遠未来でアラサー女剣士の弟子になりました

藤 夏燦

入隊検査

 昼過ぎにレッドとホージロが共存軍の司令部の前にいた。平然とした表情のホージロに対し、レッドの顔はこわばっていた。


「緊張してるの?」
「もちろん。ホージロだってするだろ?」
「全然。むしろ強いライバルたちと早く会いたくてうずうずしてる」
「物怖じしないんだな。僕も負けないようにしないと」


 レッドは入り口で深呼吸をする。入隊希望を受け付けに伝えると、メコ将軍の部屋まで二人が通された。


「入隊希望者か。よく来てくれた」
「オズカシ村のレッド・ドラクジです」
「魔法使いの国のホージロです」
「そうか、君がアロスの……」
「はい、父は元気ですか?」


 メコ将軍は黙り込んだ。レッドが不審に思っていると、一人のロボットが入ってきた。共存軍の軍服に身を包んだ一つ目の男だ。


「将軍、お呼びでしょうか?」
「ああ。ラークス少佐。この新兵二人を案内してやってくれ」
「はっ、わかりました」


 ラークスは元気よく言い、レッドとホージロを見る。


「あの僕らの入隊検査は……」
「必要ない。君たちは合格だ」


 メコ将軍は深く椅子に腰かけると


「あとはラークスから聞いてくれ」


と言った。


「じゃあ君たち。こっちにおいで」


 ラークスに連れられてレッドとホージロは司令部の廊下を歩いた。


「僕はラークス。階級は少佐。今は宇宙艦隊の司令官代理を務めている。君たち名前は?」
「レッド・ドラクジです」
「ホージロです」
「レッドにホージロか。よろしくね」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
「お願いします」


 レッドはラークスを軍人らしくない人だと思った。人当たりがよく知性的である。


「本当は君たちには南方戦線に向かってもらうはずだった。白兵戦がメインの剣士の戦場だ。しかし宇宙艦隊が壊滅の危機に瀕していてね、申し訳ないんだがまずはふねに乗ってもらう」
「フネですか?」


 聞きなれない言葉にホージロが聞き直した。


「うん、宇宙艦のことを僕らはふねと呼んでいる。ところで君たち宇宙に行ったことはあるかい?」
「実はまだないんです」
「僕もありません。すぐにお役に立てるかどうか……」
「大丈夫、心配いらないよ。僕も入隊するまでは宇宙になんて行ったこともなかった。艦のなかでは重力をおこしているから地球と変わらないんだ。すぐに慣れると思う」


☆☆☆


 レッドとホージロはラークスに格納庫まで案内された。楕円形のドーム型の建物で、共存軍の宇宙艦が5隻格納されている。どの艦も海上の戦艦と変わらない大きさだ。宇宙の物質をエネルギー源にして浮上するしくみのため、ジェットエンジンに比べて快適な乗り物だとラークスは二人に教えた。


「そしてこれが僕の旗艦であり、君たちが乗ることになる宇宙艦≪流雨―ルウ―≫だ」


 ラークスはひときわ大きな艦の前に立つと自慢げに腕を組んだ。≪流雨≫は他の艦よりも一回り大きく、艦体に隊長艦の証である赤いラインが入る。大砲が両サイドの隙間から顔をのぞかせていた。今は軍服を着た大勢のクルーたちが艦の整備にあたっている。


「レッドとホージロ、君たちには副砲の狙撃手を任せたい」


 狙撃手という言葉にホージロは少し不安そうな顔をする。


「ラークス少佐、私たち銃も撃ったことないんです。狙撃手なんて」
「大丈夫、そのために明日から訓練をするのさ。今の副砲は自動アシスト機能がついているから剣術よりもよっぽど簡単だよ」


 ホージロは不満そうに唇を噛んだ。


「とにかく明日からみっちり鍛えてあげるから今日はもうゆっくり休むといい。二人の寮はもう用意しておいた」
「ありがとうございます、ラークス少佐」
「寮についてはイメク上等兵から教えてもらうといい」


 ラークスはそういうと≪流雨≫の砲塔を拭いていた一人の軍人を呼んだ。短く切りそろえられた黒髪に爽やかで童顔の青年だ。彼もまた軍人にはみえない。


「イメク、新兵二人を寮まで案内してあげて」
「わかりました」


イメクはレッドとホージロに目をやった。


「レッド・ドラクジです」
「ホージロです」
「はじめまして、僕はイメク・スウ。よろしくね!」



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