ストレイ・ラム

Motoki-rhapsodos

第39話

「両方見て、それでいなかったら――」

それに続く言葉を呑み込んだ武田に、松岡が小さく頷く。

「ああ、そうなんだが……。問題は――」

チロリと新田を見た松岡が何かを言いかけた、その時。

「お前、何してるんだ」

突然聞こえた声に驚いた俺達は、その方向に目を向けた。長い廊下の先、ロッカーの向こう側に、Tシャツにジャージ姿の長身の男が立っている。

「……キャプテン」

言った武田に驚いた目を向ける男は、近付いて来ながら呆れた声を出した。

「なんだ、お前達。早く食堂へ行け。当番の俺が怒られるだろうが。それになんだお前。まだ試合用のユニフォームでウロウロしてんのか」

顔を顰める男に、新田が一歩前へと出る。

「また、出たんです」

「出た? 何が」

「武田の、ドッペルゲンガーです」

「武田の?」

驚いた顔をした男の目が、更にゆっくりと見開かれていく。暫く武田を見つめていた男は、クスリと笑みを洩らすと、首を左右に振った。

「馬鹿馬鹿しい。いいか、武田。俺は――いや、監督も同意見だと思うが、お前以外にセンターフォワードはいないと思っている。地区予選も始まってしまった今、そんなドッペルゲンガーなんかにうつつを抜かしている場合じゃない。俺達三年にとっては、これが最後だからな。悔いのないようにしたい」

「……はい」

俯く武田の肩をポンと叩いたサッカー部キャプテンを、ジッと睨むように見ていた松岡が低く声を出した。

「こっちに来る時に、誰かと会いませんでしたか?」

不思議そうな顔を松岡に向けたキャプテンは、俺にもチラリと視線を投げてから、新田に問いかけた。

「誰?」

「あ、僕の友達です。松岡と山下。今日の武田の試合を見に来たんです」

「へえ。俺はサッカー部キャプテンの狩野かのうだ」

「……どうも」

等閑に応じた松岡から顔を背けて、キャプテンは腕時計を覗き込んだ。

「だが、もう夕食の時間だ。他の奴等が迷惑する。早くお前達は食堂へ行け」

急かすように手を振ったキャプテンに、松岡はパチンと指を鳴らして自分に意識を戻させた。

「誰かと、会いませんでしたか?」

キャプテンの顔を指差して同じ台詞を繰り返す。凄みのある松岡の瞳を真っ直ぐと見返した彼は、怪訝な顔をしながらも、はっきりと頷いてみせた。

「ああ。此処に来るまで、誰とも会っていない。みんな、食堂に行っている時間だからな」

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