薬師無双〜ドーピングで異世界を楽しむ〜

蜂須賀 大河

秘密

 ──ギムウェルム国、王城の客間。
 目的地の王城へと辿り着いた俺達は、ウォーレンさんとはそこで別れ、城の兵に客間にへと案内された。


 てっきりウォーレンさんも一緒に着いて来るものだと思っていたのだが、なんでも魔素の異常現象での事後処理などで、仕事が山ほど貯まっているらしい。


 そこに俺は今、豪華なソファーに腰を掛け、紅茶を飲んでいた。


「ねぇ、アラン………私、場違いだよね? そ、それに、ほら、黒龍倒したのだってアランなんだし、私は会わなくても大丈夫だったりしない……かな?」


「そんな事ないだろ。黒龍を倒したのは俺でも、リアラだって治療でたくさんの人を救ったんだ。それに、王様は俺じゃなく俺達を誘ったんだぞ? 諦めなさい」


「だ、だって………ぅぅぅ……」


 机の前を行ったり来たりと、リアラは落ち着きがなく、やはり一国の王と会うのでかなり緊張しているみたいだな。
 そんな感じで俺達は過ごしていると、コンコンとノックの音が聞こえた。


「──失礼します。アラン様、リアラ様、国王様との謁見の準備が整いましたので、ご案内させて頂きます」


 優雅な一礼をし一人のメイドさんが部屋へと入ると、謁見の準備が整ったと告げられた。
 そして俺達は、謁見場所でもある玉座の間へと向かう。


「………デカいな」


「……うん……やっぱり、私帰っていいかな……?」


「俺も帰りたくなったよ………はぁ……」


 玉座の間へ入る扉はかなり大きな石門で、石門の周りには昇り竜の彫刻が彩られるように彫られていた。
 そして、扉の中心には水晶と同じくらいの大きさの魔石が埋め込まれており、そこに魔力を通すと石門が開いたのであった。


 部屋の両端には兵がずらりと並んでおり、その中心にある玉座に国王は座っていた。
 俺達は、王の前へと行き、片膝をつけ跪き、挨拶をする。


「お初にお目にかかります国王様。俺達は、旅をしているアランと申します」


「り、リアラと申しましゅ!」


 挨拶を噛んだリアラは、恥ずかしさからか、顔を真っ赤にし、俯いていた。


「そんな硬くならんでいい。頭を上げてくれ」


 国王はそう告げ、俺達は頭を上げた。


「俺は、この国の国王をしているギムレット・レムリウスだ。早速だが、アラン、リアラ」


「はい」


「は、はい!」


 すると、国王は席を立ち頭を下げた。


「黒龍を討伐し、この国の危機を救ってくれて、本当にありがとう」


 まさか国王に頭を下げられるとはな……
 そういや、お姫様も王都の人達に気さくに声掛けて、話しているって言ってたっけ……
 ここの王族達は身分を振りかざすような行為をしないみたいだな。
 それに貴族達や兵達も、国王が頭を下げると、それに続いて頭を下げていたし。


 小説とかだと、ここで貴族や兵達が「こんな旅人風情なんかに、頭を下げる必要などはありませぬ国王様!」とか言われるものだと思ったんだけどね。
 なんか、本当に平和ないい国だよここは。


「国王様、頭を上げて下さい。それに確かに黒龍を倒したのは俺ですが、ここにいるリアラや他の冒険者達が頑張ってくれたからこその結果ですから」
「それでも、言わせて欲しい。ありがとう」


 再度、国王に感謝の言葉を告げられる。


「はぁ……分かりましたから、本当頭を上げて下さい。うちの仲間が固まってしまってるので」


「う、うむ。すまない」


 隣を見ると、極度の緊張と驚きでリアラは微動だにせずフリーズしていた。


「それで、今回の黒龍討伐の功績による報酬なんだが、これを受け取って欲しい」


 そう告げると、煌びやかな装飾が施された短刀と、硬貨の入った袋を手渡される。


「これは、この国の王族と縁のある者と証明する為の短刀だ。それがあれば、旅をしているお前達なら何かと役に立つだろう。それとこっちは報酬金だ。2億メル入っている」


「2億メル!? そんなに頂けるのですか!?」


「国の危機を救ったんだ。そのくらい貰えて当然だろう」


 まさか、この短期間にこんなにも金を稼ぐなんてな……
 ギルドでの報酬だけでも充分だったけど、こんだけあれば普通に生活してたら一生稼ぐ必要ないよな……
 それに2億メルって聞いた時、隣にいるリアラの目の生気が消えたけど……大丈夫か、これ……


「そ、そうですか。それなら、有り難く使わせて頂きます」


「うむ。では、今回はこれで謁見を終了とする」


 はぁ……色々と驚く事が多すぎて、疲れたけど、これでようやく一息……


「それと、すまないがこの後少しだけ二人は俺に付き合ってくれ」


 つけなかったみたいだ……
 まぁ、いいか。
 後少しだし、頑張りますかね。
















 ☆












 ──フリーズしていたリアラをなんとか正常に戻し、俺達は玉座の間を後にした。
 少し付き合って欲しいと言われた俺達は、王様の後を歩いていると、一つの部屋の前で国王は止まり、コンコンとノックをした。


 ここって、もしかして………


「ティアナ、入るぞ」


「はい、どうぞ。お父様」


 やっぱり、お姫様の部屋か。
 恐らく、ウォーレンさんが国王に俺が白ローブの可能性がある事を伝えたんだろうな。


 そして、国王が部屋へと入ると、俺達も入るよう促され、渋々俺は部屋の中へと足を踏み入れた。
 部屋へと入るとそこには、椅子に座り、紅茶を飲んでいるお姫様がいた。


 窓際に座り紅茶を飲んでいたお姫様には、一筋の日の光が差しており、その光に反応するかのようにキラキラと輝く銀色の髪がお姫様を一層神々しく見せた。


(治療に来たあの日は夜のせいか、あまり分からなかったけど、こうしてみるとまるで女神のようだな……)


「ティアナ、もう起き上がっても大丈夫なのか? 辛いなら、ベッドの上でもいいんだぞ?」


「いえ、大丈夫ですお父様。あのお医者様のお陰で、体調もすっかり良くなりましたので。それに2、3日はちゃんと安静にしてましたし、そろそろ身体を動そうと思いまして。ね、先生?」


 そう告げたお姫様は前髪を耳に掛け、ニコっと俺を見つめ微笑んだ。
 その仕草に少しドキっとしてしまうが、すぐ俺は頭を切り替える事に。


「やっぱりバレてましたか……そうですね。姫様はもう完全に治っていますので、もう運動などなされても大丈夫ですよ」


 さっきティアナ姫を鑑定し、異常もなかったので、もう動いても大丈夫だろう。


「ありがとうございます。そして、改めまして、ギムウェルム国第一王女であるティアナ・レムリウスと申します」


 ティアナ姫はスカートの両端を優しく摘み、一礼をする。
 その後、俺とリアラは自己紹介を済ませるが、リアラは変わらず自己紹介時に噛んでいた事は言うまでもないだろう。




「──やっぱり、アランが白ローブの男で間違いなかったか」
「国王様、姫様、申し訳ありませんでした。勝手に城内に侵入したあげく、姫様を医者と騙し薬を与えてしまい」


 そして俺は素直に謝罪し、頭を下げる。


「頭を上げてくれ、アラン。それに感謝するのはこちらの方だ。娘の病を治してくれて、本当にありがとう」


「そうですよアラン様。謝る必要などありません。病を治して下さり、本当にありがとうございました。ただ少し聴きたい事があるのですが、よろしいでしょうか?」


「はい、なんなりと」


「ありがとうございます。まず、どうして私の病を治して下さったのでしょうか?」


「う……そ、それは……」


「……言えない事なのでしょうか?」


「いえ……言えない事と言うか、なんと言うか……」


 王都に住む人達が、ティアナ姫の病気を心配していて、そんな国民に愛されているお姫様を治してあげたかったとか、恥ずかしくて言えねぇ……
 でも、ティアナ姫の目がどんどん、ウルウルしているし……
 そんな顔されたら腹を括るしかない、か……


「はぁ……言いますから、そんな顔しないで下さい姫様。実は、この国に来て数日が経って、買い出しをしていると、街の人達が、姫様の病気について話してて、凄く心配していたんですよ。どうにか出来ないかって」


「……街の人達が……ですか?」


「はい。それを聞いた俺は、この国のお姫様って国民に愛されてるんだなって思い、そんな愛されているお姫様をどうしても助けたくなりまして……」


「そ、それが理由ですか……?」


「は、はい……」


「そ、そうですか……」


「はい………」


「「………………」」


 なんだ、この感じは……
 恥ずかし過ぎる………どこかに埋まりたい……
 ティアナ姫は何も言わず、頬を赤く染め、俯いているし、それに、国王はなんかニヤニヤしているし、リアラは………なんだろう……背後に般若の様なオーラが一瞬見えたような………気のせいだよね……?


「ウォッホン。あー、理由は分かったんだが、アランよ。薬で治したみたいだが、よくティアナの病気が分かったな。うちの国で仕える一流の薬師達でも病名も分からず、薬ですら作りようがなかったと言うのに」


「いや、病名は俺も分からかったですけど、それでも効く薬をたまたま持ってまして」


「………それって、もしかすると、生魂の雫とか言わないよな……?」


「そうですけど、よく分かりましたね」


「なっ……そんな国宝級のアイテムをどこで手に入れたんだ!?」


「いえ、たまたま素材があったので調合して作りましたけど」


「作っただと!?」


 国王はもの凄く驚いているが、そんな驚く事なのだろうか?


「アラン……お主の職業を良ければ教えてくれないか……?」


「聖薬師ですけど?」


 本当は神ノ御使に進化したが、本当の事を言う必要もないだろう。
 それに、元は聖薬師だったんだし、嘘ではないよね。


「えっと……聖薬師なのに、一人で黒龍を倒し、5000以上の魔物達を倒したのか……? それに報告では、上級魔法を使っていたと聞いたが……」


 ああ、確かに……
 いくら上級職とは言え、聖薬師が一人で魔物達を倒したのは流石におかしいよな……
 それに案外忘れがちになるけど、この世界には俺みたいにサブ職業を持っている人はいないんだよな。
 これはミスったな……
 でも、なんとか誤魔化すしかないか。


「まず国王様、俺は自分の力を隠している事もありますが、それでも薬師だろうと商人だろうと戦士だろうと努力さえすれば、いくらでも強くなれます」


「やはりまだ何か隠していたか……因みに、それは教えてくれたりするんだろうか?」


「申し訳ないですが、お教えする事は出来ません」


「そうか……非常に気になるが、残念だ」


 こればっかりは流石に教える訳にもいかないからね。


「それはそうと、そんな高価な薬を貰ったとなるとこちらも、それ相応の物を渡さないと………」


「いえ、報酬は結構です。どうしてもと言うならそれは、姫様の体調を想っていた王都の人達にお与え下さい」


「そうか………分かった。アランよ、この度は本当に世話になった。心から礼を言う」


「いえ、こちらこそ色々と良くしてもらってありがとうございました」


 そして俺達は、国王との謁見やティアナ姫の一件の話し合いは終了し、そろそろ俺達はニアの待つカフェへと戻る事にした。


「──あ、あのアラン様!」


 部屋を出ようとする俺に、姫様は声を掛ける。


「あ、あの……その……」


「…………? 姫様、顔が赤いですけど、もしかして、まだ熱が?」


 鑑定してみるが、やはり異常はない。
 もしかして、風邪や熱などは鑑定では分からないのか?


「姫様、少し失礼しますね」


「え、あ、そ、その……あっ……」


 俺はそう言うと、姫様に近付き額を合わせる。
 熱は……ないかな。


「……アラン? 何してるの……?」


「え、何って、姫様に熱が………ひっ!? り、リアラ……?」


 後ろを見るとそこには、先程の般若のオーラを漂わせたリアラがこちらをもの凄く睨んでいた。


「………後で話しがあるから」


「は、はい……」


 そう告げたリアラは踵を返し部屋を出た。
 なんだよ一体……それに、あの迫力……黒龍以上だ………




「あ、あのアラン様!」


「はい?」


「また………逢えますか?」


「勿論ですよ。またこの国に寄る時は是非姫様に会いに来ますよ。それでは、俺はこれで失礼しますね」


 俺はそう告げ姫様の部屋を後にし、何故か怒っているリアラを宥めながら、ニアの待つカフェへと向かったのだった。



























「………私に……会いに………はぅ………」


 ──とある国の王城の一室。
 そこには一人ベッドの枕に顔を埋め、悶えている王女がいた事は、ここだけの秘密だ。

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