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紅城楽弟

【プロローグ 3352年 ランジョウ編】

【帝国歴3350年 星間連合帝国 帝星ラヴァナロス】

 重苦しい空気の中でハンフリー・ギランは生唾を飲み込むと、彼の喉から響くゴクリという音が部屋中に響き渡った。
彼の目の前に座るベルフォレスト・ナヤブリは左右に美しい女性を従え、左手の中で健身球を回しながら重く低い声でそう尋ねてくる。

「……それで? 貴様の意見を聞こう」

ベルフォレストが醸し出す威圧感を前にハンフリーは用水に飛び込んだかのように汗まみれになっていた。ベルフォレストの巨体とみぞおちまで届く髭が異様な威圧感を醸し出しており、ハンフリーにとっては直属の上官であることを差し引いても、嫌な緊張感に包まれる相手だったのだ。

「こ、皇太子様は決して不正などは行いません。あのお方は誇り高い方ですから」

ハンフリーは声を少し震わせながらそう告げる。

 ラヴァナロス星は帝国民であれば誰もが憧れる星と言われているが、ハンフリーは住んでみて初めて現実を知った。
彼は元々レオンドラ星で議員目指す官僚の1人として働いていたが、今は皇太子の身辺管理官という大役を今は仰せつかりここラヴァナロス星へやってきていた。
本来ならば誰もが羨み敬愛する職業なのだが、彼は今の仕事に対して希少価値は感じていても、やりがいや楽しみは全くと行っていいほど感じてはいない。

――死ぬべきは愚弟だった。

それはこの帝国内で広まる皇太子への感情である。
世間から愚弟と呼ばれる皇太子のお目付役。
それはいうなれば何の力もない金持ち小僧のお守り役と何ら変わらないのだ。
現に今回も皇太子が通う学び舎で彼の不正行為疑惑があがり、それを指摘した同級生を半殺しにしたという。しかし、ハンフリーは今回皇太子が引き起こした問題に1つ疑問があった。
B.I.S値が著しく低い皇太子が同級生を半殺しにできたのは、恐らく被害者の同級生は一応皇族ではある人間に直接的な暴力を振るえず無抵抗だったからだと推測できる。
彼が疑問に思っているのはそれ以前の問題とも言える皇太子が不正をしたという事にあった。

 ハンフリーは皇太子に対してあまり良い感情を抱いていないのは事実だ。
そしてその要因の一つに、あの皇太子が無能でありながらもプライドを持っていることにあった。

――そんなプライドの塊とも言える皇太子が不正などするだろうか?

ハンフリーの中にあるその直感が、目の前に立つ強大な執政大臣に意見させたのだ。
しかし、そんな彼の心情を知ることなくベルフォレストは重く低い声で告げた。

「……ハンフリーよ。何を勘違いしておる?」

ベルフォレストが健身球の動きをピタリと止める。
そして彼が左手を握り締めると、その大きな手はみるみるうちに健身球の表面を包み込んだ。

「私は貴様の見解を聞いておるのではない。今後の算段について意見を聞いておるのだ」

「は、ははっ!」

威圧感しかないような声にハンフリーは思わず頭を下げる。
彼の額から滴る汗が床に敷き詰められた紫の絨毯に落ちると濃い紫の濁点が広がった。
ハンフリーは思慮深く仕事はできる人間ではあったが、小心者で長いものに巻かれるタイプだったのだ。

「わ、私めの意見としますと、皇太子様に置かれましては学び舎に赴かれるのではなく、ここ城内で専属の教員より個人指導をお受けになるのが好ましいかと!」

「……ではそうせよ。教員の選出は貴様に任せる。信用のおけるものならばそのまま側近とするがよかろう」

「よ、よろしいのですか!?」

「一向に構わん。貴様に任せると言ったのだ。好きにせよ」

「は、ははっ!」

ハンフリーは思わず歓喜にも似た声でそう頭を下げる。
執政大臣直々に人選を任されるというのは大きな信用を得たにも近く、この上ない誉れ高いことだったからだ。

 しかし、頭を下げながらも彼の心の中は予てから抱いていた疑問が渦巻いていた。
ベルフォレスト・ナヤブリは執政大臣であり、建国以来皇族に従ってきたナヤブリ家の家長である。
皇族派の筆頭である彼から皇太子の管理官に任命されたハンフリーは異例の出世と当初は喜んでいたが、どうも解せないことがいくつかあったのだ。
ベルフォレストは時折、皇太子のもとへ足を運び会食を共にすることがあった。
その時の彼はハンフリーに見せない穏やかで慎ましい表情を皇太子に向け、皇太子も幼少時から後見人としてそばにいてくれていたベルフォレストには心を開いているらしく、ハンフリーには見せない子供の笑顔をみせていた。
しかし、その時の皇太子の笑顔は本物のように見えたが、ベルフォレストの表情にはどこかぎこちなさというか、外交での会談時に見せるような義務的な笑顔のように感じていたのだ。
そして今のように、皇太子が何か問題を起こせば別段彼が動くこともなく、全てハンフリーに処理をさせる。
管理官に任命されているハンフリーとしてはそこに文句はないが、どうもベルフォレストからは愛情はおろか皇太子に対しての関心が覗えなかったのだ。

「で、では、これで……」

「うむ」

ハンフリーは挨拶もそこそこに、急ぎ足で重苦しい執政室を後にする。

 廊下に出たハンフリーは、すぐさま懐からケイスガを取り出すと、徐に候補者リストを開き眺めながら家庭……いや、城内教師の選定にあたることにした。
この動き出しの早さこそが彼の有能たる所以なのだ。
何よりハンフリーからすれば今の仕事を田舎の両親が喜んでくれている上、友人らからも持ち上げられているためプライベートに関してはメリットしかない。そうやってプラスに考えることで彼は自分の中にある不満や疑問を押し殺した。

「(……そういえば以前管理補佐官募集で書類選考落ちされた者がいたな)」

ハンフリーは当時のことを思い出す。
自身の補佐を務める人物を選定したところ、経歴も実力も家柄も申し分ない人材が2名いたのだが、何故か書類選考で落とされていたのだ。

「(確か……そうだ! この2人だ!)」

スティック状のケイスガの先端から浮かび上がるディスプレイに映る2人の顔を眺める。
奇しくも2人とも元皇后直轄護衛騎士団の人間であり片方は参謀まで務めた人物である。
2人は騎士団解散後は帝国軍の戦略開発部隊と第二機動部隊へと転属になっているようだった。

「(トーマス・ティリオンと……ベアトリス・ファインズか。よし、さっそく連絡を取らせよう)」

ハンフリーはディスプレイを開いたまま管理補佐官へ連絡を入れた。



■【帝国歴3352年 星間連合帝国 帝星ラヴァナロス】

 ラヴァナロス星……それは帝国の中心であり、海陽系12惑星の中で最も気候が穏やかな星である。
さらに伸縮性のある特殊な地盤によって地震などの災害はなく、隕石が密集した星全体を囲む6本の輪が星を守るいわば天然の防壁に守られた要塞惑星だった。

 星は全域にわたって機械と自然が融合したかのような作りになっており、最先端技術で作られた建造物には蔦が巻き付き、巨大な大樹には機械の保護システムが接着するなど、相反するものが入り交じる不思議な世界になっていた。
おかげでこの星にある大都市ではどれだけエアカーが空を舞っても、浄化された空気と海陽から注ぐ光に満ちていたのだ。

 そんな帝星ラヴァナロスの首都セプテンベルにある王宮シルセプター城は、正に帝国の粋を結集した城である。
幾何学的な美しいデザインでありながら強固な外観をしており、防衛のために外壁の中にはさらに3枚の城壁が並んでいる。さらに城の上空500㎞が常に監視されており、必要とあらば防衛用人工衛星ザイアンから攻撃されることもあるのだ。

 完璧な要塞でもあるシルセプター城の中心には当然だが皇帝の住む宮殿が存在している。
その宮殿の中で深紅の瞳を持つ少年……皇太子のランジョウ=サブロ・ガウネリンはそんな完璧な宮殿を地獄と感じながら生きていた。彼にとっての楽しみは現実を忘れさせてくれる本や演劇などの空想の世界だけだったのだ。

「……今日の予定は?」

ランジョウは本に視線を落としたままそう告げると侍従の1人が一歩前に出て口を開いた。

「本日はこの後トーマス補佐官から歴史学をお受けいただきます。その後は星間トンネル改装完工記念式典のリハーサルを、夜は旧皇族方との会食がございます」

「……つまらんな」

ランジョウはそう言って本を閉じ床に放り投げる。
すると、室内に常駐する18人の侍従のうちの1人が慌てて本を片付けた。

「何かお持ちしますか?」

侍従の問いにランジョウは見向きもせずに答える。

「……では部屋を出て行ってくれ。余も1人になりたい時がある」

「承知いたしかねます。皇太子殿下をお守りしお世話することが我々の役目です故」

「ではせめて若い女性で統一しろ。余もそろそろ年頃だ」

ランジョウは笑いながらようやく振り返る。
しかし、いつも通り侍従らは皆無表情に彼の言うことを的確に理解するだけだった。

「……執政大臣にご確認いたします」

「そうしてくれ。できれば人間味のある者だと尚良い」

ランジョウは再び彼らに背を向ける。

 侍従という名称は名ばかりで、彼らの目にはランジョウに対する敬愛の光はない。
敬愛どころかまるで彼のことを厄介者、もしくは渋々彼に付き従っているという態度をランジョウが見抜けないはずがなかった。

絞りカス
愚弟(愚帝)
いらなかった方

その他多くの通り名がランジョウにはあった。
生まれてすぐ死んだという見たこともない会ったこともない兄が彼にとって最大のコンプレックスだったのだ。
そしてそのコンプレックスをえぐるかのように、侮蔑の目が王宮の……いや、すべての人間から向けられているような気がしていた。
普通の人間ならば分かりかねるだろうが、視線を向けられる当人にしかわからないものがそこにはあったのだ。

 「失礼いたします」

扉の向こうから聞こえる声にランジョウは表情を歪めたまま返事をする。

「トーマスか?」

「はっ」

「入れ」

ランジョウが許可を出すと扉が開き、そこから黒目で覆われたジュラヴァナ人のトーマス・ティリオンが入ってくる。
彼は2年前にランジョウが通っていた学び舎を去った日からやって来た専属の教官であり、側近的な立場になりつつある。
このトーマスと護衛官であるベアトリス・ファインズ、そして2人を統括するハンフリーが彼の最も身近な人間になるのだが、疑心暗鬼に陥るランジョウにとってみれば彼らも外からやって来た人間に過ぎない。ランジョウからすればベルフォレスト以外の人間など信用に値しなかったが、そのベルフォレストから直に紹介されたとあっては無下にもできず、彼を側に置いていたのだ。

 トーマスは執事たちの眼前を横切り真っすぐランジョウの前にやってくると、執事たちが忙しなく椅子やらテーブルの準備を始めた。

「そろそろ殿下もお暇かと思いまして、次の授業に移りたく思います」

トーマスはそう言って用意された椅子に腰を下ろすと、同じく用意されたテーブルに数冊の本を置き、まるで陳列された商品のように並ぶ侍従らに視線を向けた。

「授業の邪魔だ。君たちは外してくれ」

「ですが……」

「私は執政大臣より代行証を預かる身だぞ」

トーマスは黒目から放つ眼光と共にそう告げると、執事らはいそいそと皇太子の部屋から出て行く。

 2人きりになった部屋の中で、トーマスは徐に持ってきた本をランジョウに差し出してきた。それは見たことのない文字で描かれた古びた本だった。

「これは?」

「はっ。この帝国に伝わる神話にございます。古代文字で描かれています故、これからご教授いたします古代文字を活用し翻訳していただければ皇太子様もお楽しみいただけるかと」

「……余にそんなことができると思うか?」

ランジョウは不貞腐れながらそう告げる。
彼自身もB.I.S値の結果から自らが凡才だということをしっかり認識していたのだ。
周囲からの無慈悲で屈辱的な言葉を覆してやりたいと思っても、彼の本質は無能という結果が科学的に証明されてしまっている。プライドが高いランジョウにとってこのどうしようもない事実は屈辱であり何もできない苛立たしさがあった。

 そんな彼にトーマスは無表情のまま漆黒の目を向ける。

「皇太子様。日頃から申し上げていますようにご自身を卑下するのはご自重ください。貴方様は誇り高きガウネリン家の血を引くお方であり、第一皇位継承権を持つお方なのですから」

「……貴様ごときが余に申し立てるな。どうせベルフォレストの差し金だろう」

「私めは皇太子様を……」

「黙れっ!」

ランジョウは勢いよく立ち上がると、彼が腰を下ろしていた重厚でクラシカルな椅子が真後ろに音を立てて倒れる。

 ランジョウは深紅の瞳を炎のごとく燃え上がらせると、微動だにしないトーマスに詰め寄った。

「余は分かっているぞ! 貴様もハンフリーもベアトリスも余を利用しようとしているにすぎん! 大方ベルフォレストに取り入って出世の道を探っているのだろう! 余のことを思い動いてくれているのはベルフォレストだけだ!」

ランジョウは心の丈をぶつける。

 彼にとって上辺だけの敬意を払われるペルソナだらけのこの宮殿は地獄だった。
仮面の下にある自らの卑下する人々の声が彼の心を徐々に蝕んでいったのだ。

まだ12歳の少年である彼を、本来ならば両親が愛情をもって守ってくれたのだろう。

しかし、母な生まれてすぐに亡くなり、父は生まれてから意識が戻らず眠り続けている。
せめて血を分けた兄弟が生きていればこんな仕打ちを受けなかったのかもしれない。
そんなことを考えていると、彼の心の中には寝たきりの父や死んでしまった母と兄に対して憎悪にも似た感情が生まれていた。

 そんなランジョウの荒んだ心を救ってくれたのがベルフォレストだった。
彼は常に敬意と慈しみをもって接していてくれていると感じていたランジョウはベルフォレストにだけは心を許していたのだ。

ベルフォレストだけは他の人間とは違う。
建国以来3000年以上ガウネリン家に付き従うナヤブリ家の人間であるという伝統も加味していたが、時間の合間を縫ってはここを訪ねてくれるその姿にランジョウは安らぎを感じていたのだ。

「……ベルフォレストを……奴を呼んでくれ」

ランジョウは頭を抱えながら思わずその場にへたり込む。
彼の精神状態は限界に近かった。
信用できる人間が近くにいないというだけで人はここまで荒んでしまうのだ。

 「……執政大臣は現在取次が難しゅうございます。だからこそ私めらがこうしてお側にいるのです」

トーマスの言葉にランジョウは再び瞳を燃え上がらせる。
そして力なくゆっくり立ち上がると彼はトーマスの頬を強く殴った。

「余は! ベルフォレストを呼べと命令したのだ! 貴様は余に逆らうのか!」

「……」

ランジョウは怒りに満ちた目で目の前に黙って立つトーマスを見つめる。
彼の口角は腫れあがり、そこからジュラヴァナ人だけが持つ青い血が流れ落ちていた。

 トーマスはそっと目を閉じて俯く。
彼の漆黒の目にはどこか悲し気な雰囲気があったが、怒りに震えるランジョウはそのことに気付かなかった。

「かしこまりました。お取次ぎいたします。よろしければその間にこちらをご一読ください」

トーマスはそう言って腋に持っていた本をテーブルの上に置くと、頭を下げて部屋から出て行った。



 自分にはあと何が必要か?
それは宰相まで上りつめ、今や事実上帝国を支配しているハーレイがいつも考えていることだ。
ヤシマタイトを利用した外交手段によってローズマリー共和国はもはや属国も同然にまでなりつつある。さらに、各惑星間の連携を発展させた事業も好調で、民衆からの支持率もかなり高くなっている。
ここラヴァナロス以外の惑星の知事らも今や彼の顔色を覗う者がほとんどだ。

 しかし、ハーレイはこの帝国で頂点に立てない。
この帝国が帝政の名を謳っている以上、彼が頂点に立つことなどあり得ないのだ。
この皇帝が統治する帝国において、皇帝にありハーレイにないもの……それはこれまでの歴史が紡いできた文化、そして血統という伝統である。
この血統や文化さえも拭い去る何かがあれば……それこそが今ハーレイが最も欲しているものだったのだ。

「(伝統を超えるもの……それは伝承を蘇らせることにある……ククク)」

ハーレイは心の中で思わずほくそ笑む。
生まれた頃は厄介と思っていた2番目の息子がこのような形で役に立つとは思わなかったのだ。

 彼の中でまとまりつつある世界の支持を得る大きな力。
それは神栄教という宗教の力を利用することが大きく関わっていた。
ハーレイが自身の未来予想図に笑みを浮かべる中、宰相室の扉がスライドした。

「失礼します。父上、例の件でご報告があります」

彼の野望を知る数少ない人物である長男キョウガは宰相室に入ってくるなりそう告げると、ハーレイはまたしても微笑んだ。

「お前の顔色を見るに良い報告のようだな」

キョウガは無表情な男だったが、ハーレイは血の繋がりのせいか、もしくは幼少期からその成長も見てきたせいか、僅かな動きの表情筋でキョウガの心理状況を読み取ることができたのだ。

 キョウガはハーレイの予想通り、端からは全くの無表情のまま報告した。

「は。結論から申し上げると上手くいきました」

「そうか。やはり昔からイルバラン家の人間は御しやすいな」

「ザイク様も自覚をお持ちでした。皇族の血を引く男児が今やザイク様とランジョウ様だけである以上、宮内の意見がそうなるのも納得できるのでしょう」

キョウガの言葉は残酷であり的確である。
皆口には出さないが宮殿内においてザイクを支持する者が圧倒的多数であり、ランジョウを皇帝に据えない方がよいという意見が多くあった。
もちろん、そのロビー活動を行ったのはハーレイら宰相派の息が掛かった者だったが……

 ザイク=モウト・イルバランは現皇帝の妹君の息子である。
彼はB.I.S値において高数値を出した秀才である。
父親もルネモルン家と関わりの深いイルバラン財閥の当主であり、父母共に血統的に申し分ない。

 ランジョウではなくザイクを皇帝とするこの計画は古くから始まっていた。
そして今、その計画が1つの結末を迎えようとしていると考えると、ハーレイはどこか達成感のような感情に満たされていた。

「よし、キョウガよ。あとはお前に任せる」

「承知しました。また、皇族派の中枢にも1人スパイを送っておこうかと思いますが」

「好きにせよ。私が円滑に行動できるための手段はお前に一任する」

ハーレイはキョウガに全幅の信頼を置いていた。
世間ではB.I.S値の結果から次男のコウサを崇めていたが、彼にとってコウサではなくキョウガこそが麒麟児だった。
コウサが宗教などにうつつを抜かしているうちに、キョウガはコウサ以上の知略と胆力を身に着けたのだ。そうでなければ、このような恐ろしい計画を思いつくはずもない。

 彼を自らの後継者にすれば自身の一族は永久に安泰となる。
そしていずれは自信の後を継ぎ、この帝国に君臨するのがキョウガなのだとハーレイは確信していた。



 一礼して宰相室を出たキョウガは小さく息を吐く。
そして、懐からケイスガを取り出すと弟であるコウサに連絡を入れた。

『お兄ちゃん。どないしたんや?』

警戒心がないような声で通信に出た弟に、キョウガはいつも通りに冷静にして冷徹な声で言葉を連ねた。

「ザイク様には話を通した。短気で短絡な方だ。今日の皇族のみの晩餐会で何かが起きるだろうな」

キョウガはこの計画の発案者であるコウサにそう告げながら、内心恐ろしく思っていた。
皇族とはこの帝国では伝統と文化を継承する特別な存在である。
その皇族にとって代わろうとする父や自分も大概だろうが、それ以上にコウサは皇族に対する忠誠心が欠落しているような計画を打ち立てたのだ。

「皇族同士で殺させるとは……お前の考えは恐ろしいな」

『何言うてんねん。僕はただ敵同士でぶつかった方が楽やって言っただけやないか』

通信先のコウサはケラケラと笑う。
弟ながら彼の言動は奇々怪々であり、その底は未だ兄のキョウガであっても計り知れなかった。
だからこそ、今回の件ではキョウガにとって合点がいかない箇所があった。

「だがコウサ、仮に今回の件が上手くいったとしてお前に……いや、神栄教になんの利益がある? お前は何を求めている?」

その率直な問いに通話口の先にいるコウサは一瞬沈黙する。
しかし、またいつものように飄々とした笑い声をあげて返答してきた。

『人聞き悪いなぁお兄ちゃん。僕は別にずぅっと損得勘定で動いてるわけちゃうで?』

「……そうか。まぁいい。これからもお前の助言を当てにしているぞ」

キョウガはそう告げて通信を切ると、ケイスガを懐にしまって歩き出した。

 コウサが何を考えているのか、キョウガには何一つわからない。
ただ、1つだけハッキリしていることがある。
コウサという男は決して自分に利益のない無駄なことはしない人物ということだ。



 豪華絢爛と呼ぶに相応しい会場内は、どこか殺伐とした空気が流れている。
晩餐会の主賓であるランジョウは笑みも見せずにテーブルに並べられた一般人には食べ方も分からないであろう料理をジッと眺め、彼の背後には口角を腫らしたトーマスと女性とは思えないほどの体格を持ち、こめかみの角と長い犬歯が光る女性騎士ベアトリスが並び立っていた。

「皇太子様、お口に合いますでしょうか?」

ランジョウの隣に座るハンフリーは会話の糸口を探すべくそう問いかける。しかし、ランジョウは彼の方に一瞥をくれるでもなく、ただ憮然と料理を眺めるだけだった。

「まぁまぁハンフリー殿。良いではないですか」

優雅な口ぶりでそう告げるのはランジョウの伯母ブリリアント=イイチ・イルバランである。その隣には彼女の夫であるミズリーダ=アウロ・イルバランとその息子であるザイク=モウト・イルバランが美しい作法で食材を口に運んでいた。

 この日の晩餐会は皇族が一堂に会する定期的なものである。
しかし、現在皇族はランジョウしか存在せず、そのため皇族から離れイルバラン家に嫁いだ叔母家族と食事を共にすることになっているのだ。
いわばランジョウからすればカビの生えた伝統行事を渋々行っているにすぎなかった。

 黙って食事をしていたザイクはナプキンで口をそっと拭くと、徐にランジョウに問いかけた。

「皇太子様。皇帝陛下のご容体はいかがでしょうか?」

「……余は医者ではない。知りたくば専属医に問うがよいだろう」

ランジョウはぶっきらぼうにそう返すと、ザイクは肩をすくめながら続けた。

「ええ、それが妥当かと思いますが、皇太子様に医学の方へ興味を抱いていただければと思いまして」

「何の為にだ」

「為というわけではございません。医学に限った話ではないのですが、何かしらご趣味を持たれるのもよいかと」

「……何が言いたいのだ?」

ランジョウは鋭い視線をザイクへ送るとザイクは小馬鹿にしたかのような笑みを浮かべた。

「聞けばここ最近皇太子様は城外の学び舎に向かわれることもなく、城内でベルフォレスト執政大臣が選出した者から勉学を学んでいらっしゃるとか」

「……それがどうした?」

「他に趣味を持つことも大事かと。引きこもりの皇太子など聞いたことがありませぬ故」

「おいザイク。言葉を慎まんか」

彼の隣に座るミズリーダは息子を咎めるように口を挟むと、ブリリアントが甲高い声を上げた。

「あら。ザイクの言うことはそんなにおかしいでしょうか?」

すでに60歳近いブリリアントは、その年齢に似つかわしくない色合いのドレスをなびかせながらランジョウの方に視線を移した。

「皇太子様。せっかくの場ですので申し上げさせていただきますが、どうも皇太子様のご評判がよろしくありません」

「そうですか叔母上。余も年甲斐もない色合いの服を着た淑女はみっともないと聞いたことがありますよ?」

ランジョウは目の前のブリリアントをバカにしながらグラスを手に取ると、目の前のブリリアントは顔を真っ赤にして鼻息を荒げた。

「どうやら礼儀というものも習っていないようですねわね」

「クックックッ……まさか息子の教育が行き届いていない叔母上に礼儀教育の注意をされるとはな」

「……!」

「どうなさいました叔母上? 顔が真っ赤ですよ? もしや叔母上にはスコルヴィー人の穢れた血が混ざっているのでは?」

ランジョウは口が達者だった。
彼は相手が最も気にすることを見抜き、神経を逆なでするという特技(褒められたものではないが)があった。

 優雅にグラスに注がれた水を飲んでいたランジョウに対して、ブリリアントは顔をますます紅潮させながら叫んだ。

「ランジョウ! いかに兄上の息子とは言え無礼でしょう! 今の発言は取り消しなさい!」

「ほう? では叔母上の発言もその装いも無礼に当たるのでは?」

ランジョウの更なる追い打ちに、ブリリアントはついにグラスを手に取って彼に水を浴びせようとした!
……が、その水はランジョウの顔を濡らすことはなく、即座に現れたベアトリスが突き出していた盾によって弾かれた。

「……余計な真似はするな」

ランジョウが冷たくそう告げると、ベアトリスは「はっ!」と一言だけ残して再び元の位置に戻っていく。
盾によって塞がれていたランジョウの視界には再び激昂するブリリアントの顔が目に入ると、彼女は歪んだ笑みを浮かべながら口を開いた。

「無礼ですか。わたくしの言葉が?」

「ああ、評判が良くないだの息子が申した引きこもりだの余を侮蔑する言葉が多々見られた。まずはその点を詫びよ」

ランジョウの言葉にブリリアントは胸を張りながら尊大に彼を見下ろすように告げた。

「わたくしは無礼とは思いません。今しがた告げたのは事実ですから。これは貴方のB.I.S値に限った話ではございません」

「余の前でB.I.Sの話はするな!」

それまで冷静だったランジョウは声を上げて立ち上がると、ザイクはまるで嘲笑するかのように口を挟んだ。

「母上。叔母としての慈愛がおありであればはっきりと申してあげれぼよろしいではないですか。ただでさえB.I.S値が低いというのに行動までもが凡庸なのは皇族らしからぬとね。絞りカスと呼ばれる所以を覆す努力をなさっているのですかな?」

「貴様ッ!」

「ほほう? その反応を見るにご自覚があるようですな」

「ザイクッ!!」

気付けばランジョウはテーブルの上に立ち上がり、腰に据えていた正装用のレイピアを抜いてザイクの顔に突き付けていた。

「こ、皇太子様! お気をお静めください!」

オロオロするハンフリーが2人の間に割って入ろうとするが、ランジョウは止まらなかった。いや、止まれなかった。

 ランジョウは怒りに震えながらも目の前でほくそ笑むザイクの顔をどこか冷静に睨んでいた。
ここまで面と向かってコケにされれば陰口よりもマシかと思う時もあったが、実際に言われるとその怒りは抑えようがなかった。

「ザイク=モウト・イルバラン。貴様を不敬罪に処する」

「左様ですか。では私はその判断を不服とし上奏いたしましょう」

その言葉にハンフリーだけでなく背後に立っているトーマスやベアトリス、そしてブリリアント、ミズリーダの表情が一瞬で強張った。
そんな張り詰めた空気の中、ランジョウは狂気に満ちた笑みでザイクの言葉に応えた。

「ほう? 貴様ごときがまだそのような口を叩くか。気に入った。では血闘で決着を付けようではないか」

 ランジョウは振り上げた拳を血闘という結論に落とし込む。
恐らく、皇太子の権限をフルに使えば彼を殺すことなど容易い。
しかし、それでは意味がなかった。
古いしきたりで今や誰も活用したことを聞いたことがないが、この帝国には血闘法というものが存在する。
互いに納得がいかないとあらば、各々自らの手で決着を付けねばならない。
何より両親がいないも同然のランジョウからすれば、自分で決着をつけるという手段はこれから1人で生きていく為には避けては通れない誇りだったのかもしれない。

 ランジョウの提案にザイクは目を見開きながらニヤリと笑った。

「おもしろいですな。では明日の正午に広場で。着用するのはCSでよろしいですかな?」

「好きにせよ。貴様に合わせてやる」

ランジョウは心に決める。
もう沢山なのだ。
ここにいるザイクやその一族も、陰口を叩く宮中の者達も、死んでしまった母や兄でさえも憎くて仕方がない。
自らが皇族に生まれ、B.I.S値が低いというただそれだけでなぜこのような目に合わなければならないのか。
それはこの現状を作った世界全てのせい以外に他ならないのだ。
例えこの血闘で死ぬことになっても構わない。
このような歪んだ世界に未練などあろうはずがないのだから。



 深夜の宮中内を早足で歩きながらベルフォレストは鼻息を荒げていた。
彼が歩を進める度にその巨体からは怒りに近い感情が剥き出しになっているようだった。

「ハンフリー! 貴様に任せたのが間違いだったかッ!」

「も、申し訳ありません! ですが……」

ベルフォレストの激昂に対して、彼の後を追うように走っていたハンフリーは、あたふたしながらも説明しようとする。
しかし、ハンフリーが言葉を発する前にトーマスが意見した。

「執政大臣。此度の件はイルバラン家の方々に原因がございます。皇太子様はご自身の名誉をひどく傷つけられていたのです」

そんなトーマスの意見にベルフォレストは再び激昂しながら目を吊り上げた。

「言い訳を聞く気はない! 無用な事態を避けるために貴様たちを派遣していたのだ! 此度の件はもう良い! 私自ら対処する!」

ベルフォレストの半ば自棄になったかのような口ぶりに対して彼に負けず劣らずの巨体を揺らすベアトリスは表情を変えず冷静に告げた。

「対処と申されましてもいかがなさるおつもりでしょうか? 私もトーマスも、ひいてはハンフリー管理官もザイク様に詫びを入れさせるほかないという考えます。もしくは不敬罪の罪に処するか……」

「旧皇族の方を不敬罪とするわけにもいかん。何しろイルバラン財閥には皇族だけでなく我々も依存するところが大きいというのに! 貴様たちは血闘の件のほとぼりが冷めるまでランジョウ様に近づくことを禁ずる! 追って沙汰を出す故待機しておれ!」

ベルフォレストがそう告げると3人は彼の背後でピタリと止まり、頭を下げて彼の後姿を見送った。

 皇太子室の前に辿り着いたベルフォレストは大きく深呼吸をする。
そして怒りに満ちた表情を徐々に抑え込み、まるで無害な紳士的壮年男性の顔を作り上げるのだ。彼からすればランジョウは幼少期より見てきた子供に過ぎない。時折会いその都度甘い顔を見せれば、大抵の子供から信頼を得ることはできる。
毎日会えばボロが出て、信用を失う可能性があるのだ。
だからこそベルフォレストは極力ランジョウと直接会うことを避けていた。彼から信頼を失うのは今ではない。セルヤマ星にいる真の皇太子を迎えるまでは彼の信頼を取り付けておく必要があるのだ。

 ベルフォレストは柔和な表情を完璧に作り上げると、先程とは打って変わって優しい口調で扉の先に声をかけた。

「ランジョウ様、ベルフォレストです」

「入るがよい」

ベルフォレストは思わず背筋が凍るような寒気に襲われる。扉の向こうから返ってきたのは氷のように冷たい声だったからだ。

 ランジョウを前にする時、ベルフォレストの感情は嘘と本心が入り混じった不思議なものだった。ランジョウのことをB.I.S値の低い保険材料と思いながらも敬愛する皇族の血を引いていることは間違いないおかげで相反する感情が入り混じっていたのだ。
ただ、彼は昔から人目を気にすることにかけては凄まじい対応力を持っていた。
場の空気を読み、逆らってはならない人間には笑顔を振りまき、起きてしまったミスは穏便に解決する。
そんな処世術で彼は執政大臣まで上りつめていたのだ。
そんな彼にとって敵対勢力以外で……ましてや自身の上に立つ人間からこのような冷たい声をかけられたことなどなかった。

 今までにない経験にベルフォレストは生唾を飲み込むと、目の前の扉がスライドして室内が露になる。その光景を見てベルフォレストは再び息を呑む。
皇太子室はまるで強盗が入ったかのように荒れており、ランジョウは上半身裸で中央に設置されたクラシカルな椅子の座面に片足を乗せながら腰を下ろしていたのだ。

 ベルフォレストは部屋の中を見回しながら中に足を踏み入れると、背を向けるランジョウを見つめる。
何とか彼の表情を伺いたかったが、ランジョウから放たれる異様なまでの威圧感にベルフォレストは苦し紛れの作り笑いをすることしかできなかった。

「こ、これはこれは、随分散らかりましたな。模様替えですかな?」

「白々しい冗談はよせ。明日に備えて軽い運動をしただけだ」

背を向けていたランジョウはそう言って立ち上がると、辛うじて形を保っていたグラスを手に取る。
ベルフォレストは慌てて「新しいものを」と言いかけたが、ランジョウはその言葉を待つことなく中に入っていた水を飲み干しグラスを放り投げた。

 床に落ちたグラスは絵にかいたような音を立てて砕け散る。
いつもなら従者が片付けるのだが、そこには2人しかいないのだ。
異様な空気の中、ランジョウはゆっくりと振り返った。

 彼の姿を見てベルフォレストは息を呑んだ。
そこにいたランジョウの姿はおおよそ12歳とは思えないほど引き締まり、まるでアスリートのように美しい筋肉を纏っていたからだ。

「(そ、そんなはずはない……B.I.S値では明らかに下層部だったはずがこのような洗練された姿になるなど……)」

ベルフォレストは混乱によって沈黙していると、ランジョウは不敵に笑いながら口を開いた。

「明日の決闘が何であれ負ける気はせん。不思議なことだが今宵の宴の最中にあの従兄をどう見てもまるで畏怖することはなかった。余の方がすべての面において上だ。明日は余が自ら冥府へと送ってくれる」

何か吹っ切れたかのようなその表情にベルフォレストは恐怖する。
自分よりも小さな体の……ましてや子供にここまで畏怖した記憶など彼にあろうはずがない。
だが、それは恐らく一時の事なのだと自分の心を騙したベルフォレストは、強張った笑みを浮かべながらランジョウに歩み寄った。

「それは素晴らしい。ですが、ザイク様も皇族の中ではかなり優秀なB.I.S値を出されております。皇太子様も無事ではすみませぬぞ? ここは一つ……」

「安心せよ。あのような愚物にくれてやる血は一滴たりともない」

ランジョウは取り付く島もなくそう告げて冷たく笑っている。
恐らく本当に自信があるのだろう。
しかし、ベルフォレストからすれば、それは錯覚であるとしか思えなかった。自身と相手の力量の差、それが分かるのもまた実力者たる所以なのだから。

 ランジョウがここまでくれば引き下がるはずもないだろう。
ベルフォレストは次の策としてザイクを懐柔することも考えたが、先にも言ったように彼の父親が総裁を務める財閥は帝国内で強い影響力を持っている。
となれば穏便に済ませるほかない。

「(仕方あるまい。ザイク様には別の者から連絡を入れておかせるか……)」

ザイクに手加減させれば両者ケガもなく終わるだろう。
ベルフォレストはそう考えながら鏡を見て拳を構えるランジョウを眺めた。
その目にはランジョウが放つ超速の拳も、そして明日迎える悲惨な結末も写っていなかった。



 空は明るく晴れていた。
シルセプター城の中央部に存在する宮廷広場は広大な広さを持ちながら、その周囲を物見が可能な城壁が囲っている。
今日は晴天に恵まれたとはいえ、人の量はいつも以上に多かった。
優雅な装いに身を包んだ格式の高そうな人々が城壁から広場を見下ろしている。
彼らの視線の先には雄々しく立つ1人の青年の姿があった。

 何かに打ち込む前に聞こえる周囲の雑音というのは本来耳障りなもののはずだ。
しかし、今日に限ってザイクには心地いいものになっていた。
何故ならば、今や聞こえる雑音とは周囲が自身に送る賛辞でしかないからだ。

「愚弟様がザイク様に挑むそうだ」

「ザイク様も子供のお相手は大変だろうに」

「噂では執政大臣のナヤブリ卿から手を抜くようにと指示があったとか」

その声が耳に届くたびザイクは大胸筋は蠢かせ上腕三頭筋が膨れ上がらせる。
彼が装着するイルバラン財閥の紋章が刻まれた青いCS(Combat Suit※設定・用語参照)はその膨張に合わせて上下すると、見物に来ていた貴婦人が溜息を漏らしていた。

 裕福な家庭に生まれ育ったザイクはその誰もが羨む血統とB.I.S値に裏付けされた知能と身体能力で今まで何不自由ない生活を過ごしていた。
彼はこれまでの人生で敗北という言葉を知らず、常に中心人物……いわば主人公として生きてきたつもりだ。
だが、今日ほど自分が選ばれた存在だと感じたことはないだろう。

 今や失墜した皇太子の評判、そして理不尽にも決闘を挑まれ渋々承知するも見事打ち破る自分……その光景を思い浮かべれば自分に明るい未来が待っているのか想像するのは容易いことだった。
執政大臣のベルフォレストからは手加減するようにという指示を受けたがそんなつもりはさらさらない。いや、別に手加減しても問題はないだろうが、血闘の最中に不幸な事故が起きてしまうことは仕方がないことだ。
仮に皇族派が動き出したとしても、今や彼のバックには宰相派の錚々たる面々が付いている。最早ザイクには怖いものなどなかった。

 ザイクは金色の髪をかき上げながら周囲から送られる無音の声援に応えていると、皇族が暮らす宮殿領域に繋がる階段方面から声が響き渡った。

「皇太子様だ」

1人の貴族の声を合図に、今までザイクに注がれていた視線が一斉に移動する。
宮殿から広場に繋がる階段をゆっくりと降りてくるその姿は、純白のCSに身を包んだランジョウに間違いなかった。

「(ほう。影武者でも当ててくるかと思ったがそうではないらしいな)」

ザイクは不敵に微笑むと自身より10歳以上幼い皇太子の方に向かって歩を進めた。

「約束の時間どおりですな。皇太子様」

「上に立つ者ではあるが時間は守ろうと思ってな」

 ザイクの言葉にランジョウは無表情のままだ。
そんな彼の動きを見てザイクは思わず吹き出しそうになっていた。
ランジョウの動きは無警戒であり覇気というものが感じられなかったのだ。
戦闘訓練も一通り受けていると聞いていたが、どうやらザイクが受けてきたものと違い、ランジョウは粗末な訓練しか受けていなかったらしい。

「(いや、どれだけ良い訓練でも、あのB.I.S値では無意味か)」

ザイクは目の前に立つ皇太子を敢えて見下ろすように睨みつける。
その眼光から目を逸らさないところだけは認めてもよかったが、相手との力量差を見抜けない彼の無能さにザイクは滑稽を通り越して憐れみさえ感じていた。

 決闘の開始時間として設定した正午が迫る。
時間を確認したザイクは不遜な笑みのままランジョウに問いかけた。

「では、お手合わせ願いましょうか」

「ザイクよ。死んでも恨むなよ。むしろ余の手で果てることを光栄に思うがよい」

「クハハ。皇太子様も冥府に向かわれてから私めをお恨みになりませぬように」

ザイクは思わず笑い声をあげてからそう答える。
向かい合った2人は首元のスイッチを押すと、収納されていた伸縮性ヘルメットが後頭部から飛び出して頭を包み込む。
2人は互いに構えたレイピアを交差させると一度距離を取り構えに入った。

 静寂が広場を包む中、わずかにそよぐ風の音だけが小さく響き渡る。
城壁の上から眺める人々も息を呑み、広場の中央で向かい合う若者2人に視線を注いでいた。

 シルセプター城の時計台が正午を差した時、城内に鐘が鳴り響いた。

鐘の音と共にザイクは目を見開き、左足を踏み込んでランジョウとの距離を一気に詰めた。
左足のスラスターの起動力も相まって、踏み込んだ右足は地面に大きな地割れを引き起こし、静寂に包まれていた広場は轟音と悲鳴にも似たどよめきが響き渡る。
これこそ彼が学生時代から多くの猛者を打ち破ってきた先制初手突きである。

 ザイクは土煙でかすむ撃ち抜いた右腕の先を見据える。
もちろん手応え的にも流石にこの一撃で仕留められるとは思ってなどいないが、土煙の先にある光景を予測しているとどうにも笑みを抑えることが出来なかった。

「(ククク……並みの剣士でも今の踏み込みは怯む。愚弟様は尻もちでもついているかな?)」

土煙が収まっていく。
その場で倒れこむランジョウの姿を想像しながらザイクは体制を整えると、土煙は小さな風によって徐々に収まっていった。



 動きを見てまさかと思ったが、当たり前すぎる行動にランジョウは少し驚いていた。
ザイクが踏み出した瞬間、ランジョウの頭の中に描かれたザイクの行動予測は剣先を上げて際どい攻撃箇所を狙ってくるか、踏み込んだ右足で方向を変えてフェイント左右後方のいずれかに飛ぶかというものだった。
しかし、ザイクはランジョウにとって最もあり得ない普通の突きを繰り出してきたのだ。

「(……この男……遊んでいるのか?)」

土煙を上げて姿をくらますという愚策もそうだが、1つ1つの動作が遅く何より雑だ。

――この程度の動きしかできないザイクは何故こうも自信に満ちているのか?

ランジョウには理解できなかった。
挙句の果てに、彼は土煙が収まるまで微動だにせず、さらにランジョウの姿さえも捉えていないようだったのだ。
おかげでランジョウは土煙の中を悠然と移動し彼の眼前にまですでに距離を詰めていた。

「……一撃目を放てばもう終わりか?」

ランジョウも仕方なくザイクに合わせて土煙が収まるのを待ってからそう告げると、眼前にいたザイクは驚いたようにヘルメット越しからも分かるほどの「ひっ」という情けない声を上げる。

 慌てて距離を取ろうとするザイクに対して、ランジョウは彼の間合いを取らせることなくピッタリと密着し移動すると、ザイクが放つ間抜けな声が耳に届いた。

「な、ふ、振り切れない!」

恐らく彼なりの工夫なのだろう。
ザイクは見え見えのフェイントをかけてくるが、ランジョウは全て見透かしたかのように彼と一定の距離を保っていた。

「相手の動きを予測するのは基礎中の基礎であろう?」

ランジョウは彼に聞こえるようにそう囁くと、ザイクは「くッ!」と悔しさを滲ませた舌打ちし、またしてもランジョウにとって予想通りの行動に入った。
スラスターを全開にして後方へと飛ぶザイクの姿を目で追いながら、ランジョウは呆れたように、そして助言のように呟いた。

「間合いを詰められたら距離を取る。基本だからこそ読みやすい」

ランジョウはザイクの落下地点を予測して両足のスラスターを起動させる。
そして予想通りの場所に降りてきたザイクにランジョウはレイピアで斬撃を浴びせ続けた!

「分かるか? 一撃目が済めば次の行動を考えねばならん。間合いを詰めるか距離をとるか、もしくは第二撃目を放つか」

ランジョウは無慈悲に攻撃の手を済めず目にも止まらない連撃を繰り出す。
ザイクは何とか数撃をいなすことはできても、ところどころで攻撃を受け、徐々に彼の纏う美しい青いCSには火花と同時に深い傷が刻まれていった。

「どうした? 余を冥府へ送るのではなかったのか?」

ランジョウはまるで相手にならないこの目の前の男が今まで散々侮辱してきたことを思い返し、一撃一撃に明確な殺意を込めて斬り刻んでいく。
これまでの言葉を同格の人間が言っていたならばまだ耐える事は出来ても、ここまで弱く脆い格下の存在に卑下されていたと思うと彼の怒りは沸々と煮え上がっていったのだ。

 ランジョウが放つ斬撃はやがて青いCSを貫き、刻まれたザイクの鎧の隙間からは彼の鮮血と呻き声が響き渡る。
その悍ましい無慈悲な光景に周囲は思わず目を背け、中には目を背ける人々も少なくなく、彼の母親であるブリリアントは悲鳴を上げていた。

「……ザイクよ。余の最後の慈悲だ。一度だけチャンスをくれてやる」

ランジョウはそう告げてレイピアを切り上げると、ザイクの纏う青いCSは打ち上げられたかのように宙に舞った。

 宙に舞うザイクは両足と背部のスラスターを起動して姿勢制御を試みていた。
彼が姿勢を立て直そうとしていることがランジョウには手に取るように分かる。

ここで彼が逃げるならば見逃そうかとも思ったが、どうやらザイクは未だ戦おうとしているらしい。恐らく、見下していたランジョウにこうまでコケにされて逃げることなどできなかったのだろう。

「貴様ごときにもプライドはまだあったようだな」

ランジョウはヘルメットの中で悪魔のような笑みを浮かべる。

――これで心置きなくこの男を殺せる。

空中でようやく体勢を立て直したザイクめがけて、ランジョウはスラスターを起動させて一気に彼に斬りかかった!

 海陽の日差しの中に鮮血が舞う。
青いCSは為す術なく胴を切り裂かれ、広場には血の海が降り注いだ。

 広場で血闘の行く末を見守っていた人々はいつの間にか沈黙し静寂に包まれる。
彼らの目に映るのは切り裂かれ最早CSとしての機能をなしていない“何か”が無残に地上へと墜ちていく光景だった。
やがて静寂の広場に金属の落下音と有機物が潰れるような気色悪い音が響き渡る。
無残に崩れ去った青いCSの上には純白のCSがまるで神のように降り立っていた。

 倒れるザイクの前に降り立ったランジョウは、首元のスイッチを押してヘルメットを収納すると、レイピアでザイクの首元のスイッチを押し彼の顔を露にした。

「まだやるかね」

ザイクの素顔は戦う前の美しさを忘れたかのように無残に崩れ血に染まっていた。
彼は朦朧としているのかかろうじてある意識の中声を振り絞った。

「な、何をした……一体どんなCSを……」

「愚かな……自らの無力を装備のせいにするか。CSに差など無い。これは単純な余と貴様の実力差だ」

「ば、バカな……搾りカスなどにこの私が……」

「……」

彼の暴言にランジョウはレイピアを差し向ける。
すると、ザイクは「ひぃっ!」と悲鳴を上げ、初めて恐怖の表情をランジョウへ向けた。

「こ、皇太子様……わ、私めの負けにございます……ど、どうかここは」

「ザイクよ。貴様は我が従兄である。本来ならば余も数少ない肉親とこうして刃を交えるような真似などしたくはない」

ランジョウは冷たい目で無表情のままそう告げると、レイピアをザイクの眉間のそっと当てた。

「だが、貴様は皇太子たる余を侮辱するだけでなく、宰相派と繋がり皇位を狙ったという情報を得ているのだ……」

ランジョウの言葉を聞いたザイクは目を見開くと同時に苦悶の表情を浮かべる。
レイピアは徐々に彼の眉間へと食い込み、そこからさらなる血が溢れ出していた。

「……ザイクよ。余は寛大な男だ。今よが告げた貴様のこれまでの不作法も目を瞑ってやらんでもない。だが……貴様はたった今またしても余を愚弄したな?」

レイピアが撓るように彼のザイクの眉間に食い込む。
周囲からは悲鳴が巻き起こり、ブリリアントらしき女性の「ザイク!」「お慈悲を!」と叫ぶ声が響いている。

「ザイクよ。貴様を不敬罪で死刑に処す。安心せよ。貴様の母もすぐにそちらへ送ってやる」

ランジョウはそう告げると一気に力を込め、レイピアはザイクの眉間を貫通した。

 ランジョウの顔に血しぶきが降りかかる。
時刻は12時07分。
僅かな時間で終わった血闘は人々に鮮烈な印象を与えた。

ランジョウは戦いが始まって初めて笑顔を見せる。
その返り血を浴びたその笑顔はまさに狂気に満ちた笑顔だった。



 ザイクの断末魔が静寂の宮中内に響き渡る。
その瞬間、ブリリアントは卒倒し侍従らに抱えられていた。

 静寂に包まれていた広場の中で、ベルフォレストはハッと我に返る。
愚弟であるランジョウがかつて武術会で優勝を治めたザイクを打ち破るなど起こりえない話である。だからこそベルフォレストはすぐさま1つの結論に辿り着いたのだ。

「医者を呼べ! 早く!」

静寂を打ち破るようにベルフォレストが口火を切る。

 彼の怒号にも近い指示に我に返った者たちは、慌てふためきながら駆けずり回り、ベルフォレストはさらに指示を出した。

「下に降りる! 警備兵! 拘束の準備をせよ!」

「は?」

「拘束の準備をせよと申したのだっ!」

ベルフォレストの言葉に疑問を感じていた警備兵らだったが、彼の剣幕に押されて言われるがまま拘束具を手に彼に付き従った。

 城壁から広場に辿り着くと、血の海の中で絶命するザイクを見下ろしていたランジョウは冷たく笑っていた。
その光景にベルフォレストは昨晩と同様の恐怖心を抱いたが、それを振り払って彼との距離を詰める。するとベルフォレストの存在に気付いたランジョウはザイクを見下ろしたまま口を開いた。

「どうだベルフォレスト。余の言った通りであっただろう?」

その笑みにベルフォレストは戦慄する。普通の人間が人を殺した後にこのように笑えるはずがない。

「(かの皇太子は愚弟ではない。狂気に満ちた異端児だ)」

 ベルフォレストは決意した目でランジョウを見据える。
たとえ形式上とはいえ、彼に皇位を継がせるという設定の続けるわけにはいかない。このような狂人を皇帝に据えると公表していては、いずれ皇族派の盤石も揺るがすことになりかねない。
どれだけ危険であろうと優秀な兄君をこちらに戻すほかないのだ。

「皇太子様……いや、ランジョウ様。いささかやりすぎましたな」

「……不敬罪の処刑がやりすぎか? いや、それ以前にこれは血闘だ。法の下で行われた純然たる私刑なのだ」

「分かりませぬか? 私がこの血闘において行っていたことを……ランジョウ様のお命をお守りするため、ザイク様に手加減を行うようお願い申していたのです」

「……知っている。だが、彼奴は手加減をする余裕などなかった。ベルフォレストよ。文官としての能力に長けたお主でもあの戦いぶりを見ればどちらに分があったか……」

「気付いておられないのですね。ご自身とザイク様の差というものを」

「……? ベルフォレスト? そちは何を言っている……?」

ランジョウの言葉を遮りベルフォレストはかぶりを振る。

 純然たる戦闘で強者にたまたま勝てることなど万が一にもない。
武術を嗜まないベルフォレストでもそれくらいは理解していた。
ならばランジョウが今回勝てたのは、彼がザイクの手加減や、彼のCSに“起きていたであろう故障”に気付かなかったに違いないのだ。
そうでなくば、B.I.S値に大きな差がある両社の勝敗が覆ることなどあり得ない。

 ベルフォレストはランジョウへの視線を皇族の者から犯罪者へ向ける視線へと切り替えると、ランジョウは今まで見せたことのない絶望感に満ちた表情を浮かべていた。
しかし、ベルフォレストの目にはそんなものは写らない。
彼の目には写るのは帝国の未来を揺るがす悪逆の皇族でしかなかったのだ。

「皇太子は乱心を起こされた! よって執政大臣の名をもって皇太子を拘束する!」

彼の言葉に周囲はどよめきを上げる。そして徐々に小声で話す何者かの声が響き渡った。

「そうか……恐らくザイク様のCSは故障を」

「なるほど、それならば合点がいく」

「愚弟が猛者に敵う筈がない」

それらの声の中、警備兵らは戸惑ったように顔を見合わせていた。

「こ、皇太子様を拘束?」

「いかに愚弟とはいえ皇族の方を……」

戸惑う彼らにベルフォレストは血走った目で檄を飛ばした。

「何度も言わせるな! 拘束せよ!」

ベルフォレストの檄に警備兵らは意を決し、ランジョウに近づき彼を拘束する。

 ランジョウは絶望という名の呆然自失により、抵抗することなくあっさりと捕まった。
その光景は彼が乱心を起こしたと周囲に納得させるには十分なものだった。

「あれほどあっさりと捕まるとは……」

「やはりザイク様は手加減をなさっていたか」

「それに気付きもせぬとは所詮は絞りカスか……」

宮中内に小声の誹謗中傷が入り混じる中、ランジョウは気でも触れたのか急に声を荒げた。

「ベルフォレスト! お主も……貴様もずっとそう思っていたのか! 余は……余は貴様だけは信じていたのに!」

「連行せよ!」

ベルフォレストはランジョウに目をやることなくそう告げる。
ランジョウはベルフォレストの名を絶叫しながら連行されていった。



 「ええもん見せてもろたわ」
塔の中からその光景を眺めていたコウサは思わず微笑む。
すると、彼の横に立っていた長身痩躯の男、ネメシス・ラフレインは感嘆の思いでコウサに告げる。

「君の予測はどうやら正しいようだな」

「お前もそう思うか?」

コウサは笑顔でそう尋ねるとネメシスは彼の隣に立ち頷いた。

「ああ、ランジョウの動きは常人のものをはるかに凌駕している。B.I.S値が低い人間にできるものではない。となれば……」

「ああ、死んだっちゅうんはアホの弟であのランジョウは優秀な兄貴っちゅうことやな」

恐らくコウサはもともとランジョウが死んだはずの兄ということを推測していたのだろう。
ネメシスもその推測には大いに共感を示していたが1つ合点がいかないことがあった。

「しかし、皇族派は何故そんな偽情報を流した? 皇族の支持率が下がるとも思える愚策だぞ? もしや、ベルフォレストも皇帝の座を狙っているのか?」

思いのままの新たな推測を並べるとコウサはニンマリと笑ったまま首を横に振った。

「いや、あのおっさんにそこまでの胆力があるとは思えへん。僕の予想が正しいなら……」

コウサはそこまで言って言葉を止めると、またしても小さくほくそ笑む。
彼が果たしてどれだけ先を見通しているのかはネメシスには分からない。
だからこそ彼はコウサという男に付き従っているのだ。

「ま、とりあえず様子見やな。お兄ちゃんもいろいろ動いとるみたいやし。それを見てから次に進もか」

「ランジョウはどうする?」

「しばらく放っておけばええやろ。ただまぁ……死んだっちゅう愚鈍な弟がホンマに死んどるんやったらやけどなぁ……」

コウサはそう言って口角を上げると後頭部の蓮の花を摩りながら歩きだした。



 「そうか、失敗か」

ハーレイはプレッシャーをかけるようにそう告げるが、音声のみの通信先にいるマッドサイエンティストは彼の圧力など意にも返さないような奇妙な笑い方で答えた。

『フェフェフェ! まぁ長年続けている実験がこうも簡単に完成するはずもないもんね? もしそうならば私もとっくにこの研究は辞めているもんね』

「だが、お前のその成果は私にとって大きな武器になる。そのために貴様らを見逃し予算を割いてやっていることをゆめゆめ忘れるでないぞ」

『もちろんだもんね。とりあえずデータがまだ足りないもんね。次は私の遺伝子をもとに人体の構造からもう一度調べるつもりだもんね』

「好きにするがいい……だが、時間は無限ではないことは忘れるでないぞ」

『フェフェフェ! 心得ているもんね』

通信を切ると、ハーレイは隣にいたキョウガが無表情の奥に不愉快そうな表情を浮かべていること気付き微笑んだ。

「納得いかんか?」

その問いにキョウガはうっすら見えていた不愉快な感情を押し殺し、完全な無表情に戻って答えた。

「宰相閣下のお考えは間違っていないでしょう。ですが、あのノヴァ・ホワイトという男は危険です。そのうち我らではなくこの海陽系全体を揺るがす何かを生み出しそうな気がします」

「考えすぎだ。あの男は根っからの科学者であって、世界をどうこうしようと言う考えは持たん」

ハーレイは心配性のキョウガにそう告げると、心の中でこれからの算段を組み立てる。
ザイクがランジョウに敗れると言うのは予想外だったが、これで皇帝としての支持を得るであろう皇族はいなくなった。

ならば後は誰が皇帝になるか?

それは民衆から支持を得る人物以外他ならないのだ。

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