一目惚れから始まった俺のアオハルは全部キミだった...

来亜子

退院パーティー

〈来蘭side〉

「来蘭、忘れ物ないか?」

「うん、大丈夫だと思う!」

病室を出て、そうちゃんと2人でリハビリルームを訪れた。
紫音先生は、午前中の仕事を終え片付けをしているところだった。

「まだ居たのか?早く行けよ、ほら邪魔だ邪魔だ」
そんなこと言って、手でしっしっする紫音先生に

「来蘭が大変お世話になりました!
この先の来蘭の人生、しっかり俺が支えて行きます!」
そう言ってそうちゃんは深々と頭を下げた。
わたしも慌てて一緒に頭を下げると、紫音先生がわたしたちの頭をだまって撫でた。



数ヶ月過ごした病院を後にして、みんなが待つガレージに向かった。
わたしの退院のパーティをみんなが開いてくれるんだって!
みんなに会えることがとにかく嬉しい!

そうちゃんがガレージのドアを開ける...
ん?誰も居ない?
みんなまだ来てないのかな...

パン、パン、パン、パン!!
四方八方からクラッカーが鳴り、みんながソファの裏やバーカウンターの下から出てきた!

「退院おめでとー!!おかえりー!!」

びっくりしたと同時に涙がぶわっと出てきて、顔がぐちゃぐちゃになったわたしに、真っ先に駆け寄って来た加奈も、わたしと同じくらいぐちゃぐちゃの顔してて、2人して笑った。

優輝くん、陽介くん、吉井先輩、廣瀬先輩、英二先輩に英昭先輩、みんな揃っていた。

「今夜はサタデーナイト!朝までパーティだー!」
いつになく陽介くんがはしゃいでる。
フライドチキンやピザ、ポテトにサラダ、みんなで食べると、こんなに美味しいんだな...なんて思ったら、鼻の奥がツンとしてポテトに塩味が増した。

「さてと!じゃあ来蘭に発表するか!」
廣瀬先輩がいきなり立ち上がった。

「なになに?」
チキンにかぶりつきながら先輩を見た。

「なんと!俺たち!コロラドミュージックさんと、契約出来るかもしれません!!」

「え?ほんとですか?コロラドミュージックって言ったら、めちゃくちゃ大手のレコード会社じゃないですか!」

「驚くのはまだ早いぞ?来蘭!大森さんが持って行ったのは、俺たちのデモ音源だけじゃないんだ!お前らの音源も持って行ってな、お前らにも興味持ってくれてるんだよ!
それでだ!今度の文化祭、コロラドミュージックの協力の元に、俺たち2バンドがライブをすることになった!しかもネット生配信!!」

頭の中が完璧にキャパシティオーバーだった。

「ちょっ、ちょっと待って...頭ん中整理する。
先輩たちのバンドが、どこかのレコード会社の目に留まるのは時間の問題だと思っていたから、正直そんなに驚くことじゃないけど、わたしたちにまで興味持ってくれてるなんて...
えっと、それで?文化祭でライブ?しかも生配信? 
待って...わたしたちのバンド、ベーシストどうするの?わたしベース弾けなくなってしまったから、ベーシスト探す所からだよ?」

そこに居る全員が、なんとも言えない顔して笑ってる...

「来蘭、実はな、新しいベーシストが今日来てるんだよ。来蘭が入院してる間に、内緒でそいつと一緒に猛練習してたんだ。後はもう、ボーカリストである来蘭の最終ジャッジを待つのみなんだ。そのベーシストと演奏するから歌ってくれるか?」
と言うそうちゃんに、わたしは頷いた。

セッティング準備する間、外で待っててくれと言われ、わたしはガレージから出て、木陰にしゃがんでいると、吉井先輩が飲み物を2つ持って出て来た。

「暑いな外はー!ほら、冷たいの飲みなー来蘭」

「優しいね、吉井先輩」

「俺はいつだって女の子には優しいよ」

「ねぇ吉井先輩?新しいうちのバンドのベーシストってどんな人かなぁ?」

「すげぇイケメンだよ!めちゃくちゃカッコイイ!そんですごい努力家!ほんっとに猛練習してたよ...廣瀬が心を鬼にして教えてたんだ…よくここまで泣き言も言わずに頑張ったと思う」

「そうだったんだ…廣瀬先輩が…」

「とりあえず頭ん中『無』にして歌ってみろ!」
そう言ってわたしは目をつぶらされ、吉井先輩に手を引かれて、ガレージ内に入った。
セッティングされたマイクの前にまで連れて来られ、そのまま目を閉じたまま歌えと吉井先輩に耳打ちされた。



何度も聞いた優輝くんのピアノのイントロが響く...このピアノの音でわたしのスイッチは入る...

陽介くんのギターの音、少し変わった!弦に触れるピックの当て方を変えたんだ!凄くいい!

そして…ベースが入ってくる…
ハイポジションの高いキーから入る、ベースの最初の魅せ場…
この曲の世界観『救いようのない孤独』を、見事に表現していた…

わたしはもう、演奏陣の凄さに引き込まれるがままに歌った。

世界観が『暗』から『明』に変わる!
そうちゃんのドラミングも変わった?
バスドラの重みも全然違うし、スネアの音にも凄みが増してる!

そこからはもう一気にテンションが上がってく!
そう!これ!!
音がわたしの身体の中でうねる...
そのままわたしは昇天した...

歌い切り、マイクスタンドに身体を預けながら、床にへたり込んだわたしに、差し出されたその手は...

「加奈…?」

振り向くとそこには、わたしの赤いベースを持った加奈の姿があった。

「加奈が弾いていたの…?」

「うん。あたしが弾いていたんだよ。あたしをこのバンドのベーシストにさせてくれる?来蘭?」

うん、うん、と何度も頷いた。
言葉なんかなにも出なかった。
ただもう涙が止まらなかった。

そうちゃん、陽介くん、優輝くんも側に来て、みんなして上向いてる。
廣瀬先輩は、人目もはばからず泣いてる。
吉井先輩、英二先輩、英昭先輩まで目が真っ赤…

よし!
わたしはすくっと立ち上がって
「文化祭ライブ!ぶちかましちゃおーぜー!!」
渾身のテンションで言ってみた!

「……」
「……」
「……」

え?
あれ?

「来蘭、空気読もうぜー」
「もう、台無しー」
「MCの腕は磨く必要があるな…」

もうけちょんけちょん…

がくーんと頭を下げたら、その途端にみんなが大爆笑!
なんかもうみんな、泣いてるんだか笑ってるんだか分からなくなって、そのままパーティは盛り上がり続け、1人、2人、と寝落ちし始め、起きてるのはそうちゃんとわたしだけになっていた。
いつしか外の色が変わり始めているのに気がついたそうちゃんが、窓の外に指先を向けて
「海行こ、来蘭」
そう言って、そうちゃんは自分が羽織っていたパーカーを脱いで、わたしに着せた。

コメント

  • 来亜子

    今日も読んでくれてありがとう。
    加奈の頑張りは、きっと相当のものだったと思う。だから先輩たちもグッと来たんだろうね...
    海に向かった来蘭と奏太は...(*ฅ́˘ฅ̀*)♡

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  • ノベルバユーザー427233

    加奈の努力が報われた瞬間だと思うし、海に行った2人の話が非常に気になる。

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