ストレイ・ラム

Motoki-rhapsodos

第28話

気のない様子で答えた依羅さんが、ドアに目を向けた。カランと音が鳴って、三人の女性客が入って来た。水とおしぼりを持って、テーブルに近付いて行く友也さんの背中を見つめながら、依羅さんはぼんやりと呟いた。

「問題は、どうしたいかという事だな」

「え?」

訊き返した新田を見下ろして、依羅さんは唇に手をあてた。

「君は、どうしたい? その『ドッペルゲンガー』――はっきりと正体を確かめたいか、それとも……」

「僕は……。――いいえ。僕は只、あいつにとって一番いい結果を出したい。それはきっと、『ドッペルゲンガー』が出なくなる事だと思う。正体とかそんなのは、はっきり言ってどうでもいいんです。出なくさえ、なってくれれば……」

それに微笑んだ依羅さんは、小さく頷いた。

「そうだね。確かめる事が、全てを解決するという事ではないからね。――でもそれならば、私は表立って行動しない方がいいだろうね」

松岡に目を向けた依羅さんは身を乗り出し、試すような瞳でジッと彼を見つめた。

「保。今の話、注目すべき点が何処にあるか気付いたかい?」

「ああ。――たぶん」

ニヤリと笑った松岡に、依羅さんは体を起こした。フンと軽く鼻を鳴らす。

「では保。この依頼、一番いい結果をお前が出してごらん。解決出来たなら――お前達二人が授業をサボッた事は、大目に見てあげよう」

依羅さんの言葉に、松岡が「ゲッ」と体を前のめりにした。驚いた様子でガッと顔を上げた松岡に、クスクスと依羅さんが笑う。

「油断したね、保。今日雨が降っていたのは、午後二時までだよ。帰って来る時は、夕日が出ていただろう? 子犬の泥を取ってあげたのは上出来だったが、どうせなら濡れたシャツと自分のズボンの裾にも気を配るべきだったね。靴は泥まみれになっていないのに、ズボンの裾にはかなりの泥跳ねの痕がある。二階の窓とまでは言わないが、今日もちょっとした高さの所から上履きのままで飛び降りたね? そしてそんな事をする理由となると――」

唇の両端を上げた依羅さんに、「クソッ」と松岡が悪態を吐く。

「でもなんで、山下までサボッたって判んの?」

納得いかないと言いたげな松岡は、チラリと俺を見遣った。

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