遠未来でアラサー女剣士の弟子になりました

藤 夏燦

メカド小隊

 メカドの身を案じながら、レッド、イメク、バード、ギイトの四人はシラスナを探して皇帝の旗艦内を走っていた。しばらく暗闇の廊下を進むと開けたエレベーターホールに抜けた。灰色に染められた薄暗い空間だ。ここにも誰もおらず四機のエレベーターの扉が使用者を待っていた。どれも稼働しているようである。


「行き止まりか。エレベーターに乗るしかないようだな」


 レッドは立ち止まり言った。イメクがすかさず話始める。


「実はメカド隊長からこの艦と同型機の地図をもらっていてね」


そういうと手元の携帯端末を操作し、地図を開いた。


「上の階に上がれば艦のコックピットがある。おそらくシラスナ大佐とホージロちゃんもそこに向かっているはずだよ」
「よし、行こう」


 レッドの掛け声で四人はエレベーターに入った。戦艦にしては窮屈な作りで、四人でも狭く感じる。ボタン付近に立ったバードが扉を閉め、上の階へ行先ボタンを押すと体がふわっと浮き上がり高速でエレベーターが動き出す。


「メカド隊長。大丈夫だろうか」


 つかの間の安息の時間にギイトが不安そうに話し始めた。


「隊長を信じるしかないだろ」


 レッドはそれしか言えなかった。毒を浴びている以上、メカドはもう……。その続きは考えたくもない。レッドが黙っていると、バードも口を開いた。


「メカド隊長は私たちを信じて作戦を任せてくれました。私たちもメカド隊長を信じましょう」
「そうだね、それが僕たちの役目だ」


 イメクもバードの言葉に同調した。ギイトは三人の励ましに黙って頷く。すでにフダカとアーク、同僚二人を失ったメカド小隊。特にギイトは相次ぐ仲間の死と隊長との別れを経験し、初めての戦争に辟易としていた。もちろん初めて軍隊に入って戦地へ向かう決意をした時、ある程度の覚悟を決めたつもりではあった。しかし戦争で敵兵を圧倒し、華やかに活躍する想像とは違って実際の戦場で目にしたものは、生き残りをかけて必死に戦う自分の姿と仲間の死であった。小隊のメンバーのことを誰よりも思っている彼にとって、仲間との別れはとても辛いものであった。アークもフダカもつい一時間前までは隣にいて冗談を言い合っていたのに、それがすっと消えてしまう。そして記憶になり思い出となっていく。


「ギイト、大丈夫か?」
「あ、ああ」


 不安と悲しみが混じり放心していたギイトをレッドが現実へと連れ戻した。ギイトは


「俺たちで本当に大丈夫だろうか。そもそも生き残れるんだろうか」


と弱気な声でこぼした。その言葉にレッドは口を開いた。


「戦争は強い奴がいて勝てるわけじゃない」


 メカドがよく言っていた言葉をそのまま繰りかえす。弱い兵士は容赦なく見捨てるシラスナとは違い、メカドはチームで戦う事を大切にしてきた。剣術に秀でたレッド。優秀なパイロットで冷静沈着なバード。自己主張は少ないが話が上手くまとめ役のイメク。パワーが人一倍ありムードメーカーのギイト。敵の兵器に精通しトリッキーな戦い方をするフダカ。そして誰よりも視野の広いアーク。メカド小隊はそれぞれの長所を生かし、ここまで訓練し戦ってきた。お互いがお互いを信頼し、助け合うチームだ。それは今も変わらない。


「そうだったな」


 四人は目を合わせると、エレベーターが目的の階に着き通知音が鳴る。そうして静かに扉が開いていく。武器を構え、恐る恐る外に出ると、またしても薄暗い廊下が広がっていた。敵が全然見当たらない。廊下を歩き出し、イメクが言った。


「もしかしたらシラスナ大佐たちが片付けちゃったのかも」
「だといいんだけど。油断するなよ、イメク」
「分かってる」


 レッドに注意を促されてイメクはそのあまりにも軽い絹布のような愛刀を構えた。


「それにしても、静かすぎる」


☆☆☆


 皇帝の旗艦内に兵士が少ない理由はシラスナとホージロのおかげではなかった。デラストラ将軍が艦内にいる部下をできる限り引き連れて宇宙へ戻ったためである。もちろん恭順なデラストラが皇帝を裏切るなんてことはしなかったが、皇帝から失敗を許されていない以上、戦力を強化する必要があった。それで少しでも戦闘機のパイロットやジェットパックで飛ぶ白兵を集めようと、コックピットと皇帝の護衛を残して宇宙へ行ってしまったのだ。シャドゥーはこのことに気づいていたが、彼らの目的は皇帝の暗殺であり、戦艦内が空くことはかえって好都合になるため何も言わなかった。
 小型艦を何隻も引き連れた貧弱なデラストラの艦隊は、共存軍の知らない間に大気圏に再突入し、見つかることなく隠れながら攻撃のチャンスをうかがっていた。


「たった戦艦一隻だ。この命に代えても仕留めてやる」


 デラストラは艦長席で気合をいれた。



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