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楓と葉霧のあやかし事件帖〜そろそろ冥府へ逝ったらどうだ?〜

高見 燈

第2夜  玖琉鎮音

 ーー葉霧が楓を連れて来たのは母屋だ。

 その一室。和室の部屋だ。
食卓を囲む庭園の見える部屋ではない。

 母屋の奥にその和室はある。
 祖母の部屋だ。

 池の水流と鹿威しの音が聴こえる静かな部屋。本棚と書机。桐の箪笥が五つ並ぶ。一つ十段の引き出し。ざっと見ても五十段の引き出しがずらっと並ぶのは圧巻だ。全て着物。

 書物を嗜み……茶菓子と茶を摘むのか焦げ茶に近い年季の入った茶棚もある。
趣のある一昔前の広い和室であった。

 行灯……があるが、これはライトだ。
オレンジの光が多いが……たまに赤系色やピンクのライトが点くらしい。その理由は不明。

 玖硫家都市伝説である。

 鎮音しずねーーは、座っていた。萩色はぎいろの、着物。紫みの明るい紅 色。枯れ草色の菖蒲の絵柄。

 入って来た葉霧を見上げると


「何故……“鬼”がいる?」

 警戒した様な眼を向けていた。

 座布団の上に膝をつき腰を落とす葉霧。目の前の鎮音は書を嗜んでいたのか……老眼鏡を少しズラし見上げたのだ。

「“御神木”の前に居ました。」
「ああ。あれは、“封印”だ。」
「は……??」

 さらっと言って老眼鏡を掛け直すと、その目は本に向けられた。【騙しの一手】と言う将棋の書物だ。

 葉霧はキョトンとしている。

 楓はそんなやり取りがされる中で葉霧の隣にしゃがみ胡座をかいて座った。座布団が用意されていた。

「封印とは? そんな話は聞いた事がないが。」
「言っておらん。」

 淡々と会話は成されてゆく。
 お互いに表情は変わらない。

 葉霧の端整で綺麗な顔立ちは鎮音によく似ている。若い頃の鎮音を見ればその面影がわかるかもしれない。

 楓は和室の中をきょろきょろと見回していた。
(見た事ねぇモンばっかだな。)

 特に気になったのは大画面の……69インチのプラズマテレビ。スピーカーが隣に付属されてるシアターセット。鎮音のお気に入りだ。

「葉霧。“勾玉”の封印を解いたな?」
「開けただけです。」

 鎮音は楓の胸元に煌めく蒼い勾玉を、見つめると溜息つく。それは深い溜息だった。

「その勾玉は鬼の力の源だ。その昔、勾玉を奪い、力が消え失せたその者を、御神木に封じ込めた。それから私ら玖硫家は代々……監視と言う名目で、この寺と御神木を護ってきたのだ。」

 鎮音は老眼鏡を外すし、本を畳の上に置いた。読んだ所を開き伏せた。

 その声はとても穏やかな響きであった。
 まるで昔語りをしているかの様であった。

 だが、楓に向けられる視線は鋭く光る。

「その封印を解くとは……」
「だから。開けただけです。」


 鎮音の溜息を打ち消すかの様に葉霧はそう答える。平然としていた。


「にしても然程、妖気を感じんな。」
「さっき“鬼火”とやらを出せない。と、困ってたな」
「なんと? 」

 鎮音は目を見開くと楓を見据えた。葉霧は、目を丸くした。楓は……鎮音に視線を向ける。

「なんで出ねぇんだ?」
「それは知らんよ。」

 楓の問に即答する鎮音。

(封印の影響か……力がまだ本調子では無い……。そうゆう事かもしれんな。)

 鎮音は目を伏せた。

「鎮音さん、提案があるんだが……、この家に棲まわせたらどうかな? 害は無さそうだが……」

 葉霧は……楓の角に視線を向けた。
 膝の上に乗る手の長い爪も。

「この容姿は少し……害になる。」
「なんか腹立つな、その言い方!」

 楓は……じろ〜っと見られているのがわかると、そう言った。不貞腐れた様な顔をして。鎮音は目を開けると葉霧を見据えた。

「飼うのか? 」
「いや、違います。」

 葉霧の言い方は断言的であった。

「家畜か? オレは」
「だから飼わないから、好き好んで。」
「その言い方も腹立つな!」

 よもや漫才の様なやり取りを聞いていた鎮音は、葉霧と楓を交互に見ると

「確かに、得体の知れない奴を野放しにする訳にいかんな。この寺の尊厳に関わる。」
「だから! なんか腹立つんだよ! お前ら!」

 楓はしまいには立ち上がった。
 葉霧と鎮音を睨みつける。

「とにかく、面倒みてやれ葉霧。」
「不本意ですが。」
「お前が封印解いたんだよっ!」

 勝手な事ばかり言うなとでも言いたそうな楓であった。


           *


 桜の花は舞う。
 風に揺られながらその花音を立てて。

 ちらちらと舞う桜を見上げているのは楓だ。


「ここにいたのか。」


 葉霧は桜の樹の側に立つと同じ様に見上げだ。満開で美しいその花を。


「御神木だったんだな。この桜……。」
「ああ、樹齢は少なくても100年は超えているよ、大空襲でも焼けずに残ったそうだ。」


 東京大空襲……。
 この新宿の街も例外ではない。
 焼け野原になったのだ。

 この蒼月寺も被害に遭ったがこの桜の樹だけはその姿を残したままだった。
 それ故に御神木として祀られたのだ。

「今ならなんとなく理解ができるよ、楓が封印されていたからこの桜は生き残ったんだな。」
(樹齢……100年どころではないのか、楓が封印されていたと、言う事は……。)

 葉霧は幹に手をつけた。
 大樹であり太い幹だ。
 生命の息吹を感じさせるかの様に逞しい。

「それに……この“桜”は散らない。」

 葉霧は桜を見上げた。

「散らない……?」
「そう……散らないんだ。」

 風にのり……桜の花は舞う。

(ずっと……咲いているのも……そうゆう縁なのか……。)

 葉霧は淡桃の花を見つめていた。

「お前、やっぱり“変な奴”だ。」


 葉霧は幹から手を離した。
 腕を組み不貞腐れた様な表情の楓に柔らかな微笑みを浮かべる。

「お前じゃなく……葉霧はぎりだ。」

 楓は顔を向けた。
 真っ直ぐと葉霧を見上げた。


「不本意だが宜しくな“葉霧”。」
「こちらこそ。」


 少し照れた様子の楓に葉霧は優しく微笑んだ。


「と言う事で……」

 葉霧は楓にデッキブラシを差し出した。

「は??」

 楓はデッキブラシを前にきょとんとしている。

「手伝って貰う、楓は居候だ。」
「は???」

 奇妙な同棲は始まりを告げた。


























































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