楓と葉霧のあやかし事件帖〜そろそろ冥府へ逝ったらどうだ?〜

高見 燈

第20夜  幻世〜うつせ〜

 ーー春はすっかり終わりを告げた。

 大型連休となるちょうどその頃………。

 葉霧は生徒会室で、パソコン画面を見ていた。

「あれ?? 葉霧~。今日は来ないかと思ってた。」

 生徒会室に入ってきたのは見た目からして明朗快活。天真爛漫。

 四文字熟語が並びそうな元気いっぱいの少女だ。

 神梛夕羅かんなゆら
 生徒会メンバーであり、同級生。
 葉霧とは小学校からの付き合いだ。

「神梛か。」

 葉霧はパソコン画面を前にただそう言った。ぼぅっとしている。

 ショコラ系色の髪をポニーテールにしてる夕羅は、髪を揺らしながらデスクに近寄る。

 背もそこそこ高く小顔。
 グラマラスな可憐な少女は笑顔を覗かせた。

「なになに?? 恋のお悩みですか~~??   連休のデートで参ってますかぁ??」

 夕羅は葉霧の前でそう笑う。

 ぶはっ………

 直ぐに吹き出す声が聞こえた。

「あ! なぁに~?? いたの?? 灯馬!」

 夕羅は書類ファイルの並ぶ棚から顔を出した灯馬に頬を膨らませた。

「悪い悪い。余りにもバカにしてっからさ。」

 灯馬は笑いながらデスクに向かってくる。

「バカにしてないでしょ?? 寧ろ応援してるでしょ?? そのお姫様みたいな楓ちゃんとのこと!」

 灯馬経由での話である。


 がちゃ。

 生徒会室のドアが開く。

 入ってきたのは栗色の長い髪をふわふわさせた少女だ。

 大きな瞳がトレードマークのドールフェイス。美少女と言う言葉がとても似合う天使な微笑みを持つ少女

 桐生水月きりゅうみつきだ。
 灯馬のラブガールである。葉霧とは幼稚園からの幼馴染みだ。

「いたいた。葉霧く~ん。あのね。GWなんだけど」

 入ってくるなり葉霧の隣に直行。
 その後ろからはこの学園のもう一人のイケメンくん。

 雨水秋人うすいあきとだ。

 葉霧とはタイプが対極。
 こちらはクールそのもの。

 神秘的な黒髪にきりっとした凛々しい目元。良く言えば。悪く言うと目ヂカラ強いキツ眼。

 加えて無愛想で無表情。葉霧よりも何を考えているのかわからない少年だ。

 だが、その整った顔立ちはそのマイナス点を振り払うほど。

「珍しくいたか。最近のお前はサボりすぎだ。また、例の“楓”か?」

 こちらも灯馬経由。

 秋人も、幼稚園からの幼馴染みだ。
 葉霧にとって灯馬同様。
 大切な親友であり、戦友でもある。

「何なんだ? 俺はそんな事を一言も言ってない。」

 葉霧は溜息つく。

「またまた~……」

 ニヤニヤする灯馬は葉霧の隣に座る。

 生徒会メンバーはこうして時間があると、集う。仲のいいメンバーなので、一緒にいる事が多い。

「ちょっと~~。聞いてくれます??」

 水月が腰に手を当てて不機嫌そうな顔をする。

「どうした? 桐生。」

 葉霧が視線をあげた。

 生徒会会長は葉霧だ。副会長は秋人。
 広報担当は、夕羅。
 経理担当は、灯馬。
 そして……書紀兼情報収集に水月。

 二年生になると同時にこの学園の理事長推薦で押し切られ発足した……曰く付きの生徒会だ。

「それがね。演劇部で合宿やるらしくて………。助っ人。頼まれちゃったの。生徒会で。」

 水月がとても言いにくそうにそう言うと

「はぁっ!?」
「助っ人??」

 返ってきたのは灯馬と夕羅の声だ。
 ほぼ同時に。

 葉霧と秋人は目を丸くはしていたが至って平然。

「助っ人とは? 何かそんなに困る事があるのか?」

 葉霧は平然としたままそう聞いた。
 秋人は、パソコンの置かれたデスクの前の椅子を引く。

 オフィスの様な室内だ。
 葉霧はホワイトボードの置かれた前に座っている。

「それが………入部した新入生が……。どうも。退部したみたいで、人手不足なんだって。」

 水月は困惑した様な表情をしている。
 座った秋人が、鋭い眼光をぶつける。

「何だ? その奥歯に物の挟まった様な言い方は?」

 無表情でいて無愛想。
 ぶっきらぼうなその口調に、ハスキーボイス。怒っている様な言い方だ。

「理由は……よくわからないんだけど。この一ヶ月で……ほぼ全員。」
「全員?? なになに? イジメ??」

 夕羅は目を丸くして水月を見つめる。


 ふぅ………。

 葉霧は一つ。息を吐く。

「何か聞いてないのか? 桐生。演劇部は毎年コンクールで、入賞を果たす強者だ。部員数も50人前後抱えている。問題が無いとは言い切れないが………。新入生が全員退部となると……、放置は出来ないな。」


 葉霧の淡々とした物言いが、生徒会室に響く。誰もが……水月に視線を向ける。


「“噂”よ? 聞いた話なんだけど………」

 言いづらそうな表情をしながらも、水月は口を開く。

「ウワサ? なんだ? 水月。」

 灯馬は頬杖つきながらそう聞いた。

「その……三年生の“ヒロイン役”の人が……。どうもおかしいみたいで……」
「おかしい?? なに? どうゆうこと??」

 水月はとても困惑した様な表情をしている。顔を俯かせた。

 夕羅は、興味津々の様子。

「ハッキリしねーな。人手不足なんだろ? 理由は? わかってるなら言え。」

 煮え切らない状態に苛立ちを募らせているのは秋人だ。持っていたプリント数枚を、デスクの上に投げた。

「秋人。そう言うな。桐生……演劇部は、学園の中でも有名で人気の高い部活だ。何か知ってるなら報告してくれ。困っているなら、策を練り解決する方法を考えるべきだ。」


 葉霧がそんな秋人を宥めながら、水月に持ち掛ける。威圧的な態度の秋人を、制するのも葉霧だ。

「うん……その。」

 水月はやはり言いづらそうだが、顔をあげた。

「何かに“とり憑かれてる”んじゃないか? って噂になってるみたいで………」

 その一言に場は止まる。
 空気が停止した。


「とり憑かれてる!? ったく……好きだな~。そーゆうオカルトチックなハナシ。」
(まじで聞いて損した。)

 はぁぁ………

 灯馬は溜息ついた。

「だから! そう言われると思ったから………言いづらかったんじゃない!」

 水月は直ぐに反論する。

「じゃーなにか? “ソイツ”が夜な夜な部員のとこでも出てきて呪いの言葉でも、訴えてくるってのか? ありえねーっつーの。」

 灯馬はまるで吐き捨てる様な言い方だ。

(……呪いを訴える? 灯馬はたまに日本語がおかしい)

 葉霧は灯馬を見ながら呆れ顔。

「でも……気味悪いみたいだし……部員の中にも怪我人も出てるみたいだし。ウワサってだけじゃなさそうなのよ。」

 水月は葉霧を見ると訴えかける様にそう言った。

「怪我人は、練習中の事故か?」
「ええ。そうなってるみたいだけど……。
 舞台の照明が落ちてきてその破片で腕を切ったとか……セットの段差から突然転倒して、頭に軽い怪我をしたとか聞いたけど………。」

 葉霧は腕を組む。

(何とも言えないな………)

「その気味悪いヒロイン役とは、具体的に?」
「うん……突然、発狂した様に奇声あげたり……笑ったりするみたいだけど。練習中に。でも、練習終わると忘れてるんだって。
 そこに、怪我をする人も出てきたから気味悪がって辞めたみたいよ。」

 水月の言葉に葉霧は考え込む。

「今の話を纏めて見た所で、新入生が全員退部する理由とは、思えねーな。奇才と天才は紙一重だろ。特に芸術視点で言えば。」
「そうだけど……恐がって辞めた人もいるのは本当よ。」

 秋人の声に水月は引き下がらない。

「ん~……。ちょっと“弱い”よね? なんかこーもっとそれっぽいのが無いと……オカルトとは言えないよね?」
「どの目線でモノ言ってんだ?お前は。」

 夕羅のほわほわした解答に灯馬は呆れていた。

「葉霧くん。合宿は学園の宿舎だって言うし……。手伝うのも理由だけど……調べてみるいい機会だと思うの。これで……何かわかれば辞めた人達も戻ってくるかもしれないし」

 水月は身を乗り出した。

「………新入生の退部理由は、確かに放置は出来ない。だが……言っておく。噂の真相を突き止めるのが目的じゃないからな? あくまでも退部した理由を、探すのが目的だ。」

 葉霧は鋭い眼を水月に向けた。

「わかってます! って!」

 水月はにこにこと笑う。

「“霊能探偵出動”ね。」

 夕羅の瞳はきらっと光る。
 得意気である。

「なんだそれ…………」

 灯馬は隣で苦笑いを零した。

(今度は完全なオカルトか。)

 葉霧は溜息ついた。

           
 ✣             

 ーー【蒼月寺】
         

 葉霧が帰宅したのは六時前だった。

 すっかり陽も高くなってきた。
 この時間になると暗くなる。


「お帰り。」
「お帰り~。」

 和室に顔を出す葉霧。

 家に帰ってくると事実に行く前に必ず立ち寄る。ここには、皆がいるからだ。

 夏芽はいない。

「ただいま。あれ? 楓は?」

 和室には優梨と鎮音がいた。

「楓ちゃんはお出かけ中。」

 優梨はテーブルに手をつくと立ち上がる。


「何処に?」
(………またか。)

 葉霧は心配そうな顔をする。

「そう気にする事もないだろう。アイツもそれなりに弁えて生活している。」

 鎮音は新聞を広げていた。
 その目元には眼鏡を掛けている。

「そうだな。着替えてくるよ」

 葉霧は和室を出る。

(あの日以来……。楓の様子がおかしい。)

 葉霧は玄関を通り階段に向かう。

(何が? と、聞かれると困る………。だが………おかしい。不自然だ。)

 階段を上がる葉霧。
 家の中は静かだ。

 ガチャ………

 葉霧は自室のドアを開けた。

(態度が……余所余所しくなった。余り……近寄らなくなった。気の所為かもしれないが……こうやって俺の帰りを、待たなくなったのは事実だ)


 ✣
            


「次郎吉~!」

 楓は駅前の公園にいた。
 噴水のある大きな公園だ。

 そこに小肥りのスーツ姿の男性が駆け寄ってくる。

 見た目三十代後半ぐらいの男性の姿だ。
 ハンカチ片手に、ふくよかなお腹を少し揺らしながら駆けてくる。

「悪い! 悪い! ちょっと商談が伸びてな。」
「いや。いいよ。お疲れさん。」

 楓は❨人に化けた次郎吉❩に、缶コーヒーを手渡した。

「ビールといきたいところだな。呑み行くか?」
「いや。今日は帰るよ。」

 次郎吉と楓はベンチに腰掛けた。

 次郎吉は鞄をベンチに置くと缶コーヒーのプルタブを開けた。

 ぐび。

 喉が渇いていたのかグビグビと飲む。
 楓は隣でライトアップされている噴水を見つめていた。

「あ~……ビールじゃねぇけどうめぇな。」

 次郎吉は缶コーヒーを口から離し満足そうに笑う。

「次郎吉。この前の“三人”はどーしてんだ? あれから……お前の店。行ってねぇから。」

 次郎吉の店から出た所で、喧嘩を吹っ掛けてきたあやかしのことである。

「来てるよ。いつもと変わらず。気にすることねぇって。アイツらも……やられたんだ。
 楓に、手を出そうとは思ってねぇよ。」

 大きな眼は相変わらず。
 人間に化けてもその愛嬌ある顔つきは変わらない。幼く見えるのも、このまん丸とした顔つきと可愛らしい瞳の影響であろう。

「そうか。」
「そうだ。腕で敗けたんだ。あいつらは。」

 次郎吉は、缶コーヒーの缶を両手で押さえながら笑う。

「何か言われても“証人”に、なってやる。俺はちゃんと“見届けてた”。」
「え?? そうなのか?」
「ああ。」

 ベンチから立ち上がると次郎吉は、近くにあるゴミ箱に缶を捨てた。
 きちんと缶専用の、ゴミ箱だ。

「だから呑みに来いよ」

 次郎吉は鞄を取ると楓を見下ろす。

「うん。そーする。ありがとう。」

 楓は次郎吉を見ると安心した様に笑った。
 次郎吉もまたそんな楓を見ると笑う。

「帰るんだろ? 玖硫の坊っちゃん。待ってんじゃねぇの?」

 楓は噴水に視線を向けた。
 噴き上がる噴水を。

「どうかな。」
「ん? 何かあったのか?」


(葉霧……。)


 楓はフッ……と笑うと立ち上がる。


「次郎吉。この前……言ってた幻世うつせの話。アレ……本当なのか?」

 噴水は滝の様に下に流れ落ちる。
 水流の音が響く。
 蒼いライトに照らされながら。

 次郎吉は、楓を見据えた。

「ああ。何処かにある。とされてる。そこから……闇は産まれる。元凶と発端の世界だ。」

 強い眼差しで楓を見据えていた。
 楓はそんな次郎吉を、何処か……羨望するかの様な眼で向けていた。


「そこに行けば……オレはオレでいられる。」

 ぎゅっ。

 楓は手を握り締めた。

「やめとけよ。夢物語だ。そんな世界があったら彷徨いてねぇだろ。」


 次郎吉は、楓を酷く心配そうに見つめていた。

「ああ………そうだな。」

(でも……もしも……幻世うつせと言う世界が存在するなら……。オレはそこに行きたい。そこがきっと………オレの“居場所”だ。)


 次郎吉はふぅ………と、息を吐く。

「楓。幻世はな。確かに……あやかしが棲む妖だけの世界だ。だが……言伝えだ。誰も……その世界を見た事が無い。行った奴もいない。」

 楓は次郎吉を見つめる。
 次郎吉は、哀しそうな目をしていた。

「誰も見た事も無いのに言伝えだけは、あるんだ。何が言いたいかわかるか?」

 楓は首を傾げるが……へらっと笑った。

 はぁ………

(なんでコイツにこんな話をしちまったんだ。俺は。バカだから興味持つのは、わかってたのに。)

 次郎吉は溜息をつく。
 とても深く。

 だが、楓を見据えた。

「どんなリスクがあるのかわからない。得体が知れねぇんだ。俺達、妖にとって夢の様な世界だ。何の縛りも無く生きていける。仲間と一緒に。だが……行った奴には会った事がねぇ。」

 次郎吉の強い口調に、楓は表情が強張った。

「興味本位で近づくな。この手の話は必ず……裏がある。それもかなりダークなヤツだ。」

 楓は次郎吉のその強い眼と、強い口調に表情が強張ったままだった。


「……………!」

 公園の入口。
 走るその足は止まる。

 噴水の前で立つ……楓の姿を見て。

「楓!」

 その声は噴水の水流の音すらも掻き消すほど強く。楓の耳に入り込む。

「あ………葉霧……」

 楓の強張った表情は一瞬にして緩んだ。
 次郎吉はその表情に、振り向く。

 こっちに向かって走ってくる葉霧の姿。

(……玖硫の倅か……)

 葉霧は次郎吉など脇目も振らず楓に駆け寄ると腕を掴む

「楓! 心配した。何処に行くのかぐらいは伝えてくれ」

 覗き込むその眼はとても心配そうであった。楓はその眼を見つめると

「あ……ごめん。直ぐ帰るつもりだったんだ。」

 俯いた。

(また。)

 葉霧は苛ついた表情を浮かべると楓の肩を掴んだ。顔を覗きこむ。

「何? それ。」
「え??」

 強いその言葉に、楓は顔をあげた。
 驚いたのだ。葉霧は楓をとても強い眼で見つめていた。


「何で俺から目を反らす? “嘘”ついてるのか?」
「え………? 違う………。ウソじゃねぇし!」

 ぶっ。

 あははははっ!!

 次郎吉は大笑いだった。

 腹を抱えて笑った。

(こりゃいいや。このおままごと夫婦は笑える。あーそうか。コイツか。“この男”が、原因か。)

「なんだよ! 次郎吉! なに笑ってんだよ!」

 楓は突然、大笑いされてそう怒鳴っていた。

「誰……?」

 葉霧はようやく次郎吉を認識した。

「あー。すまん。玖硫の倅だよな? 俺は次郎吉だ。狸の妖だ。見ればわかると思うけど。」


 次郎吉はきょとん。としている葉霧を見ると自己紹介をした。屈託なく笑いながら。

「次郎吉……? 狸らしくないな。」

 ぶわっはっはっはっ!!

 次郎吉は更に大笑いした。

「次郎吉! お前! いい加減にしろ!」
「いやいや。ハッハッハ!お前ら……似合いすぎっ。」

 葉霧だけは首を傾げていた。

 次郎吉は楓にも全く同じ事を言われたのだ。

「いやー。ああそうか。なるほどな~……。
 まあ。心配して駆けつけてくれるってのがいいじゃないか」
「はぁ?? なにがだよ!」

 次郎吉は楓を見て笑う。
 楓は顔を真っ赤にして怒鳴っていた。

(テンションが……良くわからないな。)

 葉霧だけはキョトンとしていた。

「楓。この狸とは何処で知り合ったんだ?」
「え? あー。雨の日だ。葉霧の事を迎えに行っただろ?」

 葉霧はそれを聞くと記憶を辿る。

「ああ……。交差点にいた“信楽焼の狸”か? 人に化けると……こうなるのか。」

 葉霧は次郎吉の身体を眺めていた。

(特徴を捉えてるな)

 とても面影がある。
 次郎吉の人間としての姿は。あの信楽焼の狸に。

「えっと~……」
「葉霧だ。玖硫葉霧!」

 きょときょとと楓を見る次郎吉にそう教えた。

「ああ。葉霧くんな。改めてよろしく。
 今度、一緒に店来なよ。アンタなら“入れる”だろ。」

 次郎吉は葉霧に左手を差し出した。
 葉霧は右手で掴むと握手した。

「宜しく」
(入れる??)

 葉霧は次郎吉と握手を解く。

「次郎吉は飲み屋やってんだ。」
「え? 狸が?」

 真顔で驚く葉霧に次郎吉は、苦笑い。

(この兄ちゃん……意外と毒気強いかもな。)


「人間が“入れない店”だから。」
「そんな店があるのか?」
(良くはわからないが……奥が深いな。あやかしの世界も)

 平然と驚く葉霧に次郎吉は、笑いかけた。

 ごほん。

 と、咳払いひとつ。

「ヒトには“空きテナント”にしか見えない。けど、俺らは“商売”が出来るし店も無くならない。さあ? 何故でしょう? 玖硫葉霧くん。」

 葉霧は首を傾げた。
 暫く……黙っていたが

「人間と“取引”をしてるからだろ?」

 そう言って次郎吉を強く見据えた。
 その声もトーンはかなり落としていた。


「正解。俺は顔の効く不動産屋が幾つかあるからな。そこに金を支払い、空きテナントを紹介して貰い空きテナントのままで営業してる。但し、契約は一年。その後はまた違う場所で同じ様に店を持つ。これの繰り返しだ。」

(なるほどな。不動産屋にとってもマイナスにはならないのか。利害関係は一致しているから。)

 葉霧は少し関心を示した様子だ。

「色んな奴がいる。この世界で生きて行く為に……それなりに学んできてるんだ。俺達、あやかしも。中には、本能のままに、生きてる奴もいるけどな。でも、そんなの人間も同じだろ?」

 次郎吉は屈託なく笑いながら葉霧にそう言った。葉霧は、隣にいる楓に視線を向けた。

「?」

 楓は葉霧をキョトンとして見ている。

(そうやって………傍にいて見ていて欲しい。と思うのは……俺の我儘なのか……?)

 葉霧は次郎吉に視線を向けると

「そうだな。」

 そう微笑んだ。

(……葉霧………?)

 楓は葉霧を見つめていた。




















 













    

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