ストロボガール -落ちこぼれの僕が、時を止める理由-
29. それぞれの孤独
「うん」
僕が優しく同意すると、静謐な病室で沙綾は孤独を吐くように語り始めた。
「私の心にはいつも仮面がついてるの」
「仮面?」
「うん。仮面をつけずに本音でぶつかっちゃうと相手を傷つけてしまうから、いつも心に仮面をつけて佐々良沙綾という優等生を演じてる。でもそれは本当の私じゃない」
ヨスガの言っていた役割や空気感に合わせて、偽りの自分へと変化を続ける話に似ているなと僕は思った。僕がずっと避けてきた能動的な変化に、沙綾はずっと向き合っていた。
「いつかこの仮面を外して本当の佐々良沙綾をさらけ出した時、いったいどれくらいの友達が私の傍に残ってくれるんだろう。そんなことに、私はずっと怯えながら学校に通っていた。そしてついにその日が訪れてしまった」
沙綾は傷を癒すように深く息を吸ってから、話を続けた。
「昨日ね、部活で時期部長を決める会議があったの。私ともう一人の候補の子が、部長としての抱負を話したあと、他の部員に票を入れてもらう。私は絶対に部長になれると思ってた。だって一年の時から大会で受賞歴があったし、もう一人の候補の子が大会を目指すよりも楽しく自分たちのペースで部活をしたい方針だったから、絶対に他の子たちは私についてくると信じてた」
悔しさを押し殺すように、沙綾は額に手を当てる。
「何票差だったのかはわからない。でも私は負けた。部長の方針は来年度の部活の方針に直結する。私はどうしても納得がいかなくて、心の仮面を外してしまった」
「本当の沙綾をさらけ出したってわけか」
「うん。部活動生活最後の一年なのに楽しいだけで終わってしまっていいの?って、時期部長の子の方針を否定するようなことを、みんなの前で言ってしまった。馬鹿みたいだよね。もう投票は終わってて、みんなはその子についていくって決めたのに。
私たちの代は、一年の頃からすごい仲良しで、私は時期部長の子ともすごく仲良くしていた。でも仮面の下の本当の私は、どこかでその子たちを見下していたんだと思う。私はこの子たちとは違う。写真に一生懸命で、だから結果もついてくるんだって」
僕には全く縁のない青春の苦い一幕の光景だった。だが沙綾の気持ちはなんとなくわかる。
「私は私の居場所を、自分で奪ってしまった。もうあの写真部に私なんかがいる資格はない……」
もとから居場所がないのと、居場所を奪われる。後者のほうが辛いことは僕にでも分かった。僕も沙綾も、それぞれに孤独を抱えていた。やっぱり兄妹なんだ。僕はそう言いかけて、躊躇した。沙綾と僕は似ているようで、やはり似ていない。僕は別の言葉を喉元から持ち上げる。
「沙綾の居場所はここにある。沙綾の写真は本当にすごい。部活で沙綾の居場所がなくたって、家にあれば十分じゃないか。ぼっちの僕が言うんだから間違いない」
沙綾はそれを聞いて微かに苦笑した。静謐じゃなければ聞き取れなかった声で
「馬鹿な兄貴……」
と呟く。
「ん? なんか言った?」
僕は半目に瞳を開いた。
「ううん。なんでもない。おやすみ」
月明りだけでは沙綾の表情は伺えなかった。
僕が優しく同意すると、静謐な病室で沙綾は孤独を吐くように語り始めた。
「私の心にはいつも仮面がついてるの」
「仮面?」
「うん。仮面をつけずに本音でぶつかっちゃうと相手を傷つけてしまうから、いつも心に仮面をつけて佐々良沙綾という優等生を演じてる。でもそれは本当の私じゃない」
ヨスガの言っていた役割や空気感に合わせて、偽りの自分へと変化を続ける話に似ているなと僕は思った。僕がずっと避けてきた能動的な変化に、沙綾はずっと向き合っていた。
「いつかこの仮面を外して本当の佐々良沙綾をさらけ出した時、いったいどれくらいの友達が私の傍に残ってくれるんだろう。そんなことに、私はずっと怯えながら学校に通っていた。そしてついにその日が訪れてしまった」
沙綾は傷を癒すように深く息を吸ってから、話を続けた。
「昨日ね、部活で時期部長を決める会議があったの。私ともう一人の候補の子が、部長としての抱負を話したあと、他の部員に票を入れてもらう。私は絶対に部長になれると思ってた。だって一年の時から大会で受賞歴があったし、もう一人の候補の子が大会を目指すよりも楽しく自分たちのペースで部活をしたい方針だったから、絶対に他の子たちは私についてくると信じてた」
悔しさを押し殺すように、沙綾は額に手を当てる。
「何票差だったのかはわからない。でも私は負けた。部長の方針は来年度の部活の方針に直結する。私はどうしても納得がいかなくて、心の仮面を外してしまった」
「本当の沙綾をさらけ出したってわけか」
「うん。部活動生活最後の一年なのに楽しいだけで終わってしまっていいの?って、時期部長の子の方針を否定するようなことを、みんなの前で言ってしまった。馬鹿みたいだよね。もう投票は終わってて、みんなはその子についていくって決めたのに。
私たちの代は、一年の頃からすごい仲良しで、私は時期部長の子ともすごく仲良くしていた。でも仮面の下の本当の私は、どこかでその子たちを見下していたんだと思う。私はこの子たちとは違う。写真に一生懸命で、だから結果もついてくるんだって」
僕には全く縁のない青春の苦い一幕の光景だった。だが沙綾の気持ちはなんとなくわかる。
「私は私の居場所を、自分で奪ってしまった。もうあの写真部に私なんかがいる資格はない……」
もとから居場所がないのと、居場所を奪われる。後者のほうが辛いことは僕にでも分かった。僕も沙綾も、それぞれに孤独を抱えていた。やっぱり兄妹なんだ。僕はそう言いかけて、躊躇した。沙綾と僕は似ているようで、やはり似ていない。僕は別の言葉を喉元から持ち上げる。
「沙綾の居場所はここにある。沙綾の写真は本当にすごい。部活で沙綾の居場所がなくたって、家にあれば十分じゃないか。ぼっちの僕が言うんだから間違いない」
沙綾はそれを聞いて微かに苦笑した。静謐じゃなければ聞き取れなかった声で
「馬鹿な兄貴……」
と呟く。
「ん? なんか言った?」
僕は半目に瞳を開いた。
「ううん。なんでもない。おやすみ」
月明りだけでは沙綾の表情は伺えなかった。
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