遠未来でアラサー女剣士の弟子になりました

藤 夏燦

ゴツマの商人

 翌日の朝は驚くほど寒かった。昨日、ジルド山の溶岩を体感したためだろうか。レッドは不気味なほどの寒さを感じていた。さらに霧まで出てきて村全体が薄暗い。


「この先の暗い山道を抜けると大きなゴツマという街に出る。そこからヘリコプターでサンガオーのアジトがある山の頂上につく。帰りはグライダーが出ておる」


スケリドは不安そうな顔で言った。


「ご親切にありがとうございます」


 レッドが頭を下げるとホージロが


「気を付けて」


と言った。レッドは一晩泊めてもらったスケリドの家を後にし、霧の中へ飛び込んでいった。シャクーはまだ眠っていた。


☆☆☆


 血の臭いがする。近くに転がっている怪物の死体からだろう。でも彼らももとは人間だった。レッドはこの世界の惨たらしさを受け入れた。この世界を何とか変えたい。
 峠を抜けると細い一本道が続いている。片側は崖で落ちたら死ぬ高さだ。しかしジルド山の恐怖に比べればマシだった。こんなところにも人間が歩いているのか。足を進めると開けた街にでた。小さな屋根が不規則に並んでいる。活気もある。ここがゴツマだ。レッドが街に入りと入り口に奇妙な立て札を見つけた。


≪これより先ゴツマ サンガオー自治区
 ヘリコプター:グライダーの貸し借りを禁ずる≫


「サンガオー? 魔法使いか。ここに書いてあることが本当か、街で確かめてみるかな」


 レッドは立て札に注意を払いつつ街に入った。ゴツマには古い時代の建物が多くある。新しい車は見当たらない。まるで江戸時代にタイムストップしたみたいだ。街のメインストリートでは武器商人たちが刀やブラスターを売りさばいている。


「どこよりも安いよ、おっ兄ちゃん剣士かい?」


 頭にバンダナをしたロボットの商人がこちらに話しかけてきた。


「ああ。ひとつ聞きたいんだが、入り口の立て札の注意書きは本当か?」
「本当だ。俺たちは魔法使いには逆らえない。この前も勇敢な旅人が奴のアジトまで行こうとしたんだ。でもよヘリコプターで向かったさきに大きな光の玉が飛んできて、そいつは殺されちまった。そしてヘリコプターを貸したやつは死刑にされた。悪いことは言わねえ。魔法使いを討伐しようと考えないことだ」


 商人は暗い顔で言った。


「わかった。気を付ける」
「見たところ剣士だけど、あんたどこへ行くんだ?」
「ダゴヤで軍人になる」
「共存軍か。じゃあ強いんだ」
「わからない。まだ誰とも刃を合わせていないんだ」


レッドは商人の目を見ると


「親父さん、僕にヘリコプターを売ってくれ」


とポケットから電子財布を取り出した。


「……あんた正気かい? 魔法使いには勝てない。俺も死刑になっちまう」
「だから買うのさ。サンガオーは貸し借りを禁じてるけど売買を禁じているわけじゃない。もし失敗しても死ぬのは僕だけだ」


 商人は不安げに


「……わかった。初めてあんたの剣を見た時からただものじゃない気配を感じてた。そうとうお強いんだろう。あんたには負けた。売ってやる。」


「ありがとう、必ずこの街を救ってみせるよ」



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