3話　赤ちゃん最強伝説

　目の前にいるのは赤いお面をかぶり、赤い鎧を身に着けている武田信玄という若い青年だ。本物なのか区別することはできないけど、それでもこの世界の人が武田信玄を知っているわけはないだろうと思った。

　目の前にいるのが確実的に武田信玄であることは明白。
　よって、力を試すために本気でぶつかる。

　ミニーさんは赤子の姿のまま、

　武器を握るわけでもない、拳を握りしめて、
　空手の構えを取る。空手は結構好きだったりする。
　右手と左手をうまく構えながら、

　ゆっくりとゆっくりとすり足で近づいていく。

　そして武田信玄が刀を鞘から抜き放った。
　それは一瞬、

　2人は武と武で分かりあえることになる。

　赤ちゃんの拳が飛来する前に、
　武田信玄の刀が飛来した。
　赤ちゃんの皮膚を切り飛ばす瞬間、

　赤ちゃんの拳が刀に炸裂。
　刀がまるでガラス細工のように粉砕される。

　それでも武田信玄は半分まで折れた刀で、赤子の首を両断しようとする。

　空中で回転しながら、浮力を利用して、後ろにジャンプ、
　まるで2段ジャンプをしたかのように見えたであろう。

　後ろの草原に着地した瞬間、前に乗り出す。前回りの容量で回転し、
　武田信玄の刀がまたもや炸裂、
　それは折れている、
　しかし左手には短いナイフが握られている。

　きっと動物などを狩したときにさばく用のナイフなのだろう、
　そのナイフが赤ちゃんであるミニーさんの腹に命中する寸前で、赤ちゃんはありえない体の方向を変えることによりナイフをよけることに成功する。

　それは酔拳、お酒を飲むわけではないが、疑似酔いにより体がぐねぐねと動く、
　地面に着地すると、

　2人はにやりとほくそ笑む。

「お主ただの赤子ではござらんようだ。どうやら転生者のようじゃな」
「だったらわるいかよ」

「まったくあの神様にも困りものだ。赤子からこんなに強いとなると、おぬしが成長したら化け物になる、今ここで殺させてもらおう」
「ふ、それはこっちのセリフだぜ」

　2人はまた地面を跳躍する。
　半分になった刀を思いっきり投擲してきた武田信玄、

　それを赤ちゃんは掴むことに成功、
　半分までガラス細工のように折れ曲がってしまった刀を握りしめる。

　なつかしき感覚、

　だがそのような感覚に陥っている暇はない、
　武田信玄が目の前に飛来、呼吸が荒くなっていることから、結構疲れているらしい、
　なぜか赤ちゃんであるミニーさんはぜんぜん息が苦しくない、
　逆にどんどんと力があふれていくかのようだった。


「刀とはこういうふうに使うものだああああああ」

　ミニーさんが叫ぶ。
　刀を構える。

　跳躍を続ける武田信玄、
　奴はナイフを赤ちゃんのお腹に突き刺そうとする。
　赤ちゃんは短い右手と左手で刀を構え続けている。

　気持ちを込める。
　当時の師範代に教わった。

　気持ちを込めることの大切さ、
　それは刀という武器の本質、
　刀とは生き物のように扱えという本質。

　解き放つ、
　それは斬撃となり空気を両断、

　そして武田信玄の上半身と下半身を両断する。

　ごろごろと転がっていく武田信玄、

　人間の兵士たちは唖然の声をあげる。
　どういうことだ？　という視線をこちらに向けてくる。

　そしてようやく、ようやくミニーさんは周りに見られていることに気づく、
　風は冷たい、それでも血の臭いは全身からする。

　ミニーさんというまだ赤ちゃんの男の子は0歳にて武田信玄を殺すことに成功する。

　それはいったいどういうことなのか、
　ドワーフたちはまぶしい眼でもみるかのようにこちらを見ていて、
　人間たちは必至に背中を向けて逃げ始めている。
　女性を犯すことに夢中だった兵士たちも逃げ始めている。
　子供を殺すことに夢中だった兵士たちも必死で子供を中途半端に殺さず逃げていく。

「いくら戦争だからと犯すこと虐殺すること、これはいかん、さて、ドワーフ諸君、僕とやりあうかい？」

　周りをドワーフに囲まれ、
　赤ちゃんはにやりとほくそ笑む

　一体自分が誰の子供なのかそれはわからないけど。
　それでも、今ミニーさんは生きている感覚で幸せだった。