俺(私)のことが大嫌いな幼馴染と一緒に暮らすことになった件

木嶋隆太

第38話 私は友人と幼馴染が話をするのを見る


朝、湊は用事があるようで、私よりも早くに家を出発した。
……休日に、朝から一体どこへ? 凄い気になったけど、私もこの後友達との約束がある。
私は待ち合わせのショッピングモールについて、悲鳴をなんとか押さえ込んで映画を楽しんだ。

「相変わらずの涙目ね」

ふふっと鈴が笑う。からかうような視線に、私は思わず目を向けるが鈴はあっけらかんとしていた。
……まったく。人が必死に恐怖を押さえ込んで何とか乗り切ったのにからかわないでほしい。

「この後どうするの? お昼どこかで食べてく?」

花がそういうと、鈴は小さく頷いた。私も同じだった。
湊は俺は勝手に一人で食事するから、と言っていた。
ちょっと寂しいとはいえ、四六時中一緒にいるわけじゃないんだから当然だ。

「フードコートでも行きますか?」
「そうね。あそこなら色々あるし」

二人が頷き、私たちはショッピングモール三階にあったフードコートに向かった。
……思っていたよりも人が多い。
まだお昼前であるのに、みんな早めの昼食をと考えてここに足を運んでいるのかもしれない。

「席の確保も大変そうね」
「……うーん、そうだねぇ」

鈴の言う通りだ。これでは、中々座れない。
私はあまり人が多い場所は好きじゃないので、共に周囲を見ているとそれだけでため息をつきそうになった。
そんな時だった。花が短く声をあげる。

「あれ、もしかして湊?」

びくんと私の肩が跳ね上がった。え!? まさか!
花がそれはもう犬のように微笑んで一人の男性のほうへと向かう。
彼の肩を叩くと同時、ぴしっと人差し指を伸ばした。
後姿でわかる、湊だ。

振り返った彼は驚いたように私たちを見ていた。
びしっと頬に人差し指がささると、湊はじろっと花を見た。花はにこにこと微笑んでいて、湊は毒気が抜けたように息を吐いている。
……たぶん、私が同じことをしたら頬で指の骨を折られるだろう。
……私に対してと、それ以外に対しての反応の違いに一人ショックを受けていた。

「なんだ花か。どうしたんだ?」
「いや、そっちこそどうしたの?」

本当にそうだ。
鈴とともに私は周囲を見回していた。
……お互い考えることは一緒なのだ。鈴は友達想いで彼女を捜索、私は自分本位で彼女がいないかの確認をしていたのだ。

「ちょっと用事があって外に出てたんだよ。ついでに飯を食べに来た」
「へー、珍しいじゃん」
「さっきも言ったが、そんなに珍しいか?」
「前に一緒にでかけた時に軽く話したじゃん。外には普段でないって」

一緒にでかけた!? 二人の進んでいる関係に私は目を見開かずにはいられなかった。

「……そういえば、そうだな」

……湊と花が一緒に出掛けていたという事実に私が軽く嫉妬していると、花は首を傾げた。

「それで何食べるの?」
「なんでもいいだろ」
「えー、席確保しておいてあげるよー? 今なら付属で女の子がなんと三人もついてくるし」

……そ、それ逆効果だから。
湊は私が一緒にいる中で食事なんてしたくないだろう。

「いや、俺はこんな人混みで食事したくないから……厚意は感謝するけど、先に帰る」

人混みでというのはあくまでフェイク。原因はきっと私だ。
ちらちらと彼は私の方を見てきているんだからね。

「……うーん、そっか。それじゃあ、また月曜日ねー」
「また月曜日、な」

二人がそんな感じの会話をしたあと、花がこちらへと戻ってきた。

「……とりあえず普通に話せた?」
「ええ、聞いていた限り問題はなかったわ。……というか、湊くん本当に一人だったのかしら?」
「けど、周囲には他にいなそうでしたよ?」
「……そうね。ただ、一人で休日にショッピングモールにわざわざ来るかしら? 何か、明確な理由があったのではない……?」

……いや、たぶん湊の性格なら平日休日気にしないだろう。

「や、やっぱり付き合っている相手がいるのかな?」

不安そうな花に対して鈴は顎に手を当てて考えていた。
私も同じように不安を感じてはいた。
と、鈴が息を吐いた。

「……こうなったら、告白してみるのが手っ取り早いんじゃないかしら?」
「え!? 早くない!?」

え、早くない!?

「いや、むしろ遅いでしょう。文化祭って去年の十月でしょう?」
「そ、そうだけど……」
「それからもう半年経っているのよ? 相手が告白してくるのを待っているのだとしたら、すでにその作戦は失敗よ。たぶん、湊くんは花に興味を持っていないもの」
「え!? そ、それじゃあ……告白しても失敗するんじゃないの?」

花の意見もごもっともだ。
だが、鈴は首を振った。

「そうとも、限らないわ。男子は案外告白に弱い生き物よ。特に可愛い子からの告白なら、よっぽどの事情がない限りはとりあえずで受け入れることもあるはずよ」
「……け、けど、やっぱり不安というか。い、今みたいに接することができなくなったら――」
「仮に断られたとしても……相手に意識させることができるわ。諸刃の剣ではあるけれど、現状まったく意識されていないのなら、もうある程度の強行に出るしかないわ」
「……」

……鈴の言葉に、花は唇を噛んだ。
私は何も言えず、二人の会話を見ているしかできない。

「だ、大丈夫かな?」
「ええ、大丈夫よ。慰める準備はしておくわね」
「そ、そっちの準備はしないでよ!」
「冗談よ冗談」

花がぽかぽかと鈴を殴っていた。鈴はそれを胸ではじき返しながら、席へと視線を向ける。

「ああ、花。ちょうど席が空いたわ、ちょっと確保しておいてもらってもいいかしら?」
「わかった!」
「それじゃあ、夏希。何か買いに並びましょう」

こくりと頷いて私は、鈴とともに近くのパスタ屋に並んだ。

「……ねぇ、夏希はどう思う? 成功すると思う?」
「……あまりこういう経験はないので、断言はできませんが――」

成功、してしまうのではないだろうか? 先ほどの鈴の言葉を借りるなら、湊だって男だ。花くらい可愛い子に求められれば、断らないんじゃないだろうか?

「……成功、するんじゃないですか?」

ようやく絞り出した言葉に、私は胸が痛くなった。

「……そう、だったらいいのだけどね」
「不安そうですね」
「ここ最近、湊くんを分析していたのだけど……湊くんは一本筋の通った人なんだって思うのよ。あまり異性に対して興味ないのは、すでに心に決めた人がいるのか、あるいは付き合っている人がいるからなんじゃないかって」
「……」

確かに日頃の彼の様子を思いだして、私は頷くしかない。
私と一緒にいっても、特に異性として見られた記憶はない。
……まあ、私の場合はたいそう嫌われているので参考記録にしかならないけれど、色々あるんだろう。

「付き合っている人がいるなら……正直しばらくは無理でしょうね。……仮に好きな人がいるとしても、湊くんの性格だと難しいかも。どっちにしろ、相手にフラれてからじゃないとダメだと思うのよね」
「……なるほど。難しいですね……」

パスタを注文してから、私たちは席へと向かう。
頬を染めながら湊との出会いについて語る花を見ながら、私は考えてしまう。

私は湊と花の二人が仲良く歩くようになるかもしれない。
……一緒にお弁当を持って、校内で食べさせ合ったりするかもしれない。
私は血反吐を吐きそうになった。クリームパスタが、トマトクリームパスタになりそうになったのを必死に抑えた。

……友人の幸せを素直に応援している自分もいたが、嫉妬してしまう自分も確かにいた。
……私には何の権利もないのに、嫉妬しているなんておかしい話なのに。


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