ストレイ・ラム

Motoki-rhapsodos

第37話

二人の部屋で他愛もない話をして過ごした俺達は、そろそろ夕飯の時間だというので、帰る為に部屋を出た。

「どう? どうにかなりそう?」

階段を下りながら心配そうに訊いてくる新田に、松岡は自信ありげに頷いてみせた。

「任せとけ。明日、喫茶店に来いよ。武田は練習あんだろ? 新田、お前一人で来い。ドッペルゲンガーが出なくなる護符を渡してやるよ」

「護符? そんなの役に立つの?」

「ああ! 立つ立つ! 二度と出ねぇようになる筈だぜ」

ククッと意味ありげに笑った松岡は、「ああ、そうだ」と思い出したように武田を見た。

「どっかで見た事あると思ったら、あの小西って先輩。とおるさんの弟だろ?」

「亨さん?」

眉を寄せる新田の隣で、武田が驚いたように目を見開いた。

「知ってるの?」

「ああ」

「誰?」

「亨さんっていうのは、去年――」

靴箱の前で、説明しようとこちらを見た武田の動きが止まった。その顔が、驚愕に見る見る蒼ざめていく。

「え?」

武田の目線の先を追って振り返った俺達は、あまりの事に言葉を失った。

遥か先の廊下の隅。

其処には、すぐ横にいる筈の武田がこちらに背を向け、俯き加減で立っていた。オレンジ色の夕焼けを正面に受け、その黒い影が長く俺達の方へと伸びている。

逆光ではあったが、背中の番号ははっきりと読み取れた。それはまさしく、すぐ傍にいる武田が着ているユニフォームに間違いなかった。

「うそ……」

ふらついた足で後退る武田を顧みて、松岡が苦々しげにチッと舌打ちした。

「馬鹿か! あいつは!」

そう言い捨てるが早いか、勢いよく走り出す。それに続いた俺の後ろで、武田の名を呼ぶ新田の心配そうな声が聞こえた。

俺達から逃れるようにすぐ横にある階段を駆け上がると、ドッペルゲンガーは姿を消した。

「あの野郎! もう容赦しねぇ!」

足を緩める事なく追いかける松岡が、ギリッと歯を食いしばり、唸るような叫び声をあげた。

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