ストレイ・ラム
第21話
「『ストレイ・ラム』変わった名前だね」
喫茶店のドアを開けようとした松岡の横で、新田が呟いた。
「そうか? ある意味ピッタリなんだけどな」
「どーいう意味なんだ?」
何気に言った俺に、二人の視線が突き刺さる。
「お前、授業ちゃんとうけてんのか?」
「まさか、ラムまで解らないとは言わないよね? 『ストレイ・ラム』、『迷える子羊』の意味だよ」
「ふーん、そう」
チロリと俺に呆れた視線を向けた松岡が、ドアを開けて中に入った。それに続いて入った俺達を、手を上げて止める。
「ちょっと、今は無理みたいだ」
松岡の視線を追うと、丁度客を二階に案内しようとしている依羅さんがこちらを見ていた。その後ろにいる客は、昨日のあの、中年の男だった。
「どうした、保」
訊いた依羅さんに、松岡が頷く。
「うん。二つばかし、依羅さんに相談があるんだ」
鋭い視線を俺達に向けていた依羅さんは、新田を見つめて言った。
「一つの方は大体想像がつく。――が、もう一つの方は少し待ってもらえると有難い。十五分程、大丈夫かい?」
「あ、はい」
答えた新田に薄く微笑んだ依羅さんは、カウンターの中の友也さんに視線を移した。
「子犬の方は、友也に相談した方が良さそうだよ」
そう言って上がって行く依羅さんを見送っていた松岡は、友也さんに向き直り肩を竦めてみせた。
「どーしよ、友也さん」
「取り敢えず、今はお客がいないからいいけど、犬が苦手なお客も来るかもしれない。事務所の方へ入れておいた方がいいかな。二階にコーヒーを持って行ったら、何か温めてあげよう」
「サンキュ」
カウンターの後ろにあるドアに入って行った松岡は、すぐに黒いエプロンをつけながら出て来た。二階から下りて来た友也さんに、手を洗いながら問いかける。
「あの子犬、飼ってくれそうな人いるかな」
「どーだろね。暫くなら、私達のマンションで預かる事も出来るけど」
「うーん」
軽く温めた牛乳のようなものを皿へと移しながら、友也さんは俺達に目を向けた。
「日に日に友達が多くなっていくね、保。一樹君と――」
「あ、新田博之です」
「新田君ね。二人はコーヒーでいいのかな?」
「あ、すいません。昨日も結局、ご馳走になっちゃって」
「いいよ。保の友達なんだから」
やさしく微笑んだ友也さんが、皿を松岡に渡した。それを持って、ドアの向こうへと松岡が消える。
喫茶店のドアを開けようとした松岡の横で、新田が呟いた。
「そうか? ある意味ピッタリなんだけどな」
「どーいう意味なんだ?」
何気に言った俺に、二人の視線が突き刺さる。
「お前、授業ちゃんとうけてんのか?」
「まさか、ラムまで解らないとは言わないよね? 『ストレイ・ラム』、『迷える子羊』の意味だよ」
「ふーん、そう」
チロリと俺に呆れた視線を向けた松岡が、ドアを開けて中に入った。それに続いて入った俺達を、手を上げて止める。
「ちょっと、今は無理みたいだ」
松岡の視線を追うと、丁度客を二階に案内しようとしている依羅さんがこちらを見ていた。その後ろにいる客は、昨日のあの、中年の男だった。
「どうした、保」
訊いた依羅さんに、松岡が頷く。
「うん。二つばかし、依羅さんに相談があるんだ」
鋭い視線を俺達に向けていた依羅さんは、新田を見つめて言った。
「一つの方は大体想像がつく。――が、もう一つの方は少し待ってもらえると有難い。十五分程、大丈夫かい?」
「あ、はい」
答えた新田に薄く微笑んだ依羅さんは、カウンターの中の友也さんに視線を移した。
「子犬の方は、友也に相談した方が良さそうだよ」
そう言って上がって行く依羅さんを見送っていた松岡は、友也さんに向き直り肩を竦めてみせた。
「どーしよ、友也さん」
「取り敢えず、今はお客がいないからいいけど、犬が苦手なお客も来るかもしれない。事務所の方へ入れておいた方がいいかな。二階にコーヒーを持って行ったら、何か温めてあげよう」
「サンキュ」
カウンターの後ろにあるドアに入って行った松岡は、すぐに黒いエプロンをつけながら出て来た。二階から下りて来た友也さんに、手を洗いながら問いかける。
「あの子犬、飼ってくれそうな人いるかな」
「どーだろね。暫くなら、私達のマンションで預かる事も出来るけど」
「うーん」
軽く温めた牛乳のようなものを皿へと移しながら、友也さんは俺達に目を向けた。
「日に日に友達が多くなっていくね、保。一樹君と――」
「あ、新田博之です」
「新田君ね。二人はコーヒーでいいのかな?」
「あ、すいません。昨日も結局、ご馳走になっちゃって」
「いいよ。保の友達なんだから」
やさしく微笑んだ友也さんが、皿を松岡に渡した。それを持って、ドアの向こうへと松岡が消える。
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