俺(私)のことが大嫌いな幼馴染と一緒に暮らすことになった件

木嶋隆太

第6話 私は大好きな人に手料理を食べてもらう


味付けに関しては、凄い苦労した。
家庭ごとに、味付けというのは随分と違う。
例えば、だし巻き卵。
塩派と砂糖派とか。

そういう細かい部分の違いというのは結婚生活を始めた夫婦の間でわりと問題になるようだ。
以前見たテレビでは、『味が薄い』と言った夫の言葉にかちんと来たと妻がインタビューで答えていた。
……つまり、その逆もありうるということ。

私の作った料理が、湊に受け入れられるとも限らないのだ。私の感覚で作った味に、湊は不満を抱くかもしれない。
今、私は彼に嫌われている。……とにかく今は彼に好かれるために頑張らないと。
だからこそ、少しでも改善するために彼の好みに合わせる必要があった。

何度か湊の母の手料理は食べたことがある。
……うちの味付けとそう変わらない気がしたのは、私の母と湊の母が仲が良く料理をよく一緒にしていたのもあるだろう。

だから……そこまで大きな違いはないはず。
私は祈るように料理を作り終え、それからふうと息を吐いた。

出来上がった料理は別に凝ったものではない。味付けして火を通しただけの生姜焼き。生姜焼きのあと、もやしとニンジンを炒めただけの野菜炒め。……ほんとうはキャベツとかピーマンとかナスとかもあればよかったけど、今日はなんだかんだ色々あって買い物にいく気力はなかった。

ちょうどごはんも炊き終わっていた。
……初めはごはんに合わせて作るつもりだったが、料理に集中していた私はそんなことすっかり忘れていた。
……運がよかった。

気づけば湊はテーブルを拭き終え、皿と箸の準備をしてくれていた。
何も言わずに準備をするあたり、彼はよく周りが見えている。
昔からそうだった。かゆいところに手が届くというか、そんな感じ。

野菜炒めとごはんと、生姜焼き。お味噌汁でも作ればよかったかしら?
そんなことを思いながら、お互いに両手を合わせて「いただきます」。
私も結構お腹は空いていたが、さすがにかぶりつくような気楽さはなかった。

湊の一挙手一投足に注目する。彼が箸を動かし、野菜炒めを口に運ぶその瞬間を眺めていた。
もちろん、気づかれない程度にだ。凝視しているなんて思われたら、まず気持ち悪がられるだろう。
そうして、彼は一口食べてから沈黙した。

な、なに!? お口に合いませんでした!?
私はすでに泣きたくなっていた。それから彼の表情がいくらか変化して、

「おいしいな」

絞り出すような声がした。
……終わった。さっきの表情の変化、そして現在の頬の引きつったような笑顔。
これは、彼なりに気を遣ったのだ。

あまり味が合わなかったが、料理を作ってくれた私に対しての精一杯の優しさを示したのだ。
……大嫌いな相手に、気を遣わせるほどの料理とでもいうのかしら?

「ありがとうございます」

でも、やっぱり裏の意味を考えなければ嬉しかった。だから私は、お礼を返していた。
私は一口食べてみたが、念入りに味見しすぎたせいでもうよく分からなくなっていた。

これでもし明日の夕食に外食を提案されたら、まず私のこの考えがすべて正しいことの証明となるだろう。
私は小さくため息をつきながら、パクパクと自分の料理を食べていく。

……落ち込んで、ばかりもいられないわね。
そもそも、彼の好感度はゼロ。……いやマイナスに片足突っ込んでいるかもしれない。
けど、そんなことは初めから理解している。

料理一つでそれが好転するのなら、世の女性が男性を落とすのに苦労なんてない。
興味を持っていない相手を意識させようと、世の中には頑張っている人がたくさんいる。
私だって、その一人なだけだ。

諦めればそこで関係のすべては終わってしまう。
まだまだ。まだまだこれからよ……。
そもそもの原因は私が彼とまともに話せないのが原因だ。

どうしても、私は彼からよく見られたくっていつも自分を取り繕ってしまう。
相手に合わせて、偽りの自分を演じてしまう。
……私は本当の自分を見せられない。否定されるのが怖いから。

だけど、湊は違う。
周りに自分の意見をはっきりと伝える。正しいと思ったことは正しい、間違いだと思ったことは間違いだと。
……小学校の頃、クラスでいじめがあったときだってそうだ。

私は見て見ぬふりをしてしまった。
裏でこっそりと慰めることくらいしかできなかった。……だって、私が次の標的にされるのが嫌だったから。

けど、湊は違った。いじめのどこが悪いのか、具体的に指摘し相手に伝えた。
喧嘩になっても、一歩も引かず、三人相手に返り討ちにしてしまった。
……そういうことは、私にはできない。

……いや、できないで片づけてはいけない。
いつかは、そういうことが言えるようにならないと。
み、湊に……す、すすすす好きって伝えられるように……っ!

私は決意を新たに、食事を進めていった。

          

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