蒼穹のカナタ パスト

葵 希帆

 姉が生きていた時代の物語

地球に隕石が降り注いだ。

 その隕石には地球にはない物質、マナカリプスという物質が大量に含まれていた。

 そのマナカリプス、通称マナは人間に奇跡の力、魔法を授けた。

 しかしそれが適応できる人間は一部の女性だけ。

 次第に格差が広がっていった。

 そしてその十年後。

 突如見たこともない獣が発生した。
 後に魔獣と呼ばれる化け物だった。

 獣もまたマナに順応できる個体がいたのだ。
 近代の武器である銃やミサイルでは太刀打ちできずにいた。
 それを救ったのは後に魔導聖騎士と呼ばれる、マナに適応した女性の騎士だった。
 魔導聖騎士と魔獣の戦いは年々激化し、数で劣る人間が徐々に劣勢を強いられることになった。

 あれから百年後。

 人間の住処は全盛期の二十分の一まで減っていた。
 人間と魔獣の戦争が百年続いている現在、人間は街に閉じこもり生活していた。

 そこでは人間が地球を支配していた時と変わらない生活基準で生活が行われている。
 電気、水道、ガスはもちろん、食料も賄われている。

 そんな生活を送れているのも全て魔導聖騎士のおかげである。

 魔導聖騎士が命がけで戦ってくれているおかげで、人間はまだ全滅していないのである。



 照り注ぐ暖かな春の日差し。
 まさに入学日和である。

「今日から高校生か。つまり、下界での課外授業や実践ができる」

 蒼井美帆、十五歳。

 これは美帆がまだ生きている高校生の物語である。



「お姉ちゃん、もう学校に行くの」
「すごく張り切ってるね」

 玄関を開け、新鮮な空気を体いっぱい吸い込んでいると双子の兄妹、奏多と美雪がやってくる。

 奏多と美雪は六歳。

 今日から小学生一年生である。

 奏多は小学一年生の男の子ということもあり、やんちゃなところもあるが活発的で元気が良い。

 逆に妹の美雪は大人しいが、奏多と同い年ということもあり遊ぶのもいつも一緒で活発的な女の子に育っている。

「そうよ。だって、今日は入学式だもの」

 美帆は二人を抱えながら自分の喜びを二人に伝える。

 今日は入学式。

 そして高校生。

 今までは無断で下界に行って魔獣を倒していたが、これからは手続きさえすればいつでも下界に行くことができる。
 ちなみに、美帆たちは無断で下界に行くたびに見つかり、大人の人たち数えきれないほど怒られた。

「お姉ちゃんってホント強いよな」
「私もお姉ちゃんのようになりたい」
「俺も」
「でもお兄ちゃんは男の子なんだからマナは使えないでしょ」
「俺だって毎日修行してるんだ。ぜってーお姉ちゃんのように強くなってお姉ちゃんと一緒に戦うんだ」
「二人ともありがと。お姉ちゃん、嬉しい」

 美帆は自分と一緒に戦いたいと言ってくれた二人が嬉しくて思わず抱きしめてしまう。
 美帆は本当に弟と妹のことが大好きなのだ。

 まさに超高校級のブラコン、シスコンである。

 でも美帆は知っている。

 弟の奏多は魔導聖騎士になれないということを。

 約百年前に隕石に付着していたマナカリプスという物質は今も解明はされていないが女性にしか使うことができない。それも一部の女性のみにだ。

 だから奏多は一生マナは使えない。

 でも奏多はまだ小学一年生だ。

 その現実を知るのはもっと後でも良いだろう。

 それに奏多が魔導聖騎士になる、なれないにかかわらずにそんなことを言ってくれるのが嬉しかったから美帆は否定をしなかった。

「……お姉ちゃん苦しい」
「……お姉ちゃんは力が強い」
「ごめんね、二人とも」

 あまりにも可愛すぎて力を入れすぎていたせいで、二人とも美帆の胸の中で窒息しかけていた。

 美帆は慌てて謝りながら二人を地面に下ろす。

「俺たちもついに小学生だな」
「ピカピカの小学生だね」
「終わったら走り込みするぞ、美雪」
「うん、お兄ちゃん。強くなろっ」
「おぉー」

 奏多と美雪はそれぞれ、黒と赤のランドセルを背負って小学校へと向かう。
 本当は一緒に行ってやりたいのだが、高校と小学校は別方向にあり、それに今日は先約がある。

「いってらっしゃい、かなちゃん、ゆきちゃん」

 美帆は二人が見えなくなるまで見送ると、自分も家を出る。

「それじゃー行ってきますか」

 こうして美帆の高校生活が始まった。

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