俺(私)のことが大嫌いな幼馴染と一緒に暮らすことになった件

木嶋隆太

第29話 俺は一人が落ち着く


今日が初日ということもあって、学校は午前で終了だ。
まあ、だいたいはこんなもんだろう。
うちはそれなりの進学校だが、それなり、だからな。

トイレから戻ってくると、クラスメートたちが集まっていた。

何やらクラスではお調子者が何かを言っている。
いわゆるトップカーストの男子生徒だ。名前は知らんが、王子様とか呼んでおけばだいたい間違いない容姿だ。

「そんじゃこれからカラオケに行くってことで! 全員参加でいいかぁ!?」

王子様が宣言すると、男子を中心に盛り上がった。
……たぶん夏希が参加するからだろう。
俺は絶対そういうのには参加しない。

騒がしいのは嫌いだしカラオケを集団で行く意味が見いだせない。
俺は一日中歌っているようなくらいカラオケは好きだ。好きだからこそ、一人で行ってずっと歌っていたい。
なので、俺は鞄に荷物を入れて、肩に背負うようにして教室をこっそりと抜け出ようとした。

別に誰も俺がいてもいなくてもわからないだろうしな。
というわけで抜け出そうとしたのだが、

「あれ、湊は行かないの?」

そう呼び掛けてきた女がいた。
花だ。藤上花。それがやつのフルネームだ。
自己紹介の時に聞いていたので覚えていたが……今更苗字で呼ぶのも変だろう。

集団の視線が俺に集まる。え、こんなやついたの? みたいな顔しているやつもいる。さすがにさっき自己紹介したんだし覚えておいてほしいものだ。
……いや、俺はここにいる中だと夏希と花以外の顔と名前が一致しないんだけどな。

「俺は別に。カラオケとかはパスで」
「えー、いいじゃん。たまにはさ」

たまにはってなんだたまには。
カラオケに行く頻度はそれなりに多い方だぞ。ただしヒトカラだが。
ほら、王子様もテンションを上げづらくなっているし。

微妙な空気になってしまっている。俺一人が原因でこんなことになっても困る。

「用事があるんだ。どうしても外せないな。……だから、悪い」

俺は真剣な声を出して、周囲を一瞥した。それ以上かかわるなよ。俺が睨みを効かせて教室を出た。
……ふー。なんとか切り抜けたな。
別にぼっち道を貫きたいわけではないが、マジでああいう集団で盛り上がるイベントは苦手だ。

友達の友達みたいな感じの人ばかりがいる環境だ。何を話せばいいのかさっぱり思いつかないからな。
大事な用事があるのは確かだ。
今日の学校は午前中で終わるのがわかっていたので、午後一で今日発売のゲームが届くように宅配便を手配している。

俺にとっては滅茶苦茶大事な用事なわけだ。
ノリが悪いぼっち。そんな感じにクラスメートからは映っただろう。
それで別に構わないしな。友達がいて困ることはあっても、いなくて困ったことはない。

学校生活に関して言えば、勉強に関しては自学自習で十分だ。
休み時間に話しかけられたら、体力が削られる。次の授業の準備とかもできなくなる。

声帯は無限じゃない。使えば使うだけ疲労するのだ。わざわざ体を痛めつけてまで話をする必要はない。

遊びに誘われたら、その分一人でいる時間が減る。
趣味の共有に関しては絶対にしたくない。
趣味なんて人それぞれで楽しむものだ。他人と話して、自分と感性が違うとわかると疲れる。

ほら関わるメリット皆無じゃないか。
……うん、こんな考えだからたぶん夏希に気づかぬうちに嫌われていたのだろう。
世間的に見れば俺が間違っていることくらいはわかる。

家に帰った俺は軽くあくびをしつつ、ソファで横になった。
久しぶりの一人だな。
部屋以外ではだいたい夏希と関わることがあったのだが……。

一人が好きではあるが、夏希は案外別だったらしい。
……夏希といる時間はあっという間に過ぎ去り、それほど悪い気もしなかった。

訂正だな。
友達はいなくてもいいけど、恋人……夏希とは一緒にいたい。
それが現在の俺の心境のようだ。

……マジかよ。一番一緒にいるのが無理な相手じゃねぇか……。

「俺(私)のことが大嫌いな幼馴染と一緒に暮らすことになった件」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く