誰にも邪魔させない。

咲倉なこ

3



「じゃあ、待ち合わせしてるから行こ」


「え、今から!?」


いつも唐突過ぎなんだって!


と口に出そうになるのをぐっと堪える。


またキレられるとイヤだから、言葉を飲み込んで素直について行くことにした。




だから珍しく一緒に帰ろうなんて誘ってきたんだ。


それならそれで、前もって言ってほしかった。


心の準備とか色々あるのに。




でも今更柊にそんなこと言っても、また言い負かされて終わり。


仕方ない。


こうなったらむしろ彼女のフリを楽しもう。






「お待たせ」


駅前で待ち合わせしていたらしく、柊は一人の女の子に手を振りながら近づいて行った。


それはそれはキラキラ輝く作り笑顔を決め込んで。


そんなことしてるから勘違いされちゃうんでしょ?


そんな柊に少なからずイラッとする。




柊との待ち合わせ場所にいた女の子は、私たちとは違う制服を着ているから、他校の生徒っぽい。


ふんわりとした雰囲気で、とっても可愛らしい子。


いや、こんな可愛い子、
いつもどーやって知り合ってんの…?


柊の人脈には、いつも驚かされる。




「えっと、誰…?」


他校の女の子は、私を下から上までまじまじと見ながら、柊にそう聞いた。


「言わなきゃって思ってたんだけど、俺こいつと付き合ってるんだ」




柊はそう言って、不意に私の手を握った。




…し、心臓に悪いんですけど!




「嘘でしょ?私、こんなにも柊くんのこと好きなのに…」


女の子は目を潤ませながら柊に訴えかけている。


か、かわいい。


私が男子だったら、絶対断れない。




「勘違いさせちゃったならごめん。悪いんだけど俺のこと諦めてくれない?」


そう言いながら握っている手を、胸の高さまで持って来て、更にギュッと握る。


それだけでも私はいちいちドキドキしちゃうわけで。


柊は表情一つ変えないで、淡々としている。


柊にとって私と手を繋ぐことなんて、どうってことないんだろうな。


だからナチュラルにこんなことができるんだ。




そんな柊の行動を見て、他校の女の子は私を睨みつけた。


そして急に柊に近づいたと思ったら、柊のネクタイをひっぱって。


その子は柊にキスをしようとしているように見えたから、思わず目をそらした。






「あっぶね…」


柊がそんなことを言うから、たぶん未遂に終わったんだろう。


ゆっくり顔を上げると、他校の女の子がさらに睨みをきかせて私を見た。


めちゃくちゃ怖いんですけど…!




「こんなブス女のどこがいいの?!
柊は騙されてるんだよ!
私の方がこんなにも柊を愛してるのに…。
こんな女なんかより、私の方が絶対柊を幸せにしてあげれる!」


その女の子は更に目を潤ませながら柊に泣きついた。


いやー、結構きついこと言うな…。


確かにそうかもしれないけどさ、本人を目の前にして言うのはないよ。


ただでさえミジンコしかないメンタルが崩壊しそう。


また何か言われるんじゃないかと思うと、怖くて顔を上げられない。





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