ストレイ・ラム

Motoki-rhapsodos

第49話

お辞儀する松岡に俺は呆れた目を向け、言葉を途切らせた。

――あの、瞳だ。

上げた松岡の顔には、不敵な笑みが浮かんでいる。自信に満ちた瞳は、ジッと俺を見据えていた。

俺は先程とまったく同じ部分に手を置いた。グッと少し強めに力を入れる。

すると――。

微かな抵抗の後に、引き込まれるようにして壁が消えた。いや、消えたんじゃない。今まで切れ目一つ無かった壁の一部が、クルリと回転したのだ。

「なっ……にぃ……!」

支えを無くしバランスを崩した俺は、壁に肩をしたた強か打ってしまった。肩をさする俺を見てハハハッと笑った松岡は、腕を組んで感心したように小さく吐息を洩らしている。

「こいつぁ、素晴らしい。どんでん返しになってる。それも、相当腕のいい職人に頼んだようだな。ここまで精巧に造るなんて、まさしく芸術的だぜ」

「……っていうか、どうしてだ? さっきはビクともしなかったのに」

俺を見てニヤリと笑った松岡は、右手をあてた胸を反らした。

「わ解っかんねぇかなぁ? 奇術じゃん、俺の」

「うそ! ――いや、マジで教えろ。なんで?」

「それはだな」

松岡はしゃがみ込むと、床のパネルを手でなぞりながら俺を見上げた。

「これは、只のどんでん返しじゃない。このパネルのこの部分。此処を踏まない事には扉は開かないように出来てる。壁の絵か写真かは、そのパネルの目印ってワケだ」

立ち上がった松岡は、どんでん返しの中に足を踏み入れた。

「ご丁寧に電気までついてやがる。ま、暗きゃ役に立たねぇから当然か。へぇ、結構広いな」

ブツブツと言っていた松岡の独り言が聞こえなくなると、今度はシンと沈黙が辺りを支配した。

「おい、松岡? どうした? 宝はあったのか?」

中を覗き込もうとした俺の前に、ぬっと松岡が顔を出した。

「あったぞ、山下。入って来いよ」

松岡の言葉に中に入ると、其処は彼が言ったように案外と広く、奥行は八十センチ程だがそれが横に長く伸びている。天井から下がった小さなシャンデリアのお陰で、中は容易に見る事が出来た。

「……なに……これ…」

正面の壁には、大小様々な十字架のネックレスが飾られている。変色し、錆が浮いた十字架に触ろうとした俺を、松岡が鋭い声で止めた。

「触るな! その錆は血だ」

「えぇっ!」

「推理」の人気作品

コメント

コメントを書く