日常【BL】
夜ぞふけにける 1
「早く歩きなさいよ! 花火に間に合わなくなるでしょッ」
前を浴衣姿で歩きながら振り返った『女王様』は、夜目にも判る程目を吊り上げていた。
「はいはーい」
等閑に返事をした俺を、スゴイ形相で睨みつけてくる。
「いや、ホント。目一杯急いでマスから」
掌を突き出して言った俺に満足したのか、俺の姉――織田沙耶花は前 へと向き直った。
そして再び、隣をエスコート宜しく歩いている磐木祐志へと腕を絡める。
「ホント、トロいんだから」
ねー、と同意を求めるように祐志へと首を傾げる。それに応えるように、姉貴を見返した祐志が微笑んだ。
「誰の仕度が遅かったんだっての!」
――ってか。俺の親友を取るなよ!
小声で呟いた俺の言葉が聞こえたのか、俺の隣を歩いていた打田潤一が苦笑を浮かべていた。
「………聞こえました?」
「まあね」
更に小声で訊いた俺に、潤一さんも手を口元に添えて囁くように返してくれる。――こ の人の、こーいうノリが結構好きだった。
「なんかね。この旅行の為に、お母さんから着方を教えてもらったらしいよ」
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