俺(私)のことが大嫌いな幼馴染と一緒に暮らすことになった件

木嶋隆太

第8話 私は風呂に入りたい



お、お風呂入りたい。
……今日は四月だけど二月の時くらい寒い。
だから、温かい湯舟につかってのんびりとしたいと思ったんだけど……私は提案できずにいた。

だって、お風呂を入れた場合、どちらが先に入るのかそこが今度は焦点になるからだ。
私としては正直どちらでもよかった。
湊の後に入っても別に気にならないし。私が先に入っても構わない。

というか、風呂かぁ……幼稚園の頃は一緒に入っていたものだ。
体の洗いっこなんてして、それを別に特に気にすることもなかった。
お互いに泡で遊んだり、水鉄砲で遊んだり……それが本当に楽しかった。

……あの頃に戻れたらな、とも思えるけど今こうして一緒にいてドキドキと弾む心も失いたくはなかった。

「今日は風呂、入れるか?」

……そっか。
そもそもシャワーだけで済ますという考えもあるんだ。
特に男性は体温が女性よりも高く、冬場でも平気でシャワーだけで済ませる人もいるとか。
あまり、お風呂が好きじゃないという可能性もある。

彼にとっての疑問は、まずそこからなんだろう。そして、また湊に気を遣わせてしまったのかと思うと、私は恥じらいを抱いてしまった。
初めは湊に合わせて、どちらでもよいと答えようとも思ったが、「どちらでも良い」、「なんでもいい」という言葉はあまり使わないほうが良いと聞いた。

人間は決定するのに体力を使う生き物だ。それは些細なことであってもだ。
……ただでさえ私を嫌っている彼に、意思決定の機会を与えるというのは、彼に嫌いになってくださいと言っているのと同義である。
少し考えたあと、私はお風呂に浸かりたい気持ちがあったので、それを素直に伝えることにした。

「私は入りたいです」

……別に風呂に関しては、湊が入りたくなければ入らなければいいだけだ。
毅然とした態度で、彼に返事をすると、すぐさま湊はソファから立ち上がった。

「そうか。そんじゃ、入れてくる」

湊は急いで立ち去るように部屋を出ていった。
風呂場にいったのだろう。そこで私は少しだけ気を抜いた。
……ここまで、色々と考えて随分と疲れてしまった。

あとは風呂に入って寝るだけ。
そう思うと、少しだけ気が楽になった。
……そうすると、今度は今日一日の生活を思い出し、顔が熱くなる。

湊との生活は緊張もあるし、色々と大変だ。
けど、中学からずっと関わりの減っていた大好きな湊とまたこうして関われている。
そう思うだけで、すべての疲れが吹き飛ぶくらいに嬉しかった。

そんなことを考えていると、彼はリビングへと戻ってきた。

「風呂は十分もすれば入ると思うけど、どっちが先に入るんだ?」
「……」

どちらが先に入る問題があったんだった……。
彼の提案に、私は唸るしかなかった。
……たぶんだけど、湊なりに気を遣ってくれているんだろう。

こういった場で女性に気を遣わせたほうがいいという考えのはずだ。
つまり、彼も一応私を異性として扱ってくれているんだと思うと、少し嬉しくなった。
……いや、大嫌いな相手が面倒で相手にすべて任せているという可能性もちらと浮かんだけど、きっとそんなことはないはず!

そして私は考える、
先を勧めるか、私が後に入るかだ。
ただ、一番風呂というのはあまり体に良くないというのを聞いたことがある。

……湊もそれを知っていたら「え? こいつ俺を殺すつもりか?」みたいに思うかもしれない。
それは過剰だとしても、一番風呂に対して良い感情を持っていなければ、また嫌われてしまう可能性がある。
……かといって、二番目というのもそれはそれで嫌かもしれない。
ほら、私のあとだし風呂が汚れているかも……別に私が汚物だからとかではなくて、人間というのはどれだけ丁寧に洗っても完全に汚れが落とせない生き物だから、それが多少は残ってしまうかもしれないということで。

しきりに悩んでいた私だが、風呂が入り終わったところで立ち上がった。

「悩みましたが……私が先に、入ってもいいですか?」
「ああ。タオルは用意しておいたから。それと、洗濯機も使っていいからな」
「ありがとうございます」

中々、良い感じじゃない?
ベリーグッドではないけど、グッドくらいはあげてもいいだろう。
私はそんなことを考えながら、風呂へと向かった。

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