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自傷少女狂崎狂華の初恋とリスタート

葵 希帆

 赤く染まる教室

 高校生活も残り一年を切った。

 つまり、一年後の今はもうこの高校には通っていない。

 そう思うと、少し郷愁のようなものを学校に感じる。
 夕暮れに染まった学校の廊下。

 そこを佐藤未空は一人歩いていた。

「まさか、教室に忘れ物するなんて馬鹿かよ僕」

 未空は一人ため息をつきながら自分の馬鹿さに呆れていた。

 佐藤未空、高校三年生、ここに通う男子生徒だ。
 身長百七十前半。黒髪の短髪で横の長さは耳にかかっているぐらいの長さである。
 顔立ちはどちらかというと中性的で女装すると女の子に間違われてしまう。
 中肉中背の体型で勉強も中の中、運動も中の中。
 成績表は三か四しかない。
 簡潔に言うと極端にできないことがない代わりに極端にできることもない。
 つまり平々凡々のどこにでもいるような男子高校生である。

 制服は男子は学ランに黒のチェックのスラックス、あとワイシャツに黒と紺と白のネクタイである。女子は紺のブレザーに紺のチェックのスカート、ブラウスに男子と同じネクタイである。

「頑張ってるな~部活」

 高校三年生、つまり今頃未空の同級生は最後の高総体やコンクールに向けて汗を流して頑張っているのだろう。

 未空は帰宅部だ。

 だから、部活に青春を打ち込んでいる生徒を見ると眩しく感じる。

「僕もなにか部活に入っていればもっと青春だったのかな」

 校庭のトラックで百メートル走の練習をしている生徒を見ながら物思いにふける。
 高校一年生の時、特に入りたい部活もなかった未空は帰宅部を選択し、この二年間を過ごしてきた。

 未空は三年生だ。

 もう部活に入るには遅すぎる。

「まっ、優希と彼方がいるから飽きないけど」

 部活に入らなくてもそれなりにこの二年間、楽しかった。
 それはひとえに馬鹿な幼馴染のおかげだった。
 あの二人が毎回問題ごとを持ってきてくれてせい(おかげ)でブラックリストには載ったがそれなりに楽しい日々だった。

「あの野郎、僕が忘れ物したと言った瞬間、僕を馬鹿にしたような目で笑いやがって」

 優希と彼方と帰っている途中、忘れ物に気づいた未空は二人に笑われた。

 それはもう、未空の堪忍袋の緒が切れるぐらい。

 本当にムカつくやつだ。あの二人は。

 でも嫌いじゃない。

「しかも待ってるじゃなくて帰りやがって」

 未空の悪態は止まらない。

 普通友達なら、友達が忘れ物をしたら待っているだろう。

 でも彼らは違う。

 あの二人は平気で未空を置いていく悪魔である。

「まっ、とりあえず、さっさと忘れた宿題を持って帰りますか」

 時刻は四時四十五分。

 もうホームルームが終わり、一時間以上経っている。

 部活に所属している生徒は部活をしている時間帯だし、さすがに一時間も教室で駄弁っている人なんていないだろう。

 その先入観がまずかった。

「くっくっくっ、これは珍しい人が来ましたね」
「……狂崎さん」

 まさか教室に人がいないと思い込んでいた未空は、急に声をかけられて驚きを隠せなかった。

 それだけではない。

 その相手が問題だった。


 狂崎狂華(くるさききょうか)。


 その女子生徒はこの学校の生徒では知らない人いないというぐらいに問題な生徒の名前だった。
 その一番の理由はその左手に巻かれている包帯だそう。
 彼女は別に中二病ではない。その証拠に包帯が血の赤で染められているからだ。
 その赤さは血が苦手な人にはかなりきつい光景だろう。
 未空も真実は知らないがリストカットをしているらしい。
 そのせいでいつも包帯を巻き、流血しているそうだ。
 そんな狂華の身長は百五十半ば、黒髪のセミロングである。
 前髪は目元までかかっており、目が隠れている。
 髪も手入れされていないのかボサボサで到底女子の髪に思えない。

「忘れ物ですか、未空君」
「まぁ~、そんな感じ」

 正直言って、未空は狂華が苦手だった。

 だってそれはそうでしょう。

 左手に血が滲んでいる包帯を巻いているのだ。

 なんのために自分を傷つけているのか分からないが自傷している女子とは普通に理解できない。

 それに自らリストカットしている事実が本当なら本当に意味不明だ。

 今も左手の包帯は真っ赤に滲んでおり、血が床にしたたり落ちている。

 真っ赤な夕焼けに、狂華の血。

 まるで赤色に染められた教室である。

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