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お隣さんの可愛い後輩が俺にだけ滅茶苦茶優しい

木嶋隆太

プロローグ2



「先輩、部屋の掃除をしたのはいつですか?」
「……春休みが始まってからは一度もしてないな」
「……はぁ、まったく。ダメダメですね」


 初対面の女子にどうしてここまで言われなければならないのだろうか。
 反論するための言葉を考えたが、どれも俺のずぼらさを棚上げすることにしかならないな。


 俺はゴミ袋にいらないものをまとめていく。


「先輩、普段からこんな感じなんですか?」
「いや、普段はもう少しだけ、綺麗だぞ?」
「なるほど、こんな感じなんですねー?」


 からかうように口元をニヤニヤと緩めてこちらを見てくる。
 ……年下に見透かされているとか、情けないな。
 そんなことを考えながら、俺は部屋を片付けていく。
 しばらく、部屋を片付けていったときだった。すっと、能倉が一つのゲームを取り出した。


「先輩、こういうゲーム好きなんですか?」


 ……げぇ。
 ギャルゲーをまとめておいていた場所が掘り起こされてしまっていたようだ。
 能倉が一つのゲームを掴んで、小首を傾げながら口元をにやにやと緩めていた。
 恥ずかしさで頬が熱くなる。けど、もうばれてしまったのなら仕方ない。
 俺は諦め、開き直って堂々とすることにした。


「まあな。モテない俺みたいな男の心を慰めてくれる素晴らしいゲームだ」
「あっ、やっぱりモテないんですか?」
「やっぱりってなんだやっぱりって」
「いやー、なんとなくー? みたいなー」


 あはは、と今時な感じで笑う彼女に、ぶすっとした顔を向けるしかない。
 それからさらに時間をかけて、ようやく部屋の掃除が終わった。
 フローリングの見えなかった床が、今ではすっかり綺麗になっていた。


「ふー……結構大変でしたね」


 額に浮かんだ汗を拭いながら、彼女が息を吐いた。


「……手伝ってくれてありがとな」
「いえ、別にいいですよ。先輩、それじゃあもう絶対にあんな部屋にならないようにこまめに掃除してくださいね」
「……ああ、わかったよ」
「それなら、いいんです」


 次は能倉はいないだろう。
 二人がかりで半日かかった部屋の掃除だ。
 これからはこまめに片づけないといけないな、と思わされた。


 部屋でしばらく休んでいると、ちらと能倉がゲームの積まれた棚を見ていた。


「先輩って、ゲーム好きなんですか?」
「ああ、まあそれなりにな」
「へー、そうなんですね。ゲーム部って知っていますか? 三橋高校にあったと思うんですけど……」
「……ああ」


 驚いていた。
 まさか、俺の所属している部活動がここで挙げられるとは思わなかった。


「それがどうしたんだ?」
「私その部の部長さんと幼い頃からの友達なんです。それで、誘われていたんで、入ろうと思っているんです」


 なんだと? あの部長に友達がいたなんて……。
 ていうか、能倉ゲーム部に入るつもりなのか?


「ていうか、俺もゲーム部なんだが……」
「え、本当ですか? 嬉しいですっ!」


 能倉がぱっと目を輝かせ、それから俺の手を握ってきた。
 お、おう。いきなりそういうボディタッチはやめてくれないか。
 普通に慣れていないので困惑する。
 俺がひきつった笑顔を返していると、能倉が口元をからかうように歪めた。


「あれ、今もしかしてドキッとしました? しました?」
「……してねぇよ。うぜーな」


 ぱしっと手を叩きおとし、俺は視線を背ける。
 ……部長、厄介な奴を誘ったもんだな。
 ため息をついていると、能倉が顔を寄せてきた。


 いちいち距離が近い。こちとら女性経験のない男なんだ。そんなことをされたらそれだけでドキドキだ。
 惚れるぞこら。


「先輩。それで、ちょっとお願いがあるんですけど……」
「なんだ?」


 ツボとか絵とか勧められたどうしようか。


「この近所にまだ詳しくないので、案内してもらってもいいですか?」
「……まあ、いいけど。近くのスーパーとよく利用するラーメン屋でも案内してやるよ」
「わかりました。着替えてきますね」


 能倉が部屋を出ていった。
 ……なんでこんなことになってるんだろうな?


 女性を自室にあげたのは初めてだし、一緒に出掛けるとかも、数えるほどしかない。
 そんなことを考えながら、俺も服を着替える。


 準備が終わったところで、部屋を出ると、しばらくして能倉が出てきた。
 さっきとは打って変わってのおしゃれだ。ちょっと出かけていくっていうレベルじゃないね。


「それじゃあ、よく利用するお店とやらを紹介してくれますか?」
「ああ、ついてきてくれ」


 並んで歩き出してから、俺は彼女をちらと見る。


「一人暮らしは初めてなんだよな?」
「はい。なので、ワクワク半分不安半分ですね」
「そうか。もっとセキュリティーのしっかりした家とかにしなくてよかったのか? 親も心配するんじゃないか?」
「大丈夫じゃないですかね? 別にそんな何か起こるとは思えませんし」
「そうか? まあ、何かあったら相談くらいには乗るからな」
「本当ですか? わかりましたっ! 掃除をしない隣人がいたら、その時相談しますね」


 能倉の性格が少しわかったな。人をからかうのが大好きなんだろう。
 それでいて嫌味を感じさせない笑顔を見せる。
 人との距離の取り方がうまい奴だな。


「こっちに来たのはいつなんだ?」
「つい三日ほど前ですかね? 荷捌きが終わったので、とりあえず隣の人くらいには挨拶しようかなと思いまして」


 ……三日前か。俺がRPGを寝ないでクリアしていた日だな。
 アパートから十分ほど歩いたところにあるスーパーについた。


「俺がよく利用しているスーパーだ」
「けど先輩。カップ麺ばかりでしたよね部屋にあったの」
「ああ。俺の得意料理だ」
「あれを料理と断定するのは間違っていますよ?」
「うっせ。ほら、何か買うものはあるのか?」
「えっ、荷物持ってくれるんですか!? ありがとうございます!」
「……聞かなきゃよかったぜ」


 ため息をつきながら、彼女とともにスーパーを歩いていく。


「おまえ、料理できるのか?」
「一人暮らしするんですからそのくらいはできますよ。先輩はカップ麺以外何作れるんですか?」
「米くらいは炊けるぞ」
「わーすごーいー」


 棒読みで言うんじゃない
 能倉の態度にため息をつきつつ、俺もいくつか新しいカップ麺を物色する。
 と、能倉がじろっとこちらを見てきた。


「先輩、あんまりそんなものばかり食べていると体調悪くなりますよ?」
「この一年、問題なかったし大丈夫だろ」
「将来一気に来るとも聞きますよ? 料理でも覚えたらどうですか?」
「いや、いいって別に。大丈夫だし」


 そう言いながらカップ麺を購入する。能倉も今日の食材と思われるものをいくつか購入していった。
 スーパーの帰り道、通りにあったラーメン屋を見る。


「ここは、軽く食べるにはちょうど良い店だな。よくスーパーの帰りはここで済ませてる」
「この辺りだとお店はここくらいですかね?」
「ああ……。もう少し足を伸ばして駅前まで行けば違うみたいだけどな。三橋高校の人はだいたいそこが遊び場らしい」
「らしい? あっ、先輩もしかして誰かと行ったことないとかですかぁ?」


 からかうように口元に手をやる失礼な後輩を睨む。


「うっせー。一応あるぞ、両手で数えられる程度にはな」
「えー、それないのと同じですよー」


 ちらと能倉はラーメンを見て、指さした。


「先輩、ちょっと食べて帰りたいです。一緒に寄りませんか?」
「まあ、別にいいけど」


 店に入ってから、席につく。
 メニュー表を見ていた能倉が目を輝かせる。


「久しぶりですねラーメンを食べに来たのは」
「そうなのか?」
「たまにはいいと思いますけど、ほら、太っちゃうじゃないですか?」


 確かにな。
 俺は幸い太りにくい体質なので、気にしたことはなかったが。
 お互いラーメンを注文し、料理が運ばれてくるまで待つ。
 ……なんで俺は自然に隣の部屋の美少女とこうして出かけているんだろうか?


「こうして男性と出かけるのって、私初めてなんですよ。なんだかドキドキしますね」
「……おまえ、初めてなのか?」
「意外ですか?」


 恥ずかしそうな顔を見せる能倉が可愛らしい。
 見た目は遊び慣れているような感じなんだけどな。


「まあ、な」
「先輩はどうですか……? ドキドキしますか?」
「……いや、まあーその、なんだ」


 俺が返答に困っていると、ぷふっと彼女は笑った。


「どうでした先輩? 私の演技! 上手でしょう!」
「……」
「ドキドキしました?」
「てめー……」


 運ばれてきたラーメンをそのまま顔に放り投げてやろうかと思ったぜ。


「ったく、あんまり先輩をからかうんじゃないぞ」
「えー、いいじゃないですか。それじゃ、いただきます」
「ああ、いただきます」


 お互いに手を合わせてラーメンを食べ始める。
 と、じろーっと能倉が俺の方を見てきた。


「先輩、そっちの塩ラーメン一口もらってもいいですか? おいしそうですね」
「なんだよ。俺の分減るだろ」
「えー、それじゃあ私のも一口食べますか?」


 といって、彼女が俺のほうに一口分掴んできた。


「はい、あーん」
「……おまえ、また人をからかってるな?」
「あれ? もしかしてもうわかっちゃいました?」


 からかうように笑ってくる彼女。
 ……なるほどな。そっちがその気なら、別にいいけどな。
 俺が反撃で一口食べると、能倉が驚いたようにこちらを見てきた。


「セクハラとかで訴えるんじゃないぞ」
「え、あ、はい……」


 俺は自分の分を食べ始めた。
 能倉を見ると、頬を赤くしていた。……こいつ、人を散々からかうわりに、案外打たれ弱いんだな。
 俺もめっちゃ恥ずかしかったけど、顔には出さない。
 あーくそ。男ってのは単純だよな。


 可愛い子にこれだけ言い寄られるだけで、その気になっちまうんだもんな。



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