俺(私)のことが大嫌いな幼馴染と一緒に暮らすことになった件

木嶋隆太

第30話 私は心穏やかではない


今日が初日ということもあって、授業は午前中で終わりだった。
私はカバンに荷物を詰めながら、帰る準備をしていたのだけど。

「あっ、佐々木くんが何か話しがあるみたいだよ」

ちょんちょんと花が肩をつついてきた。
佐々木くん? 視線を向けると、黒板のほうにその佐々木くんがいた。
髪はビシッと決まっていて、茶髪に染めている。……いかにも、遊び慣れているという感じだ。

いわゆるトップカーストの男子生徒である。
……私もよくトップカーストに所属していると思われているが、あくまでそれは付加価値がそうさせているだけなんだと思う。
容姿であったり、学業優秀だったり、運動がそこそこできたり――。そういうのも相まって、人が寄ってくるようになった。
スペックというのはそれだけで人を惹きつける甘い蜜のようなもの。

……そういう点でいえば、湊も十分佐々木くんのようになれるのだが、湊はまったくもってアピールしない。
学業に関してはたぶん、私より少し悪いけどいくつかの科目は負けるくらい。  運動はすべてにおいて私よりもできるし。

「そんじゃこれからカラオケに行くってことで! 全員参加でいいかぁ!?」

……私まったく話を聞いていなかったが、そういうことになっているらしい。
まあ、クラスの仲を深めるため、となれば参加しておいたほうがいい。
事なかれ主義の私は、悪目立ちだけはしたくなかった。

男子を中心に盛り上がり、女子たちもそこそこ乗り気な様子だ。
湊はどうするのかな? と視線を向けると、彼はすでに帰り支度を整え、席から立ち上がっていた。
クラスのグループラインにも所属していなかったし、湊は別にクラスメートとの関係に興味なんてないんだろう。

そういうところ、凄いと思う。私には絶対にできなかった。
湊の逃走に目をつぶろうとした私だったが、

「あれ、湊は行かないの?」

花が、声をかけた。それによって、一斉に注目が集まった。
花もクラスではそれなりに目立つほうだ。だからこそ、花に呼ばれた相手にみんなが注目している。

視線が一気に集まり、私は自分のことでもないのに、嫌な気分になる。
……ああやって注目されるのってあんまり良い気がしない。
案の定、湊は花と、そして私を睨んできた。い、いや私何もしてないよ! 友達なだけだから!
佐々木くんがちらと湊をみて、湊も視線を合わせ――。

「俺は別に。カラオケとかはパスで」

……この視線の中で堂々とよく断れるものだ。
しかし、花がそこに食いついた。

「えー、いいじゃん。たまにはさ」

……待って。たまにはって何? そんな普段から遊んでいるような関係なの?
名前で呼び合っているし、なんだか親しそうだし……。

教室の空気が微妙な感じになる。空気を読める女、鈴が場を治めようとしたときに、湊が頭をかいた。

「用事があるんだ。どうしても外せないな。……だから、悪い」

湊はそういって、真剣な表情と声でそう言い残して去っていった。ほ、本気のときの声だ。
……今日ってそんなに重要な用事あったんだっけ?

私はそんなことを思い返しながら、佐々木くんの企画したカラオケに参加することになった。





すでにパーティールームを予約済みなようだ。
私達は目的のカラオケへと集団下校宜しく歩いていった。
湊がああやって断ったからか、他にも数名が参加を拒否した。
まあ、こういうのは強制参加ではない。私だって、できれば早く家に帰りたいとも思っていた。

「なんだか花らしくなかったわね」

鈴が花にそういうと、花は首を傾げた。

「え、何のこと?」
「帰りのこと。なに? あの湊くんってお気に入りなの?」

鈴がからかうような調子でそういうと、花は顎に手をやった。

「……どうかな。よくわからないけど」
「え、なにそれ? いつもの調子でからかったの? だとしたら、友達として怒るわね。ああいうのはやめてあげなさいよ。アレだと湊くんが悪者みたいになってしまうわよ。人それぞれのペースってものがあるんだから……」

鈴がきつい口調で言うと、花は慌てた様子で首を左右に振った。

「ち、違うよ! 別にからかったわけじゃなくってさ……」

なんとも煮え切らない態度であった。
私と鈴は顔を見合わせ、首を傾げた。
花の態度が、やっぱり変だ。困ったような、でもなんとも言えないような態度である。

「……なんとなく参加してくれないかなーって思っただけだから。うん、みんな仲良くしようと思っただけ!」

……そ、それって、湊に参加してほしいってことで。
見た目とは真逆で意外と純情な彼女は、しばらく頬を赤らめていた。
鈴と顔を見合わせる。こ、これはまずい。もしかしたら花は湊をある程度意識しているのかもしれない!
鈴、突っ込んで!

「……まあいいかしら」

ふっと鈴は包容力のある笑みとともに花を見つめた。
まるでそれは母親のよう。私も同じような気持ちで花を見ていたけど……違う!
す、鈴! お願いだからもうちょっと突っ込んで!
彼女の本心のあたりをさぁ! 私も湊のこと好きなの!

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