ストロボガール -落ちこぼれの僕が、時を止める理由-
0.最悪な出会い
夏休み直前の放課後。午後の西日が指した人気のない校舎裏に一組の男女がいた。一人は僕、佐々良ソウタ。そしてもう一人はクラス委員長でお嬢様の波野原絵里香だ。彼女は今、自慢の巻き髪に手を掛けながら、目の前の僕を睨みつけて固まっている。
これは告白の場面ではない。そんな甘酸っぱい青春と正反対の、恐喝、強請の場面である。絵里香は嫌悪をむき出しにし、弱々しい僕を見下すような態度をとっている。だがその口は間抜けに半開きのままだ。
「……僕は悪くない。波野原さんがいけないんだ」
僕はそう言って一歩ずつ絵里香に近づいていった。それでも彼女は身動き一つしない。それどころか、風を含めたこの世のあらゆる音が消え、僕の制服がこすれる音だけがこの世界に響いている。なぜならこの世界の時間は今、完全に停止しているのだ。
そのまま僕は絵里香の肩に手をかける。この距離まで女子に近づいたのは初めてだ。シャンプーの匂いがする。
「よ、よく見るとこいつ結構かわいいな……それに胸も大きい」
絵里香は性格に難があるためクラスのみんなからは嫌われているが、ルックスだけなら明らかに上位だろう。どうせ誰も見ていない僕だけの世界だ。何をしたってかまわない。それにこんな奴だ。今までの借りをたっぷり仕返ししてやる。そう思って、僕は正面から絵里香に抱き着いた。薄い夏服越しに胸の感触が伝わる。
「……うわ、柔らけえ……」
思わず声が出てしまった。絵里香の髪の匂いに僕の理性が失われていく。すぐさま制服のボタンに手をかける。
「……波野原さん。いや絵里香、ごめん、我慢できない」
僕は時間停止の力を使って「大人への階段を登る」決意をした。制服のボタンを一つずつ、お腹のあたりまで外していくと、白いインナーからピンクの下着が透けているのが見えた。僕はもう早く絵里香の胸に顔をうずめたくて仕方がない。その時だった。
《カシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャ……》
あるはずのないカメラの連写音が、突然、静寂に鳴り響く。
僕や絵里香のスマホが誤作動したわけではなく、もちろん時間が戻ったわけでもなかった。すぐにあたりを見回すと、僕の真横に制服を着た少女がいて、僕の一連の醜態をスマホのカメラに収めている。
「え?」
僕は思わず固まった。少女ながらも大人っぽい顔立ち。肩まで伸びた髪と前髪を止める赤いヘアピン。名門中高一貫校の制服。僕が今まで一度も忘れたことがない人が、そこに立っていた。
「……綾野先輩」
僕と目が合うと、先輩はこう呟いた。
「……どうぞ私にかまわず、続けてください」
その時の先輩はどこか遠いところを見るような眼をしていた。それはあまりにも最悪な形での、主人公とヒロインの出会いだった――。
これは告白の場面ではない。そんな甘酸っぱい青春と正反対の、恐喝、強請の場面である。絵里香は嫌悪をむき出しにし、弱々しい僕を見下すような態度をとっている。だがその口は間抜けに半開きのままだ。
「……僕は悪くない。波野原さんがいけないんだ」
僕はそう言って一歩ずつ絵里香に近づいていった。それでも彼女は身動き一つしない。それどころか、風を含めたこの世のあらゆる音が消え、僕の制服がこすれる音だけがこの世界に響いている。なぜならこの世界の時間は今、完全に停止しているのだ。
そのまま僕は絵里香の肩に手をかける。この距離まで女子に近づいたのは初めてだ。シャンプーの匂いがする。
「よ、よく見るとこいつ結構かわいいな……それに胸も大きい」
絵里香は性格に難があるためクラスのみんなからは嫌われているが、ルックスだけなら明らかに上位だろう。どうせ誰も見ていない僕だけの世界だ。何をしたってかまわない。それにこんな奴だ。今までの借りをたっぷり仕返ししてやる。そう思って、僕は正面から絵里香に抱き着いた。薄い夏服越しに胸の感触が伝わる。
「……うわ、柔らけえ……」
思わず声が出てしまった。絵里香の髪の匂いに僕の理性が失われていく。すぐさま制服のボタンに手をかける。
「……波野原さん。いや絵里香、ごめん、我慢できない」
僕は時間停止の力を使って「大人への階段を登る」決意をした。制服のボタンを一つずつ、お腹のあたりまで外していくと、白いインナーからピンクの下着が透けているのが見えた。僕はもう早く絵里香の胸に顔をうずめたくて仕方がない。その時だった。
《カシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャ……》
あるはずのないカメラの連写音が、突然、静寂に鳴り響く。
僕や絵里香のスマホが誤作動したわけではなく、もちろん時間が戻ったわけでもなかった。すぐにあたりを見回すと、僕の真横に制服を着た少女がいて、僕の一連の醜態をスマホのカメラに収めている。
「え?」
僕は思わず固まった。少女ながらも大人っぽい顔立ち。肩まで伸びた髪と前髪を止める赤いヘアピン。名門中高一貫校の制服。僕が今まで一度も忘れたことがない人が、そこに立っていた。
「……綾野先輩」
僕と目が合うと、先輩はこう呟いた。
「……どうぞ私にかまわず、続けてください」
その時の先輩はどこか遠いところを見るような眼をしていた。それはあまりにも最悪な形での、主人公とヒロインの出会いだった――。
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