悪役令嬢を目指します! 番外編集

木崎優

悪役と元勇者と魔女 小話・会話文

「千年前ってどういう感じだったのかしら」
「千年前、ですか?」
「話したくないのなら無理には聞かないわ」
「いえ、そういうわけではないので……ただ、聞いても面白いものではありませんよ」
「かまわないわ。教えてちょうだい」


「当時は今ほど発展していませんでした。一人の王が治めるには広大すぎる土地、しかも二代目の勇者が災厄を討伐してからだいぶ経っていたので、女神の威光も今ほどではありません。異教徒も多く、邪神なるものを崇める者までいました」
「異教徒に関しては百年前と一緒ね。規模はそこまで大きくはなかったけど」
「邪魔だったので全部滅ぼしたからもしれませんね」
「物騒すぎるわね」
「邪神という名の災厄を崇めていたので……道中何かと邪魔をしてきたんですよ。竜を討伐するだけでも大変なのに人の相手までしてられません。まあ、彼らを仲間に引き入れるまではできる限り避けてましたけど」
「一人で押さえ込むには大変だものね」
「彼らを仲間にした後も避けようとしたのですが、討伐に一度失敗したこともあり、邪神信仰者が調子に乗ってしまって……面倒だから全部殺そうということに」
「発想が物騒すぎる」
「壊滅させるまではよかったのですが……何も思わず惨殺していく彼らに危機感を抱きました」
「それ、手遅れなのではないかしら」
「人を簡単に殺しては駄目だと言っても聞き入れず」
「そりゃあそうでしょうね」
「しかたないので、敵意を向けてくる相手以外は放っておくように、ということで落ちつきました。竜が猛威を揮っていたため、彼らを諭すのは終わってからでいいだろうと……」
「まあ……気持ちはわかるわ」
「それから、モイラの噂を聞いて仲間にしました。周りが男ばかりだったので華が欲しかったんですよね」
「余裕ありすぎじゃない?」
「もちろん火力になりそうだからという理由もありましたよ」
「どんな理由であれ、勇者さまに拾われたことによって私の人生は花開きましたの。勇者さまには感謝しかありません」
「後は、せっかく魔法のある世界なのだから魔法少女を育てたいな、とも思いまして」
「余裕ありすぎよね」
「竜を追っている最中でしたので。何しろ相手は好き勝手に飛び回っていましたから、目撃情報を頼りに赴いても飛び立った後だった、というのが何度もあったんですよ。空振りが何度も続いたら気晴らしの一つや二つはほしくなります」
「……まあ、そう言われると、たしかに……いや、でも……」
「そのときに考案した魔法が討伐の役に立ったので、一石二鳥でした。使い魔を作り出す魔法なんかは今でも重宝しているようですし」
「私は使えないのですけど、あれは便利そうですよね。羨ましいです」
「……それ、どういう魔法なの?」
「まず、指などの体の一部を切り落とします」
「怖い」
「彼らの体を構成しているのは魔力ですので、切り落とした魔力を変形させて使い魔にします」
「最初から最後まであいつらにしかできない芸当だわ」
「魔法少女といえばお供の妖精的なもの、と思って考えたのですが……中身が彼らとなると、まったく可愛く思えないので却下しました」
「……まあ、そうなるわね。……それにしても、中々楽しそうじゃない。あなたたちの様子からして殺伐とした時代だったのかと思ってたわ」
「殺伐、かどうかはわかりませんが、領土同士の戦いは多く、奪うか奪われるかの弱肉強食なところはありましたね」
「その時代に産まれなくてよかったわ」
「本当に、ずいぶんと平和になったものだと思いますよ」
「勇者さまが見事竜を打ち倒したおかげです。ろくでもない女神ですが、力ある存在が天より見ていると思うだけで弁える方も増えますからね」






「そういえば、モイラの名前ってクロエが付けたのよね、どういう意味があるの?」
「意味、ですか……その、先日魔法少女にしたかった、と話しましたよね」
「ええ、聞いたわ」
「なので魔女の名前を付けようと思ったのですが……当時の私は少々捻くれておりまして」
「……どういうことかしら?」
「戯曲に出てくる三人の魔女、の由来ではないかとされている神の名前なんですよ」
「……捻りすぎね」
「魔女ではなく魔法少女の名前を付けるべきでした」
「趣味嗜好の話になりそうだから詳しく聞くのはやめておくわ」
「あら、私はこの名前気に入っておりますのよ。勇者さまが付けてくれた名前ですもの。勇者さまのことを忘れないように、作った家畜に私の由来となった戯曲の名前を付けたりしてみました。……もう召し上がりましたか? まだでしたら是非ご賞味ください」
「……あれ、あなたが名付けたのね」

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