悪役令嬢を目指します!
第二十話 地震1
皆を見送った後、私は書庫に入り浸ることにした。ほとんど読み終わってるが、日記に書く材料を求めるためだ。さすがに食事の感想だけでは一頁も埋まらない。
私は目についた本を引っ張り出して、すでに知っている内容に目を通していく。騎士とお姫様の恋物語で、そこまで難しい話ではない。
それからも何冊か読んでいると、リューゲが昼食だと声をかけに来た。私は読みかけの本を一旦閉じて、昼食を自室に運ぶように指示を出す。
その間に本を定位置に片づけ、自室へと向かった。
机の上にはすでに昼食が用意されていた。パンとスープと、焼いたハムみたいなもの。昼食をがっつり食べる習慣はないようで、いつも軽いものが出てくる。
私はスープを口に運びながら、真正面に座るリューゲに視線を送る。普通の従者なら、こういうときに座ることはしないのだが、普通ではない従者だからしかたない。自室で食事をとるときはいつもこうだから、もう慣れた。
「何か面白い話でもしてちょうだい」
そう言って、話をせがむのもいつものことだ。伊達に長く生きていないからか、リューゲの話は新鮮なものが多い。他国の話とか、遥か昔の話とか。本では知ることのできない話を私は地味に楽しみにしている。
「そうだなぁ……じゃあ竜を退治した勇者の話をしてあげるよ」
女神の加護を受けた者は勇者と呼ばれるようになるらしい。人に希望を与える存在で、世界の災厄を払うために生きる。災厄は大樹だったり、巨大蛙だったり、様々な姿をしているらしい。
大樹は、この国の成り立ちにまつわるものだろう。さすがにリューゲも産まれていなかったようで、詳しいことは知らなかった。巨大蛙についても伝聞でしか知らないらしいが、大樹の話よりは詳しいものを聞けた。
そして三番目の勇者の話に、私は耳を傾ける。
初めて女性が勇者に選ばれ、世界に毒を撒き散らす竜を退治するための旅に出た。
勇者は竜を倒すために氷の洞窟や火の噴き出る山の中、風の吹き荒れる丘、揺れる大地の地下を巡った。
どうやらこの世界は私が思っていた以上にファンタジーな世界みたいだ。頭の中にゲームのダンジョンを描きながら、話を聞き続ける。
「食べ終わったみたいだから、続きは夕食のときにしようか」
空になった皿を見て、リューゲが話を切り上げた。物語は勇者があるの村を訪れたところで終わっている。竜を見たという情報をもとに訪れた村――その先で何が待っているのか。
「もう少しだけいいじゃない」
「どうせ夕食でも何か話せって言うでしょ」
未練たらたらで睨みつけるが、リューゲはどこ吹く風といった様子で食器を片づけはじめている。この様子からすると、どれだけせがんでも話の続きはしてくれないだろう。
「そういえば――」
――どうしてリューゲはその勇者の話に詳しいのかしら。
そう続けることはできなかった。
足元から感じる揺れに口を閉じる。ぐらぐらと揺さぶられる感覚は懐かしいものだった。遠い昔、忘れかけている記憶の中で、何度も私はこれを経験している。
「じ、しん……?」
揺れはすぐに治まったが、私が生きてきた十五年の間で地震を経験したことはなかった。
リューゲも食器を片づける手を止めている。そこまで大きな揺れではなかったからか、棚の上のぬいぐるみは落ちていない。
「……キミはもう大人だよね?」
倒れたものはないか部屋の中を見回していると、あまりにも唐突なことを言われた。私はリューゲを見ながら首を傾げる。
「……どうして?」
「ちょっと出なきゃいけないから」
リューゲが視線を窓に移す。そこには黒い鳥が一羽止まっていた。リューゲのものより、少し濃い色をした赤い目が部屋の中を見ている。
これでただの鳥だと思えるほど、私は間抜けではない。
「なら私もついていくわ」
私は目についた本を引っ張り出して、すでに知っている内容に目を通していく。騎士とお姫様の恋物語で、そこまで難しい話ではない。
それからも何冊か読んでいると、リューゲが昼食だと声をかけに来た。私は読みかけの本を一旦閉じて、昼食を自室に運ぶように指示を出す。
その間に本を定位置に片づけ、自室へと向かった。
机の上にはすでに昼食が用意されていた。パンとスープと、焼いたハムみたいなもの。昼食をがっつり食べる習慣はないようで、いつも軽いものが出てくる。
私はスープを口に運びながら、真正面に座るリューゲに視線を送る。普通の従者なら、こういうときに座ることはしないのだが、普通ではない従者だからしかたない。自室で食事をとるときはいつもこうだから、もう慣れた。
「何か面白い話でもしてちょうだい」
そう言って、話をせがむのもいつものことだ。伊達に長く生きていないからか、リューゲの話は新鮮なものが多い。他国の話とか、遥か昔の話とか。本では知ることのできない話を私は地味に楽しみにしている。
「そうだなぁ……じゃあ竜を退治した勇者の話をしてあげるよ」
女神の加護を受けた者は勇者と呼ばれるようになるらしい。人に希望を与える存在で、世界の災厄を払うために生きる。災厄は大樹だったり、巨大蛙だったり、様々な姿をしているらしい。
大樹は、この国の成り立ちにまつわるものだろう。さすがにリューゲも産まれていなかったようで、詳しいことは知らなかった。巨大蛙についても伝聞でしか知らないらしいが、大樹の話よりは詳しいものを聞けた。
そして三番目の勇者の話に、私は耳を傾ける。
初めて女性が勇者に選ばれ、世界に毒を撒き散らす竜を退治するための旅に出た。
勇者は竜を倒すために氷の洞窟や火の噴き出る山の中、風の吹き荒れる丘、揺れる大地の地下を巡った。
どうやらこの世界は私が思っていた以上にファンタジーな世界みたいだ。頭の中にゲームのダンジョンを描きながら、話を聞き続ける。
「食べ終わったみたいだから、続きは夕食のときにしようか」
空になった皿を見て、リューゲが話を切り上げた。物語は勇者があるの村を訪れたところで終わっている。竜を見たという情報をもとに訪れた村――その先で何が待っているのか。
「もう少しだけいいじゃない」
「どうせ夕食でも何か話せって言うでしょ」
未練たらたらで睨みつけるが、リューゲはどこ吹く風といった様子で食器を片づけはじめている。この様子からすると、どれだけせがんでも話の続きはしてくれないだろう。
「そういえば――」
――どうしてリューゲはその勇者の話に詳しいのかしら。
そう続けることはできなかった。
足元から感じる揺れに口を閉じる。ぐらぐらと揺さぶられる感覚は懐かしいものだった。遠い昔、忘れかけている記憶の中で、何度も私はこれを経験している。
「じ、しん……?」
揺れはすぐに治まったが、私が生きてきた十五年の間で地震を経験したことはなかった。
リューゲも食器を片づける手を止めている。そこまで大きな揺れではなかったからか、棚の上のぬいぐるみは落ちていない。
「……キミはもう大人だよね?」
倒れたものはないか部屋の中を見回していると、あまりにも唐突なことを言われた。私はリューゲを見ながら首を傾げる。
「……どうして?」
「ちょっと出なきゃいけないから」
リューゲが視線を窓に移す。そこには黒い鳥が一羽止まっていた。リューゲのものより、少し濃い色をした赤い目が部屋の中を見ている。
これでただの鳥だと思えるほど、私は間抜けではない。
「なら私もついていくわ」
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