遠未来でアラサー女剣士の弟子になりました

藤 夏燦

目が血の色で染まった男

 ダストシュートを抜けるとごみ処理室の天井へ出た。戦艦で発生した生活ごみを特殊な装置で圧縮し、微細なゴミにして排出している。すでにシラスナとホージロが開けたらしい穴がゴミ処理室にはあり、そこから戦艦内部への侵入も容易だった。


「意外と簡単に忍び込めましたね」


灰色に染められた廊下を歩きながら、イメクは先導するメカドに向けて言った。


「もともと宇宙戦目的で作られているからな。侵入者への対策はされてないんだろう」


メカドは剣を構えながら先に進んだ。ごみ処理室から短い廊下を抜けると、少し広い格納庫に出た。油と血の混じったような臭いが鼻につく。慎重にあたりを見渡したメカドは使われてないヘリコプターや戦闘機の間に皇帝軍のロボットたちの死体が転がっているのを見つけた。


「シラスナめ、派手にやりあがって」


レッドやイメクたち小隊のメンバーもその光景に言葉を失った。敵とはいえ死体は人型をとどめていないものばかりだ。最終的には逃げ惑ったのだろう。出口付近に死体が密集していた。


「みんな気をつけろ。生き残りがいるかもしれん」


メカドの注意喚起のあと、レッドたちは格納庫を探索した。どうみても生き残りがいるようには見えない。中型のヘリコプター前にいるメカドがバードを呼んだ。


「バード、操縦できるか?」


ヘリは共存軍で使われているようなジェットヘリによく似ており、特別な技術がいるタイプだった。バードはガラスの外から中を覗き、コックピットの操縦設備を確認した。


「少し古いタイプですけど、動かしたことがあります。大丈夫です」


汗ばんだ額に前髪を引っ付けてバードが言った。綺麗な顔にアークの返り血がついている。メカドはバードからの報告を聞くと、小隊全員を集めて言った。


「よし、みんなジェットパックを外せ、このヘリを脱出用のヘリに使う。イメクとバードはここに残れ。残りのメンバーは俺と来い。シラスナを追う」


メカドの声に皆返事をすると、一斉にジェットパックを外し空中戦闘服を脱いだ。


「みんな気をつけて」


イメクはメカドについていくレッド、ギイト、フダカの無事を祈った。


「ありがとう。二人も気を付けてな」


 ギイトは3人を代表して言った。そしてメカドに続き三人が出口へ向けて歩き出した時だった、近くに人の気配と物凄い邪気を感じた。


「誰かいる」


レッドのその声に皆剣を構える。小隊が丸く陣形をとり、それぞれ仲間を背にして立った時、フダカの姿がないことに気づいた。


「フダカ? どこだ?」


メカドがあたりを見渡すと天井から一滴の血が落ちてきて床に広がった。全員が恐る恐る顔を上げる。
 フダカは死んでいた。その体は鎖のついた日本刀で貫かれ、まるで人形のように両手足が垂れ下がっている。彼を刺していたのは全身にお札を纏った忍者のような男だった。彼はどうやっているのかわからないが両足で天井にぶら下がり、フダカの体を軽々と串刺していた。その目は血の色で染まり、まさに人を殺すためだけに生まれてきたような姿をしていた。


「よぉ、俺の名前はデス。少しは楽しまさせてくれるんだろうなぁ」


デスはそういうと器用に剣を手の中で転がし、フダカの体を切り裂いた。


「いやっ!」


バードは小さく声を上げ、レッドたちも思わず目を背けた。真っ二つになったフダカは無残にも床に落下し、辺りには血しぶきが飛び散った。


「なんか弱そうな奴らだな。殺しても楽しめなさそうだ」


デスはレッドたちに剣の矛先を向けると、天井から両足を離し斬りかかってきた。


「来るぞ!」


メカドはデスの剣を両手で正面から受け止めるとそのまま押し返した。デスは受け身をとり、再び日本刀を構える。


「へっへへへ」


デスは不気味なほど口角をあげた。楽しくて楽しくて仕方がないような顔だ。メカドは部下たちに気を配りつつデスを見た。素早い動きだが捉えられないわけじゃない。おそらくさっきのシャドゥーほどのスピードはない。


「みんな俺の後ろにいろ。陣形を崩すな」


レッドたちが頷くと、デスがメカド目掛けて全速力で走ってきた。


「来いよ!」


メカドは大声を出して威圧するが、デスはそれを見て笑うと一瞬で彼の前から消え去った。


「てめえじゃねえよ」


その声は一番剣術に不慣れなバード前にいた。彼女がブラスターを構えるより先にデスは日本刀を振り下ろす。


「これで二人目だ」


間一髪、メカドがバードを守り、剣で刀を受けると、そのままデスに突っ込む。デスは素早く刀を引き、メカドの攻撃をかわすと彼に右の足首あたりに切り傷を付けた。


「そんなかすり傷じゃ俺は倒せない」
(さすがメカド隊長、強い)


レッドはバードを守るように陣形を組みなおしながら、メカドの強さに驚いた。メカドに再びデス目駆けて突っ込んだ時、デスは静かにほほ笑んだ。


「ふっ」
「うっ! なに!」


その瞬間、メカドの右足首に激痛が走った。彼は足を抑え、しゃがみこんだ。


「メカド隊長!」


 イメクがすぐにデスとメカドの間に入り、デスの攻撃を防いだ。デスは数歩距離をとり、刃からな紫の液体を出す日本刀を恍惚そうな目で眺めた。


「俺様の剣は≪刺苦ザク≫。その名の通り刺した相手が苦しむ。剣先から筋力を低下させる毒が出ているのさ。刺された箇所は動きが鈍くなる」
「くっ、油断した」


メカドは悔しい顔をして立ち上がる。


「それと静脈じゃなくてよかったな。この毒には心臓の筋力すら低下させてしまう力を持っている。もし静脈に毒が入った場合、血の流れに乗り約1分で心臓にたどり着き毒が効き始める。つまりどういうことかわかるか?」


メカドは息をのんだ。


「死だ」







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