痴漢されている美少女を助けたら一緒に登下校するようになりました

木嶋隆太

第十九話 打ち上げ1



 斎藤が率いるソフトボールチームは、あっさりと優勝した。
 野球、あるいはソフトボール経験者が多いチームだったこともあったが、斎藤がとにかく活躍していた。
 打撃はもちろん、守備でも何度も鮮やかなファインプレーを見せていた。


 表彰式が開かれ、球技大会は終わり、浩明たちは教室に戻ってきていた。


「美咲、マジで優勝してんじゃねぇか」


 幸助が気楽な調子で笑っていった。
 美咲はいえいとピースを作った。


「そりゃあもちろん。だって、チームのみんな強すぎだし」
「美咲もよく活躍してたろ。決勝で決めたスパイク、かっこよかったぜ?」
「あれはたまたまだよー」


 美咲と幸助のいつものやり取りを見ながら、浩明は本を読んでいた。
 しばらくして、二人の話題は斎藤と華恋に移った。


「なあ、浩明。早水どうなると思う?」


 巻き込まれた浩明は本に視線を向けながら、口を開く。


「どうって斎藤との件か?」
「ああ、見事に斎藤は優勝を決めたわけだ。つまり……告白するんじゃないかってわけで、どうだ? 成功すると思うか?」
「私はすると思うけどなぁ。今日だって、斎藤くんめっちゃ声かけてたし」
「だよな。それで、浩明はどう思うってわけだ」
(……二人の結果、か。早水曰く、断るつもりみたいだけど……実際どうなるんだろうな)


 あまり考えたい内容というわけでもない。ずっと考えていると胸の奥がぎゅっと痛くなる。
 それが嫌で浩明は首を振った。


「どっちでもいいだろ」


 そういって、浩明は深く考えることはやめた。


「もう、相変わらず冷めてるよね浩明」
(……冷めてる? 違う。考えないようにしているだけだ)
「そういや、浩明、クラス会はどうするんだ?」
「参加する予定はないな」
「えー、マジでー? そんじゃオレらもやめておくか?」
「私はどうしよっかなー、華恋のその後も聞いてみたいし参加しようかな?」
「あっ、それは気になるなー、けどどうすっかな……浩明どっかでラーメンでも食って帰らないか?」
「……別にいいけど」
「そんじゃ、美咲。詳しい情報はLINFでな?」
「オッケー、覚えてたらね」
(ああ、それ。送らない奴だな)


 がくりと、幸助も察して肩を落としていた。
 やがて、教員がやってきた放課後前のホームルームが始まる。


 バレーで優勝した面々を褒める言葉のあと、全員にも同じようなことを言っていた。
 帰りにあんまりはしゃぎすぎるなよ、という言葉のあとホームルームは終わった。


「華恋ー、用事?」
「うん、ちょっとね」


 華恋は笑顔とともに教室を離れた。
 クラスの面々はそれを見ていただけで、全員がにやにやとしている。
 特に女子たちがその反応が強い。


「あー、華恋もとうとう彼氏持ちかー」
「それに、相手が斎藤くんとか、羨ましいなー」


 嫉妬の声は少ない。それは普段の華恋が周りに与えているイメージ故だろう。
 浩明は教室を出る前に、トイレへと向かった。この後はラーメンか、とそんなことをうっすら考えていると、スマホに着信があった。
 相手は、華恋だった。それに思わず目を見開く。


『今日のクラス会、参加してほしいな』


 そんなメッセージに浩明は頬をかいた。


(どうするかな……)


 正直な話をすれば、華恋と斎藤がどうなったのかは気になるところだった。
 浩明はぽりぽりと頬をかきながら、教室に戻る。
 待っていた幸助に、浩明は申し訳なさを感じながら声をかける。


「……クラス会って今からでも参加できると思うか?」
「え? 参加する気になったのか? 珍しいな! 大丈夫だろ、一緒に行こうぜ!」
「……ああ」


 浩明はほっと胸を撫でおろし、それからスマホをしまう。
 しばらくして、教室に華恋が戻ってきた。
 全員の視線がそこに集まり、一瞬で沈黙に包まれる。華恋のいつも通りの表情に、皆は何も言わずに動き出した。


「それじゃあ、カラオケいこっか」
「さっき連絡したらパーティールームの予約取れたぜ!」


 そんな話が聞こえた。
 誰も華恋に斎藤に関して質問する人はいなかった。
 華恋も荷物をまとめ、歩き出す。


 浩明も全員の最後尾ではあるが、ついていく。
 クラス会に参加するのは半数ほどだった。浩明がついてきたことについて誰かが何か言うことはない。 


「少し歩くけど、いいよなー?」


 前のほうで歩いていた田中がそういうと、「うへー、幹事使えねー」「うるせー」といった冗談交じりのやり取りが繰り広げられた。
 先頭のグループはクラスの中でも目立つ人たちばかりで構成されている。
 美咲や幸助もそちらに混ざっている。もちろん、華恋もだ。
 浩明は後ろから彼らを眺めていた。


「それにしても、どういう風の吹きまわしだ? まさか、歌いたくなったとか?」
「違う。俺が歌える曲なんて、わかる人のほうが少ないだろ?」
「オレもだっての。一緒に何かのアニメの歌でも歌うか?」
(それでも幸助はリア充グループに混ざれるんだから、やっぱりコミュ力ってあるんだよな)
「やめておく。俺はおまえみたいに冗談で誤魔化せるタイプじゃない」
「真面目で、誠実だもんな」
「誠実さは持っていないっての」
「いやいや、おまえは真面目で誠実な男だって」


 くすくすと笑いながら幸助が言うと、冗談で言われている気しかしなかった。
 浩明ははぁ、と軽くため息をつく。


「それにしても、本当珍しいよな? やっぱりおまえも早水の恋の行方が気になっていたっところか?」
(まったくないわけじゃない。それに、他のそれっぽい理由も思いつかない)


 まさか華恋に誘われたから、となんて口が裂けても言えるはずがなかった。


「小説の参考に程度は」


 そう誤魔化すと、幸助は目を見開く。


「それならおまえ、一度付き合ってみたほうがもっと参考になるんじゃないか?」
「そうだよそうだよー、いい子知ってるよー」
(どこから湧いたんだ)


 ひょこりと現れた美咲に、浩明は額に手をやる。


「それは不誠実じゃないか?」
「お試し期間を設けて付き合うってこともわりとあるもんだよ? お互い合わなかったらそこで関係は終わりって感じで」
(なんだその契約関係は。若者怖いな)
「そうだぜー浩明。まあ、美咲の紹介に不安があるならオレが色々探してみてもいいぜ?」
「……あんまり、興味はない、かな」


 浩明がそういうと、幸助は口元を緩めた。


「そうかそうか。まあ、興味が出たら言ってくれ。相談にのるからな」
「その時は先輩として頼りにさせてもらうよ」
「浩明ー、幸助より私のほうがあてになるよ!」
(……俺からしたらどっちもどっち、なんだよな)


 苦笑だけを返しておいた。
 やがて、カラオケ店が見えてきた中へと入る。
 人数分の料金を支払った後、パーティールームへと入る。


(こんな部屋があるんだな。カラオケなんて、幸助たちといったことくらいしかないから、もっと個室だったな)


 その大きさに少し驚きながら、浩明はきょろきょろと周囲を見ていた。
 全員が中へと入ったところで、女子グループが華恋を取りかこんだ。
 え? という華恋のちょっとだけ驚いたような顔。


「それで、華恋ー、斎藤くんとはどうなったの?」


 カラオケ店に入った瞬間だった。
 女子たちが華恋を囲んだ。逃げられないように道を封じられた華恋は、困った様に笑っていた。







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