お隣さんの可愛い後輩が俺にだけ滅茶苦茶優しい
第十一話
「ゲーム部みんなで遊ぶときってだいたいいつもユキがゲームを選んでくれてたよね? 僕も彼の負担を減らそうと思って、少し考えたんだ」
「どうせくだらないことでしょう」
そう否定した部長に、アキの口角が吊り上がった。
「たまには別の人がゲームを持ってくるんだ。そうすれば、ユキがゲーム選びにかける時間もなくなるでしょ?」
「なんて画期的……っ!」
「それよりかは動画編集でも手伝ってくれたほうがいいんだがな」
ゲーム選ぶのは別に苦ではない。
そんな俺の心情を理解しながらも、アキは無視するという選択をした。
あとで後悔するんじゃないぞ。
「僕が用意したのは、このVRゲームだ」
わかりやすくいえばP○VRだ。
彼が自慢げにこちらに見せてきたそれに、部長が首をかしげた。
「それは私も持っているけれど、一体何のゲームを用意したのかしら?」
「それがこれだ」
彼がすっと取り出したのはバイオなハザードだ。
……まあ、わかりやすいゲームではある。
結構怖いと評判になっていたからな。俺は怖さよりも酔いが先に来たが。
VRをつけなければ問題なく出来た。
ひくっと顔を青ざめたのは部長だ。それを見てアキの笑みが濃くなる。
作戦成功ってところだろう。
「僕は一度やったんだけど、なかなかクリアが難しくてね。まあ、こうなればと思い、仕方なく……部長にお願いしようと思ってね」
珍しくアキが下手に出ていた。こうすることによって、部長が断りにくい状況を作っているのだろう。
「部長……どうしたの? まっさーかぁ」
うわ、アキがうざい顔してる。
俺にはうざい顔だが、たぶん学校の女子大半が見ると、かっこいい顔、とかドSのアキ様も素敵! とか言うのだろう。
俺があの顔をしたら不審者で終わりそうだ。それも、電柱の裏側に隠れているような感じの。
「怖い、なんてことないよね?」
「アキおまえホラーゲーム駄目だろ」
「うぇ!?」
昨日ナツには伝えそびれてしまったが、アキはホラーゲームが苦手だ。
克服しようといつも買うが結局駄目で俺の隣で見ているのだ。
それでクリアした気になる。それがアキの常日頃。
彼はFPSとかも得意なので、こういったアクションホラーはホラー部分さえなくなればできる。
今にも泣き出しそうな顔のアキに、反対に一転攻勢となった部長が笑みを浮かべる。酷薄なものだ。
「へぇ。あなた怖いの駄目なのね。まるで子どもね」
「そ、そんなこと……ないよ。僕はまったく怖いものは平気だよ!」
「それなら、今ここで証明してくれないかしら?」
「そ、それは……なるほど。そうやって言い逃れようとしてるんだね」
「な、なんのことかしら?」
「部長。キミも先ほど、顔面蒼白になっていたよ!」
「生まれつき肌が白いの」
「露骨に表情が険しかったよ!」
「な、何よ! あなたいきなり私にそんな言いがかりつけて……っ! どこに根拠があるの! 根拠を示しなさい」
「部長ホラーゲーム駄目じゃないですか」
「ナツゥゥゥ!」
部長が勢いよく叫んだ。
くしくも、これで二人ともホラーが駄目なのが発覚したな。
部長はナツを、アキは俺を涙目で睨んできている。
「それじゃあ、こうしようか。お互いにゲームをプレイして、どちらが悲鳴をあげずにより長くストーリーを進められるかってのはどうだ?」
「そ、そうね……なかなかいい案だわ」
「……僕はホラーなんて別に大丈夫だよ。まったく、余計な嘘をつくんだからユキは」
そういう二人はまだ何もしていないのに全力疾走したあとのような息切れを起こしている。
「先輩。ですが、これだと後攻のほうが有利なのでは?」
「……確かにそうだな」
驚かせる手法として、大きく分けて2つ。
いきなり大きな音を出すなどだ。これをホラーと認めないという人もいるが、分かりやすいだろう。
あとは、単純に雰囲気が怖い奴。廃墟の洋館とか普通にあるきたくないだろう。ああいう感じ。
だいたいのゲームでどちらも採用されている。ただ、このゲームでは序盤いきなり扉があいて大きな音がしたりするからな。
そういうのは知っていればあまり驚かない。
すでに雷に怯える子どものようにガタガタしている二人は、仮に知っているギミックでも魂抜けるかもな……。
だから、先行後攻は大事だ。だが、
「まあ、そんなに大きな違いはないと思う。アキは俺の隣でクリアまで見ているからな。もちかけたのはアキだし、おまえが先攻でいいだろ」
「……くっ」
納得したようだ。
今アキは滅茶苦茶集中しているときの顔をしている。
恐らく彼は、その無駄に記憶力の良いできの良い頭をフル回転させ、当時の状況を思い出しているに違いない。
そして、対抗するは部長だ。
彼女も恐らくだが、動画などで見たことがあるのかもしれない。記憶を掘り起こしている様子だった。
どっちも目が血走っていて恐ろしい形相である。
ゲームの準備を終えたところで、アキの頭にヘッドマウントディスプレイを装着する。
まもなくゲームが始まった。ゲーム開始直後であるにも関わらず、アキの体は震えている。
「……大丈夫、大丈夫」
ぼそぼそと自分に言い聞かせるようにアキは呟いている。
それから開始五分もせずに悲鳴をあげ、けらけらと部長が笑っていた。
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