ストレイ・ラム

Motoki-rhapsodos

第34話

「……先輩。実は俺ね、こんな凄い雨の日に、殺してしまった事があるんだ。小さな命を」

何を言ってるのか解らずに、先輩が顔を上げて俺を見る。

どうしてこんな事を先輩に話しているのか自分でも解らなかったが、何故かその時は、それを先輩には聞いていてもらいたいような気がしていた。

「インコだったんだけど、大事な奴だったのに、俺が殺しちまって……。ちょっとした不注意だったのに、簡単にさ、あいつ、死んじまって……」

――あいつは。あの時の俺が守ってやれる、『唯一の存在』だったのに。

「本当にさ、凄く簡単に命って無くなっちゃうんだよ。俺、そいつが死んで悲しいのよりも、只怖くてね。自分が殺したって事が。命ってこんなに脆いものなのかって思って、只怖くて、その時は泣いてた」

あの時と同じように、雨に滲んだ土を握ってみる。それはやはり『あの時』同様、雨ですぐ形を崩してしまう、とても儚いものだった。

「でも今は、少しだけ。どんな気持ちだったんだろうって思うよ。俺はきっと、あいつが唯一人ただひとり信用しただろう人間だったから。どんなに小さくても、命に違いはないのに……。俺ってね、そんな奴。いい奴なんかじゃないよ、全然」

驚いた顔で俺を見つめる先輩に、雨で手を洗いながら微笑んでみせる。

開きかけた彼女の口が何も言えず、閉じられる。暫くの沈黙の後、俺はだらだらと歩いて来る松岡に気付いて顔を向け、立ち上がった。俺の隣で高科先輩もゆっくりと立ち上がる。チラリと何かを言いたげに俺を見た松岡だったが、すぐに高科先輩へと顔を向けた。

「先輩、実はお願いがあるんですが、聞いてもらえますか」

「お願い? なんですの?」

「実は俺達、まだ鎧武者に強い興味を持ってるんですが、それを調べるのに資料室の鍵をお借りしたいんです。あそこって、何故かいつも鍵が掛かってんですよねぇ」

のんびりと言った松岡に、高科先輩は顔色を変えた。

「調べるって、今からですの?」

「いいえ、明日です」

即答した松岡に、彼女はホッとしたように嘆息した。

「よかった。今は持っていませんの」

「そうですか、では明日はお持ち下さい。行くぞ、山下」

クルリと背を向けた松岡は、「行くぞ」と言っておきながら、俺を待たずに歩き出す。俺は傘を先輩に握らせ、急いで傘から飛び出した。

「あの、これ!」

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