遠未来でアラサー女剣士の弟子になりました

藤 夏燦

それぞれの思惑

――地獄樹海――


 じめじめとした湿気に霧が立ち込める。不気味な木々が生い茂り、耳を澄ますとおぞましい竜の咆哮と巨大なミミズが地面を動き回る音が足から聞こえる。ここは≪地獄樹海≫ 地球のどこかにある、「邪気」を操る者たちが暮らす場所である。蔦に覆われた廃墟になった寺院で二人の影が話していた。


「邪気の王様、機械皇帝カルナの呼びかけに各地の邪気を持つ者たちが集まり始めました」
「なるほど、カルナも自身の部下たちだけでは軍を維持できなくなってきたというわけか。戦争が長引けば奴はますます力をつけるだろう」
「カルナ如きにそんなカリスマ性がありますかね。仮にそうだとしても戦争で共存政府が弱体化すればいいじゃないですか」
「わからないかザイガード」


 そう言っているのは≪邪気の王≫ 彼は邪気を操る者たちの頂点に立っている男だ。顔とわからない不気味な模様の入った仮面を被り、黒いローブを体に纏っている。


「と言われますと?」


 もう一人はザイガード。彼は地獄樹海の支配者にして邪気の王の良き相談相手だ。同じくローブを体に纏い、白い機械の顔をむき出しにしたロボットである。


「ザイガードよ。カルナは邪気を持つものたちを集めている。すると次は必ず邪気の王の座を奪いに来るだろう」
「確かにそうですね。そうなると早いうちに手を打たなければ……。地獄樹海の邪気軍団ならば皇帝軍などあっという間に片付いてしまうでしょう」
「馬鹿者、戦争など起こすべきではない。我らの存在は来るべき時が来るまで極秘であらねばならないのだ。それにカルナの部下たちにもいずれは我らの下で戦ってもらわねばならない。そうでないと≪覚醒戦争≫で勝利を収めるのは難しい」
「では消すのは機械皇帝カルナただ一人ということですか?」
「そうだ。直ちに邪気の軍勢から優れた者たちを集め、カルナ暗殺部隊を結成しろ」
「かしこまりました」


ザイガードはそういうと一瞬にして消え去った。


☆☆☆


――機械皇帝カルナの部屋――


 何も知らない機械皇帝のカルナは母艦にて戦況の確認を行っていた。


「宇宙圏は我らが支配した。月に基地を作り、艦隊を整えよ。コザラ提督を指揮官に任命する」
「はは」


とコザラ提督は一礼をするとその場を後にした。


「ウイング総督。南方戦線は取り返したか?」


 ウイング総督は頬を上げて答えた。


「はい、皇帝陛下。作戦が成功し共存軍の奴らを追い返しました」
「よくやったぞ、ウイング総督」


 皇帝はにっこり微笑んで部下の健闘を称えた。するとその場にいたウイング総督の参謀であるアルバスターが横から口を挟んだ。


「皇帝陛下、大変申し上げにくいのですが」
「なんだ、アルバスター」
「逃げ出したのではありません。その……我々の軍が全滅しました」


 アルバスターの横槍にウイングは顔を青くした。


「申し訳ありませんでした。陛下のご機嫌を損ねまいと嘘をついてしまいました」


 ウイングの態度に皇帝は困り果てて


「次はないと言ったはずだが」


と彼を睨みつけた。


「戦局は不利ですが各地で陛下を支持する戦士たちが集まっております。どうかこのウイングめにもう一度チャンスを……」
「ひざまずけ」


 皇帝のことばにウイング総督は喜んでひざまずき、頭を深く下げた。


「こ、この通りでございます。お許しください」
「デラストラ将軍」


 懇願するウイング総督をよそに皇帝は涼しい顔である男を呼んだ。


「お呼びでしょうか?」


 そして一人の大柄なロボットが部屋に入ってきた。皇帝の右腕を務めるデラストラ将軍である。甲冑を身にまとい、大刀を背中に担いでいる。


「こ、皇帝陛下。これは一体……」


 ウイングは声が裏返って全身が震えあがる。


「次はないと言ったはずだ」


 デラストラ将軍は大刀を構えると、ウイング総督の背後に立った。


「お、お待ちくだざい! どうかお慈悲を」
「人間はな、ロボットと違って使い捨てがきく道具だ。お前の代わりなどいくらでもいる」
「こ、殺さないでえええ」


 ウイング総督の悲鳴にもにた情けない命乞いとともにデラストラ将軍は大刀を振り下ろした。
――ブチャッ
 ウイング総督の首が飛び、舌を出して無様に床を転がる。


「へっ、生臭くて鼻が曲がりそうだ。人間は生ものだからな」


 皇帝がウイング総督の頭を蹴りつけると、急いで清掃ロボットたちが死体を片付け始めた。


「アルバスター」
「は、はい、陛下」


 人間のアルバスターは同様しながら答えた。


「南方戦線はお前に任せる。今日からはお前はアルバスター総督となるのだ。ただし失敗は許さんぞ」
「も、もちろんです。必ずや取り返してみせます」


 アルバスター総督は冷や汗をかきながら言った。


「せいぜい頑張ることだ。こうなりたくなければな」





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