これは、とある物語

まりもః

永遠の星

「おい!早く来いよ!」

僕の前を騒々しく進んで振り返った兄ちゃんの後ろには星空。
こうして一緒に夜遊ぶなんて初めてで、兄ちゃんだけじゃなくて僕だってすごくワクワクしている。

「・・・でも、病院抜け出しちゃって大丈夫なのかな・・・?」
「大丈夫だって!朝までに帰ればバレないから!」
「バレるよ。見回りとかあるんだから」
「大丈夫だっつの!つか、自分から誘ったんだろ。今は病院のこと忘れようぜ!」

そう、兄ちゃんの言う通り、いつもは絶対お母さんやお父さんに怒られるようなことはしないんだけど、僕はどうしても今日この日、兄ちゃんと2人で星を見たかったんだ。

前を駆けて行く兄ちゃんの背中を見たのはいつぶりだろう。

「今日って、りゅーせーぐんなんだろ?」
「うん、確かそうだったはず。星が流れてくるんだよ!」
「すでにすげーのにな!」
「ほんとだね・・・」

真っ暗闇をこれでもかとばかりに照らす星たち。
敷き詰められた輝きは、休むことなくずっと照らしてくれているんだと、消えることはないんだと、僕はキラキラした目でずっと星を追っていた。

「星ってさ、ずっと光ってるよな!」
「夜だけじゃないの?」
「昼もほんとは光ってんだぜ!」
「へー・・・」
「太陽は夜になると沈んじまうし、永遠に光ってるのは星だけかもな!」

太陽もずっと光ってるけど、夜になると地球の裏側にいくから見えないだけだよ、とは、この時はわざわざ口にはしなかった。

「・・・永遠に光ってるのは、いいね」





次の日、ベッドの上で兄ちゃんは息を引き取った。

涙で顔がぐしゃぐしゃになってるお父さんは、同じく顔がぐしゃぐしゃになってるお母さんの肩をしっかりと抱いていて、お母さんは僕の頭をぎゅっと抱きしめていた。



兄ちゃんがもう長くないことはわかっていた。
お父さんとお母さんがお医者さんからどう聞いていたのかはわからない。僕には教えてもらえてない。
でも、わかっていた。
それはただの感覚で、あまりに曖昧な想いで兄ちゃんを連れ出した。
僕が連れ出したから悪化したのか、そんなのは関係なく「その時」が来てしまっただけなのかはわからない。

僕はわかっていた。
もう会えないかもしれないと。だから連れ出した。だからどうしても一緒に星が見たかった。何年かに一回の流星群を、何年後に一緒に観れるかもわからなかった兄ちゃんと一緒に。

僕はわかっていた。
死ぬ、ということを。
いなくなるということを。
だから泣かない。
いつかこうなることはわかっていたのだから、覚悟はしていたのだから。



「千春」


お母さんの優しい声が聞こえた。
兄ちゃんを勝手に連れ出して怒られるかもしれないと思っていた僕の考えをよそに、お母さんはまだ腫れぼったい目を細めて、できる限り微笑んでくれた。




「千秋に、星を見せてくれてありがとう」

「っ–––––」



違う。
兄ちゃんのためじゃない。



僕の前をかけていく兄ちゃんの背中はいつでもかっこよかった。僕の手を引いてくれる手は優しかった。振り向いてみせる笑顔は、キラキラと輝いていた。
僕にとって兄ちゃんは、星だったんだ。

だから、どうしても兄ちゃんと一緒に見たかったんだ。

兄ちゃんのためじゃなくて、僕が、どうしても、あの満天の星を。

永遠に光る星たちを。









星は宇宙で燃えている。その光が、何光年という時を経て地球に届く。
そしてその光はいつか消える。
今かもしれないし、何光年後かもしれない。
消えないものはない。終わりのないものはない。

でも、

「9年は短すぎるよ、兄さん」


兄さんが死んで13年が経ち、僕は20歳になっていた。

少しずつ悲しみは薄れ、父も母も、僕も、自分の生活に戻っていった。
でも、兄さんがいた事実は絶対に消えることはない。

星の輝きが永遠じゃないことと一緒で、兄さんの記憶も永遠じゃない。
僕が、兄さんと関わってきた全ての人がこの世からいなくなった時、それが本当の消滅になるなんてことをなにかの本で読んだ。

だから、僕が生きてるうちは・・・。

(いつまでも、兄さんは僕の星だよ)

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