔である。
 俺と目が合った彼は、隠すようにそっぽを向いた。


「その場合どうなるんだペアは?」
「私と部長。アキ先輩とユキ先輩ですかね」
「それはちょっと興味あるわね」


 若干腐っている部長が、復活した。目がイキイキしていらっしゃる。


「普通男女だろ」
「じゃあ私とユキ先輩にしますか。余ったお二人でご自由にですかね」
「え、うぅぅ……」


 復活した部長はまた顔を真っ赤にうなっている。
 その言葉の意味を理解したのだろう。アキも耳まで真っ赤にしていた。


 にやぁ、と意地悪くナツの目が細められた。
 ナツは部長の好きな相手を知っているからな。それゆえに、ある程度までからかえるというわけだ。


「どうしたんですか部長。アキ先輩とは嫌ですか?」
「え? あ……その」


 なんと答えるか迷っている様子だ。
 普段ならば嫌、というのだろうが……さすがにそう断言するのもためらわれる、そんな表情である。
 しばらく視線をあちこちにさまよわせたあと、彼女は腕を組んだ。


「まあ、別に? デートではないけれど、このくらいであれこれ言うつもりはないわ」


 嫌ではない、ということを精一杯表現したんだろう。
 必死にひねり出しましたという感じでアキを睨みつけていて、カワイイと思えた。
 なので、今度は俺が援護する。


「アキはどうなんだ?」
「……え!? えっと……まあ」


 彼もまた似たように表情を変えたあと、


「別に。デートとかそういうのじゃないけど。正しい遊園地の遊び方を教えてあげようかな。部長、どうせ一人でしか行ったことなさそうだしね」
「はぁ? 小学校のころの遠足で行ったのだけど?」
「どうせ、グループでの行動でしょ?」
「私一人で行動したけれど?」
「……ごめん」
「謝るんじゃないわよ!」


 思い出したのだろう。部長は涙目で叫んだ。
 帰り際……部長はどこか勝ち誇ったような表情を浮かべていた。


「ホラー対決、負けるつもりはないわよ」
「僕もね」


 ばちばちと二人は睨みあっていた。
 部長の余裕っぷりは気になった。まあ、いくつか心当たりはあるが。

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