俺(私)のことが大嫌いな幼馴染と一緒に暮らすことになった件

木嶋隆太

第12話 私は洗濯物を回収に行く


私の気配察知は、どうやらかなりがばがばなようだった。
まさかトイレにいたなんて……。
最悪の状況に、私は泣きたくなってきた。

今の私はすっぴんだし、おまけにタオル一枚。まるで痴女じゃない……。
けど、ここで泣きだすわけにはいかない。そんな弱い姿を見せて、さらに幻滅されても困る。

だから私は、心で泣きながらも毅然と彼を見つめた。
もしかしたら泣きそうな顔をしていたかもしれない。それでも私は、しっかりと彼を見た。

「なに、してるんだ?」

な、なんで眉間に皺を寄せるのよ!?
一応状況的に見れば、湊にとって悪いことはないはず! 一応は女性の裸に近い恰好を見られているのだから!
なのに、視線は外に向け、凄く嫌そうな顔をしている!!

……大嫌いな女性の裸なんて興味ないっていうことなの?
見たくもないと思われていたほどだなんて考えるとさらに泣きたくなってきた。
けど、泣くわけにはいかない。

ここでどうにか、うまく切り返せれば……状況を好転させられるかもしれない。
私は自分を奮い立たせながら、口を開いた。

「風呂をあがったあとでしたから」

けどダメ! ベリーバッド! 私全然言葉が思いつかない!
こんな事務的な状況報告をして、何が変わるのだというのよ私!

「……だろうな」

ほら見て! 返答に困っているじゃない。
……とにかく、平静を装うのが正しいだろう。ここで、情けない姿を見せ、幻滅されるわけにはいかない。
私は軽く息を吐いてから、立ち上がった。

「私は、部屋に行きますから」

この家の二階の一室、もともとは荷物などがおかれた部屋だったのだが、そこが私の自室ということになっている。
そこまでいけば、とりあえず一息つける。

私は立ち上がり、すたすたと彼の横を過ぎる。
全力ダッシュで逃げ出したい。けれど、そういうわけにはいかない。
ここで下手な動きをすれば、余計に怪しまれる。

これ以上、変な奴だと思われたくもない。
そんな一心でまずは二階に逃げようとしたのだが、

「今日は冷えるから気をつけろよな」

そう彼は行って、すぐに浴室へと向かった。
私は湊の言葉に天にも昇る思いだった。胸がどきどきと脈打ち、顔は異常なまでに熱かった。
すぐに、返事をしようと思った。

「も――」

声を言いかけて一度止めた。声が上ずってしまっていた。
き、聞こえてないですよね!?
努めて冷静に、声の調子を整えてから改めて伝えた。

「もちろんです」

私は階段を少しあがり、彼が浴室へと向かったのを確認してから、リビングへと向かう。
リビングに置きっぱなしだったカバンを掴み、二階へとあがる。
そして部屋についた。

すでに掃除はされ、ベッドも運び込まれている。私の部屋にあった荷物をそのままそっくり運び込んだので、間取り以外は何も変わっていない。

ちなみに、隣が湊の部屋である。夜中とか壁に耳を当てれば色々聞こえてくるかもしれない。
そんな妄想で心を落ち着けながら、先ほどの湊の気づかいの言葉を脳内で反復して幸せに浸っていたのだけど――ちょっと待って。

……彼は私のことが大嫌いだ。
初めはそれでも心配してくれたのだと思っていたけど……もしかして違うかもしれないと思い始めた。
どうでも良い奴がどうでも良いやつを気にするだろうか?

否、否なの! あれはもしかしたら、忠告だったのではないの?
『さすがにタオル一枚で出歩くのはやめてくれ、目の毒だ』。
……その前の反応と合わせても、私のタオル姿を見たことに対して苛立ちのようなものを感じているようだった。

……へ、下手したらお風呂後は異性がいるのもお構いなしに、タオル一枚で出歩く痴女と思われたかもしれない!!
べ、弁解したい! けどわざわざこんなことを伝えに行くのはそれはそれで認めるかのようっ!

八方ふさがり。どうしようもない。
髪を乾かそうと思っていたけど……その前に洗濯物を取りにいかないと思い出した。

取り出さないと、湊が洗濯物を入れられない……。
……とはいえ、湊はもう風呂に入ったはずだ。……さすがに、覗きとか疑われたくないので、音を立てずに浴室に行こう。

          

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