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未空のバスケ!

葵 希帆

 敗北

「ナイス貴利香」
「これぐらい当然だ」

 茶髪少女と金髪少女は短い言葉とアイコンタクトでやり取りをする。

「ごめん未空」
「気にするな、大丈夫だ」

 茶髪少女のディフェンスについていた未空の幼馴染、和奏が悲痛の声で謝る。
 金髪少女、貴利香のレベルも高いがこのチームは他の二人もレベルが高い。

 今、貴利香からパスを受けた茶髪少女、奈々も動きが俊敏で和奏がずっとマークしていたはずだったのだが、巧みに動きそのディフェンスを振りほどいてのパスの要求だった。
 それに貴利香は奈々を見ないでのパス。さすが幼馴染の絆というべきか。
 ボールが奈々に渡り、和奏がすぐさまディフェンスにつこうよした瞬間、邪魔が入る。

「んっ……」

 和奏は相手の予想外な攻撃に息を呑む。
 ボールをパスした貴利香が、奈々を援護するために和奏の妨害をしたのだ。

 配置的に後ろから奈々、和奏、貴利香、未空の順番だ。
 貴利香が和奏を妨害したと気づいても、すぐに対応できなかった。

「決めろ奈々」
「了解」

 残り六秒。
 奈々はアークの外で片手で構えると、ゴールに向かって狙いを定める。

「させない」

 貴利香に妨害された和奏は慌ててシュートブロックに入る。
 和奏だって下手ではない。
 シュート体勢に入っている奈々に最短距離で近づき、ボールに手を伸ばす。

 未空もシュートする奈々に意識を取られていたせいで、貴利香の存在を一瞬だけ忘れていた。

 それが命取りだった。

「くっ」

 未空は思わず舌打ちをしながら貴利香の方に視線をやった。
 奈々はシュートをすると見せかけて、さらに斜め後方にパスを送る。
 貴利香はジャンプした状態で奈々からのパスを受け取る。

「させるかー」

 未空はすぐさま貴利香の前に立ちはだかり、シュートブロックをするために手を伸ばす。

「未空君、君はまだまだだよ」

 最初に最高到達点に達していた貴利香に今更ジャンプしてシュートブロックしても届くはずがなかった。

 それに加え、貴利香の方が腕の長さも合わせると十センチぐらい高い。

 残り三秒。

 貴利香は少し落胆した声で未空に話しかけると、そのままの姿勢でシュートを放つ。
 空中でボールをもらい、そのまま後方にジャンプをしてするシュート、フェイドアウェイシュートだ。

 貴利香の手から放たれたシュートは未空の指に触れることなく、美しい弧を描きながらゴールへと吸い込まれていく。

 まるで、ゴールがブラックホールになってしまったかのように、一ミリのズレもないシュートだった。

 その瞬間、試合終了のホイッスルが鳴り響く。

 ゲームカウント、二十一対十三。
 未空たちの完敗だった。

「はぁー……はぁー……」

 未空は息を切らし、汗を流しながらただ呆然とゴールを見つめる。

 負けた。

 未空の心に『敗北』の二文字が重くのしかかる。

 また勝てなかった。 

 中学の頃からライバルと認めた少女は、いつも未空の上を行く。
 まるで同じ極の磁石のように、追いついても追いついても決して届かない。

「強くなったな未空君。でもまだまだあたしには勝てないよ」

 放心状態の未空に、最後にシュートを決めた貴利香が一割賞賛し、九割落胆する。
 その言葉を聞いた未空の顔がゆがむ。

 悔しかった。

 毎回毎回、試合で貴利香に負けることが。

 そしてどうしようもない実力差を見せ付けられた時、自分の不甲斐なさが許せなかった。

「悔しそうだな」
「当たり前だ。俺は一度もお前に勝ったことがない」

 貴利香は未空を煽るようなことを言われたので、未空は反射的に貴利香を睨みつける。

「そう荒げるな。あたしはいつまでも待ってるからな。未空君があたしを超えられる日のことを。まっ、そう簡単には超えさせてあげないけどな」

 未空が貴利香をライバルと認めているのと同じに、貴利香も未空のことをライバルと認めていた。

 それが分かるからこそ、悔しいのだ。
 自分の弱さに。

「お疲れ~貴利香。最後ナイシュー」
「奈々も最後のパスのタイミングも完璧だった」
「そりゃーずっと貴利香とは幼馴染だもん。言わなくても分かるよ」
「さすがは奈々だ」

 奈々と合流した貴利香は、勝利を分かち合っている。
 汗でベトベトなはずなのに、貴利香は奈々の活躍を労うかのように頭を撫でている。
 奈々も満更でもない顔で喜んでいる。

「……未空」

 未空の幼馴染の和奏が気まずそうに未空に声をかけてきた。

「悪いな和奏。また負けた」

 未空は相手を責めない口調で淡々と和奏を慰める。
 未空は貴利香に勝つために和奏たちに過酷なトレーニングを強いてきた。
 それでも和奏だけは文句も言わずについてきてくれた。
 それには凄く感謝している。

「ううん。私も奈々先輩を止められなかった」

 和奏は未空だけの責任ではないと首を横に振る。

「……もっと……もっと強くなりてー」

 未空は自分の右手を握りこむ。
 何度コートの上で貴利香より強くなりたいと誓ったのだろう。

 未空、高校一年生の冬。

 公式、非公式合わせて十一戦十一敗。

 未だにその誓いは果たされていない。

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