ストレイ・ラム

Motoki-rhapsodos

第30話

俺達がグラウンドに到着した時、既に試合は始まっていた。人気のある部という事だけあって、観客席など無いグラウンドのフェンスの周りは、大勢の生徒達で埋め尽くされていた。

「――しかし、ちょっと意外だな……」

ざわめきと声援が飛び交う中。

新田を捜してブラブラと歩きながら呟いた俺に、松岡が顔を向けた。

「何が?」

「いや、お前だよ。まさか新田に、依羅さんを紹介するとは思わなかった。――だってあの時。松岡の方から言い出しただろう? 悩み事があるんじゃないかってさ。お前なら、気付いてても知らん顔しそうじゃないか。相手が言い出すまでさ」

驚きの表情を浮かべた松岡が、「へぇ」と唇の片端を引き上げる。

「お前こそ、案外と人を観察する眼があるじゃないか」

感心したような声を出した松岡は、顔を真っ直ぐ前へと向けた。

「そういう意味で言うなら、新田が感謝しなきゃならないのは、お前だな」

「は?」

「俺があいつを気にかけたのは、お前の言葉の所為さ。言ってたろう? 新田と俺が似てるって。――だから、興味を持った。俺と似てるって奴が眠れなくなる程の悩み事って、どんなかなってさ」

「で? どうだった?」

「……似てるかどうかは兎も角、おもしろい奴だと思ったよ。他人の事であそこまで悩めるなんて。只――」

言葉を切った松岡は、前方に人を掻き分けるようにしてこちらへと向かって来る新田を見つけ、片手を上げた。

「あいつ、結構目敏いな」

両手をジーパンのポケットへと突っ込んで、ボソリと呟く。

「昨日もあんな人込みの中、お前の事見つけてたし……」

一人で感心する松岡に、俺はぼんやりと新田を見つめながら切り返した。

「そーゆうトコも似てんじゃん」

「……そうかぁ?」

「ああ。お前だって泥塗れの子犬、見つけてたしさ」

クスリと笑った俺に、松岡の侮蔑を含んだ視線が向けられる。

「犬と同レベルなのかよ、お前って。――解ってねぇな。あいつは七年間、一度も会わなかったお前を見つけたんだぜ。眼鏡をかけた、お前をだ。あいつにとっては、それだけ特別な友達だったのかもよ、お前はさ。ま、相手が忘れてんじゃ、張り合いもねぇって話だがな」

「……何それ」

「解んねぇならいいよ。只、言っとくけどな。俺を見てお前が思い出したのは、新田じゃねぇよ」

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