誰にも邪魔させない。

咲倉なこ

7



やっと学校について教室に入ると、美結が私に飛びついてきた。


「海莉!おめでとう!!」


「え、なに?どうしたの?」


「ちょっと、とぼけないでよ!
柊と付き合うことになったんでしょ!?
ねーねー詳しく聞かせてよー!」


…情報まわるのが早すぎるんだけど…。


「それなんだけどね…」


美結にはウソはつきたくなくて、本当のことを話した。






「なーんだ、そうだったんだ」


「うん、だから本当に付き合ってる訳じゃないんだ」


あんなに喜んでくれたのに、美結には申し訳ない気持ちでいっぱいになる。




「でも、案外時間の問題かもよ?」


「またそんなこと言って。柊が私のこと何とも思ってない事、知ってるくせに」


「どーだろうね」


美結は含みを持たせる感じで笑ってる。




美結は、私が昔から柊のことを好きだって知っている唯一の友達。


あんな奴のどこがいいの?なんて美結いつも言うけど、なんだかんだでいつも恋愛の相談に乗ってくれる。



「でも何で今更、付き合ってるフリとかするわけ?」

「なんかね、見た目で近寄ってくる女子たちがイヤなんだって」


「えー今までもそんなの沢山あったんじゃないの?」

「そーだよね」


確かに高校に入ってから爆発的にモテてるけど、中学の時もそこそこ人気はあった。

今更と言えば今更だ。


「本当はもっと違うこと気にしてるんじゃない?」

「え、他に理由があるってこと?」


全然思い当たらないんだけど。


「誰かさんの為とかね」

「誰かさんって誰よ」


美結はさっきから楽しそうに喋ってるけど、何を言いたいのか私には全然伝わってこない。


「ま、せいぜい頑張んなよ!」


そう言いながら私の肩を叩いて、立ち上がる美結。


「あー今話しそらした!」


ちょうどその時チャイムが鳴って、美結の発言が気になったけど結局聞けなかった。




授業が始まるから、カバンの中から1時間目の授業の歴史の教科書を探す。


やばい。


教科書が見当たらない。


忘れてきちゃったのかな。


あの先生怒ると怖いんだよね。


今朝は柊のことで色々あったから、うっかりしていた。


チャイムなる前に気づけばよかった。




「教科書忘れてきたの?」


机の中やカバンの中をもう一度探していると、隣の席の坂城(さかき)くんが声をかけてきた。




「そーなの、最悪」


「じゃあ、僕の一緒に使う?」


そう言って机をぎぎーっとくっつけてきた。






そんな坂城くんを、まばたき多めで眺める。


「あ、ありがと。
…でも机はくっつけなくて大丈夫だよ?」


「でも、見にくいでしょ?」


おお!


教科書を見せてくれる上に、見やすさまで考えてくれている!


坂城くん、めちゃくちゃ優しい!


いつも柊のわがままに付き合わされてるから気づかなかったけど、普通の男子はこんなに優しいのか。


柊だったら自業自得って言われて見せてもくれなかっただろうな。



坂城くんの優しさに感激していると、先生が教室に入ってきた。


「先生、教科書忘れてきたんで、隣に見せてもらいまーす」

と坂城くんは先生に向かって言った。


私が忘れてきたのに、申し訳なさ過ぎる…!


でも坂城くんは先生に何を言われたって平気な顔をしていて。


心の中で、ありがとうってたくさん言った。




授業が始まってしばらくすると、坂城くんが教科書の端に何かを書き始めた。


何だろうと思ってその字を目線で追う。




”黒川と付き合ってるってホント?”




…すでに坂城くんの耳にも入ってる。


今朝、柊が放った言葉はたった二言なのに、恐ろしい程の浸透力でびっくりしてる。




男子だし本当のこと言っていいかな。


どーなんだろう。


なんて返事をしようか悩んでいると、ポケットに入っているスマホが震えて。


画面に視線を落とすと柊からのLINEだった。




”余計なこと言うなよ”




一瞬ドキッとして、廊下側の柊の席を見てみると、ばっちり目が合う。


うわ、めちゃくちゃ睨まれてるじゃん…。




分かったよ、言わないよ。


言わなきゃいいんでしょ!




「どうかした?」


柊に気を取られていると坂城くんが疑問に思ったのか聞いてきて。


「うんん、なんでもない」


そう言って、

”付き合ってるよ”

と教科書に返事をした。





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