薬師無双〜ドーピングで異世界を楽しむ〜

蜂須賀 大河

驚きの一日

 ──気がつくと、見た事がある空間に俺はいた。


「あれ? ここって……」


「気が付いたみたいじゃのぅ」


 振り返るとそこには、相変わらず座布団の上で茶を啜っていた爺さんがいた。


「神様? って事は、また俺は死んだのでしょうか?」


「いいや、お主は死んどらんよ。ただ気絶しとるだけじゃ。そして、その意識に儂が介入しとるだけじゃから安心せい」


「なるほど。それで、今回神様がいるって事は何かあるんでしょうか?」


「うむ。お主の職業の事なんじゃが、神ノ御使だっけの? 実は、そんな職業存在せんのじゃよ」


 え?
 どういう事?


「職業には、教会で変える事の出来ない生まれ持った才能の様なものもあるんじゃよ。勇者とか魔王とかがそうじゃの。そう言った職業は最上級職と呼ばれるんじゃ」


 ふむ。


「他にも最上級職になる方法も知られてはいないが実はあるんじゃよ。例えば、戦士の上級職の『剣王』になったものが、教会で拳士に変更したとする。そして、その拳士も上級職である、『拳王』になった時に、二つの職業が統合されて新たに『武神』という最上級職が現れるのじゃよ」


 そうなんだ。
 なんか本当にRPGみたいな世界だな。


「でも、普通の人なら一つの職業を上級職にする事すら困難じゃ。ましてや職業自体を変更する事のない世界で、二つの職業を上級職にしようとする奴なんかおらんがの」


 まぁ、確かに。


「その話しを聞く限り、俺の薬師と僧侶が上級職へとなりそれが最上級へと変わったって事なんじゃないんですか?」


「いや、お主の薬師の上級職である『聖薬師』と僧侶の上級職である『大神官』は本来なら『鳳凰』になる筈なんじゃよ」


 鳳凰……
 名前からして、凄そうな職業だな……


「まぁ、こうなった原因は分かっとるがの」


「その原因とはなんでしょう?」


「まずは、さっきも言った通り、二つの職業を上級職へと変わった事によるものじゃ」


 ふむ。


「本来なら『鳳凰』になる筈じゃったが、そこに儂の加護の力が加わったみたいでの。それで『神ノ御使』と言う新しい職業になったみたいじゃな」


 なるほど。


「それらが原因で、光魔法も一気にレベルが上がり神聖魔法となっておるしの。それに今のお主は、一端とは言え神の力を操れるようになっとる」


「マジですか……」


「マジじゃの」


 色々理解が追いつかないけど、とりあえずは物凄く強くなったとでも思えばいいか……


「でも神の力を操れるとは言え、今のお主は所謂、神としては新米じゃ。今のお主より強い者や魔物などはまだまだおる。旅を続けていくなら、これからも精進する事じゃ」


 ホッホッホと笑いながら長く白い顎髭を撫でる神様。


「分かりました。ご忠告ありがとうございます」


「うむ。そろそろ時間みたいじゃの。それじゃ、アランよ、達者での」


「はい。ありがとうございました」


 そう伝えると神様はニコッと笑い、そこで俺の意識は落ちたのだった。












 ☆








 …………ぅぅ……


 誰かの泣き声がぼんやりとだが、聴こえてくる。
 それになんだが………苦しい……。


「………ん。おはよう、リアラ」


 意識がゆっくりと戻るとそこには俺に抱きついているリアラがいた。


「……ぅぅぅ……何がおはようよ! 馬鹿っ! あほっ! 心配したんだから! ぅぅぅう……」


「あほって………」


 リアラは俺の胸に埋まり、ポカポカと俺を叩きながら泣いている。


「心配掛けてごめんな」


 そう告げた俺は、そっとリアラの頭を撫でた。






 ──それから程なくしてリアラはなんとか落ち着きを取り戻し、俺は今の現状を聞いていた。


 なんでも、治療を続けていたリアラは、突然凄まじい咆哮が聴こえ、他に治療を続けていた者達や冒険者達は一瞬時が止まったかのように動けなかったという。


 そして恐る恐ると、咆哮が聴こえた上空を見てみると、そこには禍々しい魔力を纏った漆黒のドラゴンがおり、冒険者達や治療をしていた者は、怪我人達を避難させようとしたり、我先にと逃げ出す冒険者もおり相当パニックになっていたらしい。


 それからは、いきなり火柱のような魔法で、ドラゴンが落下していくのが見えると、その隙に怪我人達を避難させていたみたいだ。




「──なるほど。それでリアラはどうしてここに?」


「皆を避難させて少し経つと、激しかった戦闘音が突然聴こえなくなったから、私はアランの事が心配になって探しに来たの……そしたら、ドラゴンとアランが倒れてて……ぅぅぅう……もう、心配掛けさせないで……」


 目を潤ませ、泣きそうになりながらも堪えているリアラを見て、俺はこんなにも心配してくれて幸せな気持ちと、そして申し訳ない気持ちで一杯だった。


「……そっか。本当に、ありがとな」


 俺の胸に抱き付いているリアラに礼を言いながら頭を撫でる。




(もう絶対泣かせないようにしないとな……)














 ☆












 俺達は、黒龍を異空間収納ストレージで回収してから、冒険者ギルドへと報告にやって来ていた。


 受付へ行き、今回の件を話すと、ギルドマスターの部屋へと案内された。




「アラン。それにリアラ。今回の件、本当に感謝する」


 部屋へと案内された俺達は、開口一番にウォーレンさんに感謝を述べられた。


「いえ、こちらも手元が寂しくなって来たとこなんで、丁度良かったですよ」


「はは。そう言って貰えると助かる。それで、今回の件だが、詳しく話して貰えるか?」


「ええ」


 それから、俺達は今回の事を詳しくウォーレンさんに話した。
 5000を超える魔物を倒し、そして魔素の異常現象の元凶である黒龍を倒した事。


 それらをウォーレンさんに話すと、驚きを通り越し、むしろ呆れられていた。


「──まさか、アラン一人でそれほどの魔物の大群と、黒龍を倒すとはな……只者ではないと思ったが、まさかここまでとは……」


 自分でも、今回のこの異常現象を良く乗り切れたなって、つくづく思うよ……


「それと、報酬の件なんだが、まずはこれを受け取って欲しい」


 そう言うと机の上に、ジャラジャラと音が鳴る硬貨の入った袋を置く。


「この中に白金貨3枚と大金貨5枚が入ってる。確認してくれ」


 えっ?
 白金貨3枚と大金貨5枚って事は、3500万メル!?
 そしてリアラもなんか固まってるし!?


「えっと、そんなに貰えるものなんですか?」


「今回の報酬で言えばSランクのクエストより少し報酬が多いってとこだな。それにアランは命掛けで黒龍を倒したんだ。それくらい貰えて当然だろう」


 まぁ、確かに。
 それにしても、S級冒険者になると相当稼げるんだな……


「後、お前達が倒した魔物を解体して換金する事が出来るが、5000以上の魔物と黒龍となると、一月程時間が掛かるんだが………」


「ああ、それなら黒龍さえ頂ければ別に魔物の報酬はいらないですよ。それに、黒龍との戦いの被害で、ほとんどの魔物が木っ端微塵に吹き飛んでしまいましたし」


「そうか。それじゃ黒龍だが、うちで回収して解体させるので構わないか?」


「あっ、黒龍はもう既に回収してあるんで、解体だけお願いしてもいいでしょうか?」


「ん? 回収ってまさかお前、空間魔法が使えるのか!?」


「まぁ、そんな感じですね。今から解体して貰っても大丈夫ですか?」


 正確には空間魔法じゃなく、異空間収納ストレージだけどね。


「あ、ああ。色々聴きたい事はあるが、取り敢えず解体場へ行こうか」


 そして、未だ固まっていたリアラの目を覚まし、俺達は解体場へと向かった。


「それじゃ、ここに出してくれ」


 冒険者ギルドの裏手には、学校のグラウンド位の広さの解体場があり、俺はそこで黒龍を異空間収納ストレージから取り出した。


「本当に空間魔法が使えるんだな。アランの職業は賢者なのか?」


「ご想像にお任せしますよ」


 無闇に自分の情報を広めて、目立ちたくもないしな。


「まぁ、そういうだろうと思ったがな」


 ウォーレンさんはそれ以上聴く事はなく、直ぐに職員達に声を掛け黒龍の解体に取り掛かってくれた。
 黒龍の素材は、肉を半分だけ売って残りは明日全て俺が回収する形にした。




「──それじゃ、また明日素材の回収に来るんで、今日はこれで」


「ああ。今回は一般人であるお前達にこんな事を頼んで本当に申し訳なかった」


「いえいえ、こちらも稼がせて貰いましたし、本当に大丈夫ですから」


 帰り際に改めてウォーレンさんから感謝された俺達は、日も沈み始めたので、宿へと帰路に就いた。


 宿の食堂で食事を終えた俺達は、部屋の風呂に入り疲れを癒していた。


 俺が風呂からあがると、先に風呂に入っていたリアラは今日の疲れもあり、ぐっすりとベッドで眠っていた。


 リアラを起こさないようベッドに潜り込み、リアラの頬に口付けをする。


「おやすみ、リアラ」


 そして、俺達は長い一日を終えた。

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