ストレイ・ラム

Motoki-rhapsodos

第53話

「あのなぁ。うちは喫茶店だぜ。茶ァ飲みに決まってんだろ」

呆れたように溜め息を吐く松岡へと、俺は手を振った。

「じゃなくてさ、お前が依頼の為じゃなく女と話すなんて――」

「だから、そん時ちょーど依羅さんが休憩していい…――って、そこはどーでもいい!」

「ああ、えっと……なんだっけ。カーテンが閉まってたって?」

「あの晩あの窓の前を通ったから、間違いないとさ。――で? どう思う?」

間近で俺を見つめる松岡を見つめ返して、俺はコクリと唾を飲み込んだ。

「それって、やっぱり――」

「ああ、鎧武者はいるぜ。間違いなくな。それどころか、俺達いいように使われた気さえするよ、鎧武者あいつに」
嬉しそうに笑った松岡に、俺は頬を引きつらせた。

「……ところで」

暫くの沈黙の後、動かない俺に松岡が腕時計を覗き込む。

「さっき時間がないとか、言ってなかったっけ?」

「ああっ、そうだった!」

叫んだ俺は、再び松岡の肘を掴んだ。少し歩いてから、ハッとして立ち止まる。

「そういや、お前……」

振り返った俺は、自分が掴む松岡の腕を見下ろした。

「お前、嫌いなんじゃないのか? 腕とか掴まれるの」

「――……気付いてたか……」

上目遣いに俺を見た松岡が、唇の端を上げて苦笑いを浮かべる。

「逃がさないぞって、言われてるみたいで嫌なんだ」

「じゃ、なんで……」

俺の言葉に肩を竦めた松岡は、さらりと言ってのけた。

「お前は相棒だからな。まあ、特別」

松岡の台詞に、迂闊にも頬が緩んだ。突っ込んで詳しく訊いてやりたいのに、それすらも出来なくなる。

クルリと再び背を向け歩き出した俺に、ダラダラと松岡が続いた。

「なあ、相棒。お前んとこってさぁ、犬は駄目だけど、猫なら飼えるよなぁ?」

「――…ああ。でも三匹は無理。飼えて一匹だな」

「じゃあさ、相棒。どうせ遅刻だし、一時限目はサボッちまわねぇ? んで、こいつらにミルクやんの」

「懲りないなぁ、お前。依羅さんにバレるだろ! 俺はあの人を怒らす気は無いからな」

「でもよ、相棒――」

「だぁー、鬱陶しい! 何度も何度も相棒って連発すんじゃねぇ! なんだよ?」

振り返り叫んだ俺に、松岡はクスクスと笑い出した。

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