婚約者を寝取られた勇者は代理出産の道に走る ~もはや女性は信じられませんっ~

政治っぽい人

 

「ーーごめんなさい」



魔王討伐の旅を経て婚約者の元へと帰ってきた勇者。



その彼女から最初に発せられた言葉がそれだった。



「え、いや、何が」



狼狽える勇者の後ろから現れたのはチャラついた感じの貴族の男だった。



「あん?何、お前?」



こっちに向かってガン飛ばさてくる貴族に思わず狼狽える。



「え?あ、いや」



ますます混乱に拍車がかかる。



「何、人の女に手ぇ出そうとしてんだよ!?」



こっちの胸ぐらを大して太くない手で握りあげる。



そんな程度ではびくともしないが、それよりも、



「へ?あの、人の女って……」



そこまで見ていた彼女の顔が急に険しくなる。



「あのさ、もういいでしょ?」



彼女の、どちらかというとうっとおしそうな態度にますます混乱してくる。



「うぜーんだよ!!」



これまで聞いた事のない様な口に、まるでチンピラのような態度の貴族。



「ほら、さっさと出ていけよ、おら!!」



俺は貴族に強引に家から追い出されてしまう。



この時、やっと俺は悟る事が出来た。



俺は彼女をあの男に寝取られていた事を。







「ーーーそれは真か!!?」



所変わって、ここは王城。王が鎮座する謁見の間である。



王は俺の話を聞き慌てふためく。



「い、いや、それは大変申し訳ない。直ちに其奴。首を跳ねてーーー」



「いえ、それには及びません」



やるなら自分でやるし。



「そ、そうか。なら、お詫びと言っては何だが、我が娘を娶らせようと思うが、どうか?」



ーー旅立つ前、王女の一人を救いだした事がある。その時

大層感激してくれ、是非とも嫁にしてほしいと彼女に随分、懇願されたが、



「いえ、それには及びません。姫には想い人がおられるようですから」



さっか、一応顔見に行ったら、ベッドでしっぽりやっていた。あれ、騎士団でも問題の奴だったけと、いいんだろうかね?



「そ、そうか。なら、あの公爵の娘はどうか?あの娘はーー」



「いえ、先程挨拶に参ったのですが、あまりこちらを気に入らない様子。その様な方を無理に嫁がせては王の名に傷がつきましょう」



あんな人を小馬鹿にした高飛車陰険女を嫁にするほど俺は人が出来ていない。



「それよりも、王よ、わたくしに2人、女の死刑囚を賜りたいのでございますが」



「それは構わんが、一体どうするつもりだ?」



「一つ試したい事がございます」



王はいぶかしがりながらも、俺の提案を受け入れてくれる事になった。







地下牢では、粗末な布だけを着せられ、後ろ手に縛られ猿轡を咬ませられた女の死刑囚が二人、用意されていた。



「それで、どうする気かね?」



王は不思議そうに聞いてくる。



「ある術を試したく存じます。



この女から、卵子ーー即ち子の元を取り出し、我が精と合わせてこちらの女に埋め込むます。



さすれば、十月十日すれば、子が成せる。



これぞ、秘術、代理出産でございます」



「なるほど、



ーーって、ならーん!!!」



「何でだよ!!?婚約者は寝取られ王女もしっぽりやってやがる!!



どいつもこいつもふざけやがって!!俺がどんな思いで戦ってきたと思ってやがるんだ畜生!!



もう女なんか信用出来ねーんだよ!!



だから代理出産の道しかねーんだよ!!!



この道しかねーんだよ!!!」



「そ、それは分かったから、ちょっと待てっ」



思わず興奮してとんでもない口の聞き方していた事に気づき、慌てて頭を下げる。



「……これはとんだ無礼を」



「い、いや。そちの気持ちも分かる。命懸けで世界を救い、帰ってみれば、女どもかそんな醜態を晒したのだ。その気持ちも分かる。



しかし、少しばかり待ってはくれまいか?



そちは救国の英雄なのだ。捨て鉢になって、そんな事をする必要もないのだ」



「ーーしかし」



「なんとかする!!何とかするから、少し待て!」



思わぬ王の剣幕にこっちが驚いてしまった。



かくして、王に言われるまま、数日間待つことなったのだった。





数日して、再び王宮に招かれた。



「良く来たな、勇者よ」



謁見の間で待ちかねていた王は、以前からの約束である領地と伯爵の位を与えてくれた。



群臣もそれに納得しているようで、なるほど、彼等は俺の功績を認めてくれているらしい。



「そして、兼ねてからの約束であるがーー」



王が目配せすると、奥から三人の女官が現れる。



俺と年の近い妙齢、艶かしい魅力を放つ熟女、そして明るさと生命力溢れる年下、三人三様それぞれ違う魅力を持つ女性達だった。



「これらの者は貴公と是非にと言う者達である。



是非、貴公に受けて頂きたいのだが」



王の申し出に思わず顔が崩れそうになる。



しかし、何かおかしい。違和感がある。



「お気づきになられましか?」



妙齢の女官がくすっと笑う。



そうだ、彼女ら、いや、こいつらはーー



「そう、貴方の良く知る、騎士団長にございます」



……あー。



「わたくしは魔術師長にございます」



艶やかな笑みを浮かべるのは熟女の女官。



「はいはーい、ボクは従者だよっ」



おめーは分かる。見たまんまだ。



「あの、しかし、これはどういう……」



流石に意味が分からない。どういう事なんだ。確かに騎士団長とは轡を並べて戦った。



命を救った事は一度や二度ではない。



夜に様々な事を水入らずで語り合いあった。正に親友とも言える存在だ。こいつと結婚する奴は特だな、と思う位に気も効く。



だからと言って、いきなりイチモツとって、絶世の美女になって現れるとは。



「なに、そちにふさわしい女性とは、と思ったのたが、何せ事情が事情。普通の女を合わせても気に入るまい。



そこで、そちに特に恩義を感じている者を集い、女神の力を持て男から女にと、こうなったのだ」



こうなったのだ、ではない。盛大な奇跡の無断遣いである。



「勇者殿は命をなげうたれて戦われました。我等とて何かせねばなりませぬ」



だからと言ってイチモツなげうつのは違うんでないかい魔術師長。



「いえ、これくらいせねばあなた様へのご恩は返せませぬ」



いや、まあ、国王を命の危機から救ったり、アンタの濡れ衣晴らしたりはしたけども。



「ボクはオリジナルだよー。ほれほれー」



分かった分かった、いちいちスカート捲らんでよろしい。何でお前まで加わっているんだ従者くん。



「えー、だって。ボクだって勇者の事、好きだしー」



そんかノリでええんかい。



「ーーこうなった以上、我等とて後には引けませぬ」



妙齢の女官となった騎士団長が目を潤まして言う。



「ーー貴公に助けて頂いたご恩。どうか返させて頂きとうございます」



どっから、どー見てもエロい熟女にしか見えない魔術師長も後に続く。



「どうかどうか、お側に置いて頂けないでしょうか?」



こんな風に懇願されては、ふと心が揺れ動いてしまう。



「えーと、一応確認なんですが、子作りの方は……」



「ええ、バッチリにございます」



騎士団長がにっこり笑う。マジか。



「頑張ればボクもいけるかもっ」



頑張らんでいい従者よ、流石にそこは無理だ。玉ついとるし。





かくして、俺は三人の伴侶を得る事になった。



まあ、元男だが、仕方ない。そこは目をつぷろう。下手に女と絡んでも離婚とかされると仕方ないし。



群臣聴衆共に新たな門出を盛大に祝ってくれる。



これからも、この国の為に力を持て尽くすだろう。



俺は新たな伴侶の美しい花嫁姿を眺めながら心に違って誓った。









おわり

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