ストレイ・ラム

Motoki-rhapsodos

第28話

「泣くんじゃないよ、綾香。ブサイクな顔が、余計ブサイクになるだろう?」

その台詞とは裏腹の、やさしい声が囁く。

「……ひどっ……」

友也さんの手を両手で掴むと、綾香はその手に顔を埋めた。

「私の、所為……なのかなぁ……。面白、半……分に、お兄ちゃん達に、頼んだ…からッ。鎧武者、怒っちゃっ……た、かなぁ……」

「――馬鹿を事を」

「……どー……しよぉ……。何……してんだろ、私。……なん、にも――一ッつも、いい事なんてないのに。なんで……こんな事、しちゃったのかなぁッ……!」

本格的に泣き始めた綾香に、隣のテーブル席の男達が気まずげに顔を見合わせ立ち上がった。若い女の泣き顔を、むやみに見るべきではないと判断したようだ。

素早くカウンターから出た依羅さんが、会計を済ませようとする男達に深々と頭を下げた。

「お気遣い、ありがとうございます。よろしければ、またお越し下さい。その時には心からのサービスをさせていただきますので」

代金は貰わず、ドアを開ける。

「ご……めんな……ざい」

ぐしゃぐしゃの顔を上げて、綾香が言う。照れくさそうに笑った二人は、「元気出して」と彼女に言って出て行った。

札を『CLOSED』に替えた依羅さんが、俺達と並んでカウンター席へと腰掛ける。テーブル席で泣き続ける綾香を慰める友也さんの態度に、俺は内心驚いていた。

それは今まで見た誰に対する態度よりも、とても愛情の籠ったものだったから……。

「俺、友也さんと綾香って、少し仲悪いのかと思ってた。友也さん、他の人にはやさしいのに、綾香にだけは素っ気ないから」

俺の言葉に依羅さんは微笑みを浮かべ、松岡は真剣な瞳を俺に向けた。

「――お前が此処に初めて来た時、お前言ってたよなぁ? お前の視線に俺が気付いてるとは思わなかったって。あれ、なんで気付いたんだと思う?」

「さぁ?」

首を傾げる俺に、松岡は指先で鼻のてっぺんを擦りながら言った。

「同じ匂いが、したからさ。――俺達とな」

「え?」

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