雪の残像【BL】

Motoki-rhapsodos

第11話


「俺は昔、天使を見た事があるんですよ。まだ学生の頃ですけど。あなたと一緒で付き合ってたカノジョと別れて。それも喧嘩別れして。気分最悪で歩いてたんです。そしたら足元にちっちゃな男の子がしゃがみ込んでて。すっごく邪魔でね。

むしゃくしゃしてたし、蹴り飛ばしてやろうかと思いましたよ。苛立ち混じりに『踏んじまうぞ』って言ったら、その子振り向いて、俺を見て笑ったんです。ほっぺを真っ赤にして、ふわぁってね。『うわぁ、天使だ』って俺、思いましたよ」

「え……!」



――うそっ。



両手で口を覆った僕の足元に、紙コップが落ちる。それを拾った彼は、自分の紙コップに重ねながら言葉を続けた。



「その子を見ててね、思ったんです。もしかしたら、あいつも今頃泣いてるかもしれないって。その子と別れてから急いで元の場所に戻ったけれど、もう手遅れでしたよ」



「――いつ。いつ気付いたんですか? 僕だって」

「そんなの、初めっから。だって、泣き顔全然変わってねぇもん」

フッと笑みを浮かべて帽子と眼鏡を取った彼は、仰ぐように天を見上げた。



「ほら。もうすぐ闇が降りてくる。俺は間に合わなかったけれど、お前はまだ間に合うんじゃないか? どこまでも続くような線路を走っていても、どんなに重くても、俺達はちゃんと、大事に持って行こうぜ。ポケットいっぱいのお菓子をさ」

「あ……」

涙が溢れて、両手を伝っていく。ずっと逢いたいと思ってた、幻だと思ってた天使様が、目の前にいる。



あの鋭い瞳で、変わらぬ瞳で、チロリと僕を射抜いた。





――天使様だぁ…。





ポロポロと涙を流す僕の頭に、ポンと天使様の手が乗っかった。



「大事なモンなら、今度はお前が捜しに行け。連れてかれたくなかったらちゃんと捜しだせ。捕まえて、決して放すな。――ちゃんと来てくれただろう? お前の父さんは」

コクコク頷く僕に、ニヤリと笑う。手が離れて、再び空へと顔が向けられた。

「お前がもう俺の天使じゃないように、俺はお前の天使じゃないけれど。ちゃんといる筈だぜ、お前の今の天使が。闇は人を不安にさせるけど、明るい時には見えないモノを、きっと見せてくれる」

天を指差した天使様につられて、暮れた空を見上げる。



空から舞い降りてくる雪はやさしげで、満天の星のように綺麗だった。



「汝、案ずる事なかれだ」



やさしい呟きと共に、トンッと背中が押された。



          

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