ストレイ・ラム

Motoki-rhapsodos

第52話

「ないな。あん時のあの人の驚きは、本物だった。――きっと、少し同情しちまったんだろうぜ、小西にな。想像してみろよ。あいつはずっと、兄貴の試合を見てきたんだぜ。憧れのユニフォームを着てボールを蹴る、一つしか違わない兄貴の姿をさ。だからきっと、レギュラーだった兄貴と比べられただろうし、試合を見てたあの顔からすると、練習も人一倍したんだろう。

やっと三年になって自分がレギュラーになれると確信してた矢先に、突然現れた『才能ある一年』の所為で試合に出る事なく、卒業していかなきゃならないんだぜ。その口惜しさは、一緒に練習してきたキャプテンにも、簡単に理解出来たって訳だ」

「でも、そこまでやらないだろ? 普通」

ポリポリとこめかみを掻いた松岡が、その指先をつけたままで唸り声をあげた。

「うーん。……だがなぁ。レギュラーしか持つ事を許されないユニフォーム、センターフォワードしか背負えない番号。こういったモンは、必要以上にレギュラーへの憧れを増幅させるモンだからなぁ……」

「……まあ、ね……」

それまでジッと身動きする事もなく、松岡の話に耳を傾けていた依羅さんが黙って立ち上がった。ポンと松岡の頭に手を乗せて、クシャクシャとやさしく撫でる。階段を上がって行く依羅さんを見上げた松岡は、嬉しそうな瞳を友也さんに向けた。

「よかったね、保。合格だ」

微笑んだ友也さんに、パチンと指を鳴らす。

「当然さ! あの『護符』あれ書くのにどんだけ苦労したと思うよ?」

そう言って立ち上がった松岡は、「ふんっ」と小さく声を出して両腕を振り上げた。

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