邪神の力の一部で不死になったんだが!?
幕間 始血会議
最近、文の書き方について悩んでいます何かアドバイスがあればコメントしてください。よろしくお願いします。
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グレイシアが寝た後、とある場所である会議が開かれようとしていた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜とある地にそびえ立つ城の廊下〜
カツ・・カツ・・
永い廊下に床を靴が鳴らす音が響いている。響く音が二種類であることからして、歩いているのは二人と思われる。
後ろを歩いているのは長い赤毛を後ろで結んだ、従者の格好をした美しい女性であった。キツく引き締められたその表情を見れば、これから行われる会議の重要性を理解させられるには十分である。
彼女の先頭を歩くのは長い金髪をなびかせ、血のように赤いヒールを履いた、紅色のドレスを着こなす絶世の美女であった。その顔には魅惑的な微笑みを浮かべ、見る者全てを魅了し、その身体は男の視線を惹きつけ情欲を掻き立てるだろう。
彼女の名は『セルティ・エル・ブラットレイ』。世界に四人しかいない《吸血種》その最上位種〈始祖〉の一人である。
正確にはこの日この世界では、新たにもう一人〈始祖〉が誕生したのであったが、しかし、今の現時点では彼女がそれを知る事はない。
しばらくすると、廊下の突き当たりにある目的地と思われる扉の前で止まった。彼女が扉を開けて中に入ると、そこにはすでに2人の人物がそれぞれ自分の席に座り、その背後に自分の従者と思しき者たちを従えて待っていた。
「あら、私が最後かしら。遅れてごめんなさいね。」
「・・・・・」
入り口から見て左側に座っていたのは、黒いスーツのような礼服を着こなす偉丈夫であった。髪は赤黒くその目は未だに閉じられたまま動く気配がない。何を考えているのかは表情からは窺い知れないが、身に纏う雰囲気から強者であるのは明白だった。
彼の名は『カザーク・シル・ハザク』。彼もまた4人の〈始祖〉の一人である。
「いえ、大丈夫ですよ。時間にはまだ早いので、遅れているわけではありませんよ。」
おっとりとした雰囲気を纏い、聴く者の心を穏やかにさせる口調で答えるのは、奥の席に座る聖女を思わせる白いシスター服を着ている絶世の美女であった。
セルティと同じ長い金髪を背中に流し腰の辺りで少しウェーブがかかっている、絶世の美女であった。
しかし、目元には赤い包帯を目隠しするように巻かれていた。
彼女の名は『マリエステラ・テル・リストーロ』。彼女も他の二人同様、〈始祖〉の一人だ。
「あら、ネムロトは来ていないのかしら?」
セルティは左側にある空席を見ながら、二人に尋ねた。
そこには本来4人いる〈始祖〉の最後の一人、『ネムロト・セル・マジェス』が座るはずの席であるが、今は空席となっている。
「・・・」
「えぇ〜。きっとまた魔法の実験でもしているのでしょう。」
カザークは黙ったまま、代わりにマリエステラが答えた。
「そうね。まあ、いつものことだから彼のことは放っておいて、会議を始めましょうか。」
セルティはそう言うと自分の席に座った。彼女の後ろに付き従っていた従者の女は、他の従者を見習うように後ろに控えた。
「では・・今から始血会議を始めるわ。今回の進行は私が担当ね。」
カザークとマリエステラは黙って彼女の言葉に頷いた。
「じゃあ最初に各々の近況を報告しあいましょう。いつものことだからわかってはいると思うけど、自分に都合が悪いことは言わなくてもいいわ。私たちの関係は同盟のようなものだから。」
彼女は二人に向けて改めて自分たちの関係性を言うと、先ずは自分の近況から話し始めた。
「私のところには最近、また魔王の遣いが来たわ。内容はいつも通りの魔王軍への勧誘だったわ。これで何回目かしらね。いい加減あの魔王も諦めたらいいのに、困ったものだわ。」
彼女は少し不機嫌そうになりながら懲りない魔王へ愚痴を言った。
「仕方がありませんよ。あの魔王も、神聖王国に戦争を仕掛けられて困っているのですから。」
マリエステラは魔王へ辛辣なセルティを宥めながら、魔王の援護をする。
「それに、最近私の眷族の一人がある情報を手に入れました。これはセルティ、貴女にとって重要になる情報かもしれません。」
マリエステラは真剣な表情をでセルティに報告する。
「先日『神聖王国が近々、魔王を討伐するため異世界から勇者を召喚するようです。』と報告を受けました。」
「そう・・あの神聖王国が、勇者を・・本当に懲りないのね、あの地の人間は。」
セルティの呟いたその言葉には、神聖王国に対して強い怒気が込められていた。
神聖王国が存在する土地はかつて帝国と言う国が存在していたが、ある出来事によって神の怒りを買い、神によって首都が滅ぼされた。
そしてその後、新たに神聖王国として建国がされ、今の状態になったのだが、そのある出来事というのが、異世界から人を召喚することであった。
そして、この出来事により神の力で膨大な魔力だまりが生成され、セルティが生まれたのであった。
〈始祖〉とは神が生成した又は関与した魔力だまりから生まれるので、言ってしまえば神の子供のようなものなのである。そのため旧帝国が怒りを買った神の意思を、セルティは受け継いでいるのである。
「まあ、今はいいは。神聖王国のこと、教えてくれてありがとう、マリエステラ。」
「いえ、いいのですよ。」
「私からの報告は以上よ。次は、マリエステラお願いね。」
セルティがマリエステラにお礼を告げると、彼女は報告を終え、次にマリエステラに報告するように促した。
「はい、私の方は相変わらず、私の所属する神樹教に対して、人神教を国教にする教国がちょっかいを掛けてきていますが、それほど大きな争いは、まだ今のところ起こっていません。しかし、先程報告した通り神聖王国が勇者を召喚しようとしているので、神聖王国と同盟関係にある教国が本格的に動く可能性はあります。」
マリエステラは自らも神聖王国が勇者を召喚する事に対して、不安要素がある事を告げた。
マリエステラが所属している神樹教とは彼女が誕生する要因となった、神が力を授けた神樹を信仰の象徴とした宗教のことである。
それに対して、人神教とは元は旧帝国が国教にしていた、人間を守護する人神が世界を創造したと言う考えの宗教で、教国は旧帝国が滅んだ後に、生き残っていた旧帝国の者が、旧帝国から分離し建国した国である。
そのため、人神教は人間以外も保護の対象とする神樹教を敵視し、そしてその神樹教の使徒の一人で異種族であるマリエステラを目の敵にしているのであった。
「お互い大変ね。」
「ええ、全く困った者です。」
セルティとマリエステラはお互いに苦笑い浮かべた。
「それじゃあ次は・・カザーク、貴方の番ね。」
「あぁ・・・」
カザークはセルティの名指しに、初めて動きを見せた。
「俺からは、共和国と異形種たちの連合軍の小競り合いが悪化し始めた。近いうちに戦争が起こるかもしれない。それに伴い共和国の近くにある里が、戦争に巻き込まれることになるかもしれない。」
カザークは共和国と異形種の戦争勃発を示唆した。
カザークは4人の〈始祖〉の中で一番多く眷族を持つ《吸血種》だ。本拠地である街と、各国にいくつか里を作っている。そこに直族の眷族を主導者として送り、各国の眷族の吸血鬼をまとめ上げていた。
共和国は人間と異種族が共存する国で色々な種族が住んでいる。しかしこの異種族は異人種のことであり、異形種とは区別されている。そのため異形種のものたちが団結し度々共和国に戦争をふっかけているのである。
《吸血種》は一応異人種の一つと考えられているが、吸血という他者から血を吸うことが必要であるため異人種の中でもあまりいい目で見られないのである。そのため《吸血種》は人里を避けて暮らしているのである。
血に関しては他種族の中から血を提供してもらえる者を里に連れてきたり、犯罪者などから採血しているようである。
「それは大変ね。それでどうするつもり?共和国の中には私たち《吸血種》の血を利用しようと考える奴が居るようだけど。」
《吸血種》には効果の差はあれど、〈始祖〉の持つギフトの力の一部が血に宿っているため、その力を利用しようとする者たちが存在しているのだ。さらに、血自体にも高濃度の魔力が含まれているため、魔道具作りや錬金術などの魔力媒体として使用されることもある。そのため、吸血鬼ハンターなどと呼ばれる狩猟者たちが、各地に存在しているぐらいである。
「今はまだ様子見をする。が、もしその里の眷族が手に負えなくなった場合は、俺がことに当たる予定だ。」
「大丈夫なのですか?貴女が出るとなると最悪の場合共和国か異形種の連合軍、何方かが消滅することになるかもしれませんよ。」
マリエステラは、カザークが戦争に干渉することで、何方かの勢力が滅んでしまうかもしれないと忠告をした。
「そうならないよう祈る他ない。」
彼はマリエステラの忠告を受けるも、冷酷な対応を改めることはなかった。
「まあ、いいわ。何方にしても、今はまだ決めることでもないでしょうから。じゃあこれで、近況の報告は終わりね。次の議題に行きましょう。」
セルティがそういうと、二人は改めて真剣な表情をして彼女を見た。
「貴女たちも感じたでしょうけど、新たな自然型の《吸血種》の〈吸血鬼〉又は〈真祖〉が生まれたわ。場所は共和国領の何処か。今回の《吸血種》は異例の誕生で、詳しい位置は分からないわ。」
彼女の説明に二人は知っているとばかりに頷いて答える。
この《吸血種》とはもちろんグレイシアのことである。
本来なら彼女たちは自然型の《吸血種》が何処に生まれたのか、もうし少し詳細に把握することができるのであるが今回は異例な事態であるため詳細は分かっていない。
ここで何故、彼女たちが居場所を把握することができるのか。また何故、〈始祖〉が生まれたと思わなかったのかというと、それは、自然型の《吸血種》の生まれ方にある。
自然型の《吸血種》は肉体を生成するため〈吸血鬼〉であれば人間の一万人分ほどの魔力だまりと強い精神体、例えば《死霊種》などがその場にいれば、生まれるための条件が揃う。
〈真祖〉であれば、肉体を生成するために、大きな街一つ分ほどの人間の魔力だまりが必要である。さらに、より上位の精神体が存在すれば条件が揃う。
彼女たちは、この魔力だまりを感知するによって、何処でどの程度の《吸血種》が生まれたかを把握することができるのだ。しかも、《吸血種》の誕生は他種族と少し違った特徴を持つため、他種族の誕生と容易に見分けがつく。
しかし何故、彼女たちが居場所を詳しく把握できなかったのかというと、グレイシアの肉体は女神アストルティアがあの白い空間で直接創ったため、地上において魔力だまりが存在しなかったのだ。だから詳しく把握できなかったのだ。
それでも、彼女たちがグレイシアの居場所を漠然とながらも把握できたのは、彼女が転生し目覚めた後、ジーヴィルに魔力を流した際にジーヴィルが魔力を吸収しきれなかった少しの魔力を、彼女たちが感知したからであった。
これは永い刻を生きた彼女たちであったからこそ感知できたのである。レベル10の魔力感知スキルを持つものであっても気付くことはできなかっただろう。
そして、彼女たちが何故、今回生まれた《吸血種》が〈始祖〉では無いと判断したのかというと。〈始祖〉の誕生には〈吸血鬼〉や〈真祖〉とは違って神がこの世界に干渉した際にできた、神の力の一部が宿った魔力だまりから生まれるからであった。
しかし、今回新たな自然型の《吸血種》が生まれる前、約千年の間に神がこの世界に干渉した形跡はなかったのである。そのため、彼女たちはグレイシアが〈始祖〉という可能性を排除したのであった。
ーーグレイシアが転生する際、女神アストルティアがこの世界に肉体を転送したときは、彼女がその形跡を隠蔽したため、感知できなかったのだーー
「それで今回、一つ私から提案があるわ。私たち4人、まあネムロトはいないけど、それぞれ自分の眷族を一人、この《吸血種》の調査させましょう。」
「・・・どういうことだ?」
「どういうことですか?」
セルティの提案に他の二人は疑問に思い聞き返した。
「私たちが直接その子を確認しに行ったら、怯えさせちゃうじゃない。特にカザークなんて、初めて見たら怖いもの。・・ふふっ。」
「確かに、カザークさんは強面ですからね。・・・ふふふ。」
彼女たちはカザークの仏頂面を見ながら微笑んで答える。
カザークはその言葉を気に触ったのか、さらに仏頂面になって押し黙った。
「それに私も少し気になりますね、その子について。何か直感のようなものが私に訴えかけているような気がします。」
「あら、そうなの?でも、貴女が直接見に行くのはダメよ。抜け駆けはルール違反なんだから。」
「ええ、わかっていますよ。」
セルティはからかうように微笑みながらマリエステラに釘を刺す。彼女はわかっているとセルティに微笑み返しながら答えた。
その間カザークは考えに浸っていた。
(確かに今回の事は調査する必要があるだろう。俺たちが知る限り、自然型の《吸血種》が生まれるような魔力だまりは存在しなかった。それが何故急に現れたのか疑問でならない。)
女神アストルティアは一つ認識違いをしていた。女神アストルティアは眷族型の《吸血種》に転生すれば眷族化のスキルで他の〈始祖〉たちにグレイシアが転生したことがバレ、危険な目に会うかもしれないと、心配したが、全く別の要因で〈始祖〉たちには感知されてしまったようだ。
「それじゃあ、各々調査に向かわせる眷族を選んでね。抜け駆けは無しだから、ある程度調査の開始場所と時刻を決めましょう。」
その後、セルティたちの始血会議はグレイシアの調査の細かい取り決めについて話し合った。
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最後までお読みくださりありがとうございます。誤字・脱字やアドバイスなどのご意見があればコメントしてください。
次回もよろしくお願いします。
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グレイシアが寝た後、とある場所である会議が開かれようとしていた。
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〜とある地にそびえ立つ城の廊下〜
カツ・・カツ・・
永い廊下に床を靴が鳴らす音が響いている。響く音が二種類であることからして、歩いているのは二人と思われる。
後ろを歩いているのは長い赤毛を後ろで結んだ、従者の格好をした美しい女性であった。キツく引き締められたその表情を見れば、これから行われる会議の重要性を理解させられるには十分である。
彼女の先頭を歩くのは長い金髪をなびかせ、血のように赤いヒールを履いた、紅色のドレスを着こなす絶世の美女であった。その顔には魅惑的な微笑みを浮かべ、見る者全てを魅了し、その身体は男の視線を惹きつけ情欲を掻き立てるだろう。
彼女の名は『セルティ・エル・ブラットレイ』。世界に四人しかいない《吸血種》その最上位種〈始祖〉の一人である。
正確にはこの日この世界では、新たにもう一人〈始祖〉が誕生したのであったが、しかし、今の現時点では彼女がそれを知る事はない。
しばらくすると、廊下の突き当たりにある目的地と思われる扉の前で止まった。彼女が扉を開けて中に入ると、そこにはすでに2人の人物がそれぞれ自分の席に座り、その背後に自分の従者と思しき者たちを従えて待っていた。
「あら、私が最後かしら。遅れてごめんなさいね。」
「・・・・・」
入り口から見て左側に座っていたのは、黒いスーツのような礼服を着こなす偉丈夫であった。髪は赤黒くその目は未だに閉じられたまま動く気配がない。何を考えているのかは表情からは窺い知れないが、身に纏う雰囲気から強者であるのは明白だった。
彼の名は『カザーク・シル・ハザク』。彼もまた4人の〈始祖〉の一人である。
「いえ、大丈夫ですよ。時間にはまだ早いので、遅れているわけではありませんよ。」
おっとりとした雰囲気を纏い、聴く者の心を穏やかにさせる口調で答えるのは、奥の席に座る聖女を思わせる白いシスター服を着ている絶世の美女であった。
セルティと同じ長い金髪を背中に流し腰の辺りで少しウェーブがかかっている、絶世の美女であった。
しかし、目元には赤い包帯を目隠しするように巻かれていた。
彼女の名は『マリエステラ・テル・リストーロ』。彼女も他の二人同様、〈始祖〉の一人だ。
「あら、ネムロトは来ていないのかしら?」
セルティは左側にある空席を見ながら、二人に尋ねた。
そこには本来4人いる〈始祖〉の最後の一人、『ネムロト・セル・マジェス』が座るはずの席であるが、今は空席となっている。
「・・・」
「えぇ〜。きっとまた魔法の実験でもしているのでしょう。」
カザークは黙ったまま、代わりにマリエステラが答えた。
「そうね。まあ、いつものことだから彼のことは放っておいて、会議を始めましょうか。」
セルティはそう言うと自分の席に座った。彼女の後ろに付き従っていた従者の女は、他の従者を見習うように後ろに控えた。
「では・・今から始血会議を始めるわ。今回の進行は私が担当ね。」
カザークとマリエステラは黙って彼女の言葉に頷いた。
「じゃあ最初に各々の近況を報告しあいましょう。いつものことだからわかってはいると思うけど、自分に都合が悪いことは言わなくてもいいわ。私たちの関係は同盟のようなものだから。」
彼女は二人に向けて改めて自分たちの関係性を言うと、先ずは自分の近況から話し始めた。
「私のところには最近、また魔王の遣いが来たわ。内容はいつも通りの魔王軍への勧誘だったわ。これで何回目かしらね。いい加減あの魔王も諦めたらいいのに、困ったものだわ。」
彼女は少し不機嫌そうになりながら懲りない魔王へ愚痴を言った。
「仕方がありませんよ。あの魔王も、神聖王国に戦争を仕掛けられて困っているのですから。」
マリエステラは魔王へ辛辣なセルティを宥めながら、魔王の援護をする。
「それに、最近私の眷族の一人がある情報を手に入れました。これはセルティ、貴女にとって重要になる情報かもしれません。」
マリエステラは真剣な表情をでセルティに報告する。
「先日『神聖王国が近々、魔王を討伐するため異世界から勇者を召喚するようです。』と報告を受けました。」
「そう・・あの神聖王国が、勇者を・・本当に懲りないのね、あの地の人間は。」
セルティの呟いたその言葉には、神聖王国に対して強い怒気が込められていた。
神聖王国が存在する土地はかつて帝国と言う国が存在していたが、ある出来事によって神の怒りを買い、神によって首都が滅ぼされた。
そしてその後、新たに神聖王国として建国がされ、今の状態になったのだが、そのある出来事というのが、異世界から人を召喚することであった。
そして、この出来事により神の力で膨大な魔力だまりが生成され、セルティが生まれたのであった。
〈始祖〉とは神が生成した又は関与した魔力だまりから生まれるので、言ってしまえば神の子供のようなものなのである。そのため旧帝国が怒りを買った神の意思を、セルティは受け継いでいるのである。
「まあ、今はいいは。神聖王国のこと、教えてくれてありがとう、マリエステラ。」
「いえ、いいのですよ。」
「私からの報告は以上よ。次は、マリエステラお願いね。」
セルティがマリエステラにお礼を告げると、彼女は報告を終え、次にマリエステラに報告するように促した。
「はい、私の方は相変わらず、私の所属する神樹教に対して、人神教を国教にする教国がちょっかいを掛けてきていますが、それほど大きな争いは、まだ今のところ起こっていません。しかし、先程報告した通り神聖王国が勇者を召喚しようとしているので、神聖王国と同盟関係にある教国が本格的に動く可能性はあります。」
マリエステラは自らも神聖王国が勇者を召喚する事に対して、不安要素がある事を告げた。
マリエステラが所属している神樹教とは彼女が誕生する要因となった、神が力を授けた神樹を信仰の象徴とした宗教のことである。
それに対して、人神教とは元は旧帝国が国教にしていた、人間を守護する人神が世界を創造したと言う考えの宗教で、教国は旧帝国が滅んだ後に、生き残っていた旧帝国の者が、旧帝国から分離し建国した国である。
そのため、人神教は人間以外も保護の対象とする神樹教を敵視し、そしてその神樹教の使徒の一人で異種族であるマリエステラを目の敵にしているのであった。
「お互い大変ね。」
「ええ、全く困った者です。」
セルティとマリエステラはお互いに苦笑い浮かべた。
「それじゃあ次は・・カザーク、貴方の番ね。」
「あぁ・・・」
カザークはセルティの名指しに、初めて動きを見せた。
「俺からは、共和国と異形種たちの連合軍の小競り合いが悪化し始めた。近いうちに戦争が起こるかもしれない。それに伴い共和国の近くにある里が、戦争に巻き込まれることになるかもしれない。」
カザークは共和国と異形種の戦争勃発を示唆した。
カザークは4人の〈始祖〉の中で一番多く眷族を持つ《吸血種》だ。本拠地である街と、各国にいくつか里を作っている。そこに直族の眷族を主導者として送り、各国の眷族の吸血鬼をまとめ上げていた。
共和国は人間と異種族が共存する国で色々な種族が住んでいる。しかしこの異種族は異人種のことであり、異形種とは区別されている。そのため異形種のものたちが団結し度々共和国に戦争をふっかけているのである。
《吸血種》は一応異人種の一つと考えられているが、吸血という他者から血を吸うことが必要であるため異人種の中でもあまりいい目で見られないのである。そのため《吸血種》は人里を避けて暮らしているのである。
血に関しては他種族の中から血を提供してもらえる者を里に連れてきたり、犯罪者などから採血しているようである。
「それは大変ね。それでどうするつもり?共和国の中には私たち《吸血種》の血を利用しようと考える奴が居るようだけど。」
《吸血種》には効果の差はあれど、〈始祖〉の持つギフトの力の一部が血に宿っているため、その力を利用しようとする者たちが存在しているのだ。さらに、血自体にも高濃度の魔力が含まれているため、魔道具作りや錬金術などの魔力媒体として使用されることもある。そのため、吸血鬼ハンターなどと呼ばれる狩猟者たちが、各地に存在しているぐらいである。
「今はまだ様子見をする。が、もしその里の眷族が手に負えなくなった場合は、俺がことに当たる予定だ。」
「大丈夫なのですか?貴女が出るとなると最悪の場合共和国か異形種の連合軍、何方かが消滅することになるかもしれませんよ。」
マリエステラは、カザークが戦争に干渉することで、何方かの勢力が滅んでしまうかもしれないと忠告をした。
「そうならないよう祈る他ない。」
彼はマリエステラの忠告を受けるも、冷酷な対応を改めることはなかった。
「まあ、いいわ。何方にしても、今はまだ決めることでもないでしょうから。じゃあこれで、近況の報告は終わりね。次の議題に行きましょう。」
セルティがそういうと、二人は改めて真剣な表情をして彼女を見た。
「貴女たちも感じたでしょうけど、新たな自然型の《吸血種》の〈吸血鬼〉又は〈真祖〉が生まれたわ。場所は共和国領の何処か。今回の《吸血種》は異例の誕生で、詳しい位置は分からないわ。」
彼女の説明に二人は知っているとばかりに頷いて答える。
この《吸血種》とはもちろんグレイシアのことである。
本来なら彼女たちは自然型の《吸血種》が何処に生まれたのか、もうし少し詳細に把握することができるのであるが今回は異例な事態であるため詳細は分かっていない。
ここで何故、彼女たちが居場所を把握することができるのか。また何故、〈始祖〉が生まれたと思わなかったのかというと、それは、自然型の《吸血種》の生まれ方にある。
自然型の《吸血種》は肉体を生成するため〈吸血鬼〉であれば人間の一万人分ほどの魔力だまりと強い精神体、例えば《死霊種》などがその場にいれば、生まれるための条件が揃う。
〈真祖〉であれば、肉体を生成するために、大きな街一つ分ほどの人間の魔力だまりが必要である。さらに、より上位の精神体が存在すれば条件が揃う。
彼女たちは、この魔力だまりを感知するによって、何処でどの程度の《吸血種》が生まれたかを把握することができるのだ。しかも、《吸血種》の誕生は他種族と少し違った特徴を持つため、他種族の誕生と容易に見分けがつく。
しかし何故、彼女たちが居場所を詳しく把握できなかったのかというと、グレイシアの肉体は女神アストルティアがあの白い空間で直接創ったため、地上において魔力だまりが存在しなかったのだ。だから詳しく把握できなかったのだ。
それでも、彼女たちがグレイシアの居場所を漠然とながらも把握できたのは、彼女が転生し目覚めた後、ジーヴィルに魔力を流した際にジーヴィルが魔力を吸収しきれなかった少しの魔力を、彼女たちが感知したからであった。
これは永い刻を生きた彼女たちであったからこそ感知できたのである。レベル10の魔力感知スキルを持つものであっても気付くことはできなかっただろう。
そして、彼女たちが何故、今回生まれた《吸血種》が〈始祖〉では無いと判断したのかというと。〈始祖〉の誕生には〈吸血鬼〉や〈真祖〉とは違って神がこの世界に干渉した際にできた、神の力の一部が宿った魔力だまりから生まれるからであった。
しかし、今回新たな自然型の《吸血種》が生まれる前、約千年の間に神がこの世界に干渉した形跡はなかったのである。そのため、彼女たちはグレイシアが〈始祖〉という可能性を排除したのであった。
ーーグレイシアが転生する際、女神アストルティアがこの世界に肉体を転送したときは、彼女がその形跡を隠蔽したため、感知できなかったのだーー
「それで今回、一つ私から提案があるわ。私たち4人、まあネムロトはいないけど、それぞれ自分の眷族を一人、この《吸血種》の調査させましょう。」
「・・・どういうことだ?」
「どういうことですか?」
セルティの提案に他の二人は疑問に思い聞き返した。
「私たちが直接その子を確認しに行ったら、怯えさせちゃうじゃない。特にカザークなんて、初めて見たら怖いもの。・・ふふっ。」
「確かに、カザークさんは強面ですからね。・・・ふふふ。」
彼女たちはカザークの仏頂面を見ながら微笑んで答える。
カザークはその言葉を気に触ったのか、さらに仏頂面になって押し黙った。
「それに私も少し気になりますね、その子について。何か直感のようなものが私に訴えかけているような気がします。」
「あら、そうなの?でも、貴女が直接見に行くのはダメよ。抜け駆けはルール違反なんだから。」
「ええ、わかっていますよ。」
セルティはからかうように微笑みながらマリエステラに釘を刺す。彼女はわかっているとセルティに微笑み返しながら答えた。
その間カザークは考えに浸っていた。
(確かに今回の事は調査する必要があるだろう。俺たちが知る限り、自然型の《吸血種》が生まれるような魔力だまりは存在しなかった。それが何故急に現れたのか疑問でならない。)
女神アストルティアは一つ認識違いをしていた。女神アストルティアは眷族型の《吸血種》に転生すれば眷族化のスキルで他の〈始祖〉たちにグレイシアが転生したことがバレ、危険な目に会うかもしれないと、心配したが、全く別の要因で〈始祖〉たちには感知されてしまったようだ。
「それじゃあ、各々調査に向かわせる眷族を選んでね。抜け駆けは無しだから、ある程度調査の開始場所と時刻を決めましょう。」
その後、セルティたちの始血会議はグレイシアの調査の細かい取り決めについて話し合った。
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次回もよろしくお願いします。
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9,545
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2.4万
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