ストレイ・ラム

Motoki-rhapsodos

第38話

三階にほぼ同時に到着した俺と松岡は、走り難い為に途中で手に持ち替えていたスリッパを履き、お互いに顔を見合わせた。階段は三階までで止まっている。階段前の廊下に立って、左右を見回した。

左を向くと、すぐ正面に夕日を受ける窓があり、その左側。正面の窓と階段の間にはトイレがある。クルリと振り返って夕日を背に立つと、正面には長く廊下が続いていた。右手前にドアが一つあるがそれ以外は壁で、廊下に沿った右側は大きな部屋だと判る。長く続いた廊下の途中に一つ、掃除入れだと思われるロッカーが置かれていた。

「どうなってんの?」

肩で息をしながら、松岡に問いかける。

「さあな」

「此処は三階だから、まさか誰かさんみたいに窓から飛び降りたってこたぁ、ないよなぁ」

廊下に沿って並んでいる窓から外を見下ろして呟く。すると呆れ声の松岡が、等閑に同意した。

「当然だな」

「じゃあ、何処に?」

「………」

追い詰めたと思った武田のドッペルゲンガーは、何処にもいない。フンと不満げに鼻を鳴らした松岡の後ろから、パタパタと階段を駆け上がって来る足音が聞こえた。遅れて追いついて来た新田と武田も、不思議そうに左右を見回している。

「ドッペルゲンガーは?」

「消えたよ」

「二階で廊下に出たんじゃないか?」

息を整えながら言う新田に、松岡が首を振る。

「いや。俺と山下が、二階から三階に上がるあいつを見てる。チラリとだけだがな」

「じゃあ、いったい――?」

小さく唸った松岡は、一つだけあるドアに手を掛けた。そして取り付けられた錠がちゃんと締まっている事を確認すると、クルリと俺達に向き直った。

「消えたんでないとすると、考えられる場所は二つ」

指を二本突き出し、それを振って左右を指差す。

「トイレか、ロッカーか、だ」

ドアに凭れかかった松岡を取り囲むようにして、俺達は互いに顔を見合わせた。

「だけどロッカーなら、ドアが閉まる時に音がする筈だよ」

「そうかもな」

「じゃ、トイレにいるんだ。きっと」

「かもな」

腕を組んで考え込む松岡に、新田と武田が眉を寄せる。

「じゃ、二手に分かれて見に行けばいいんだろ!」

何を悩む必要があるのか解らないと言いたげな武田が、苛立たしげに言った。自分のドッペルゲンガーを目撃してしまった彼の顔は蒼ざめ、明らかに冷静さをなくしていた。

「推理」の人気作品

コメント

コメントを書く